インバータドライブ|産業モータを高効率に可変速制御

インバータドライブ

インバータドライブは交流誘導電動機や同期電動機の回転数・トルクを可変周波数電源で制御する電力変換装置である。商用交流(50/60Hz)を整流して直流に変換し、パワー半導体によるスイッチングで任意周波数・電圧の交流を合成することにより、効率的な速度制御と省エネルギー運転を実現する。一般にV/f制御やベクトル制御、モデル予測やDTC(Direct Torque Control)などの制御則を内蔵し、ポンプ・ファン・搬送・工作機械・昇降設備・空調HVACなど広範な用途で用いられる。

基本構成と動作原理

典型的なインバータドライブは①整流回路(ダイオードブリッジやアクティブフロントエンド)、②平滑用DCリンク(電解コンデンサやフィルムキャパシタ、DCリアクトル)、③インバータ段(IGBTやSiC-MOSFETの三相ブリッジ)、④制御回路(マイコン/FPGA、ゲートドライバ、電流・電圧・温度センサ)からなる。PWM(Pulse Width Modulation)でスイッチングし、正弦波に等価な電圧を合成してモータに印加する。スカラー(V/f)では周波数に比例させて電圧を与え磁束一定を保ち、ベクトル制御ではdq座標変換でトルク成分と磁束成分を独立制御する。

制御モードの種類

  • V/f制御:構造が簡潔でコスト低い。ポンプ・ファンなど負荷トルクが二乗則に従う用途に適する。
  • センサレスベクトル制御:回転センサなしで高応答トルクを得る。低速域の推定精度が鍵となる。
  • エンコーダ付きベクトル制御/FOC:静止トルクや低速位置決めに強く、工作機械や巻取りに適する。
  • DTC:トルク・磁束のヒステリシス制御で高応答を実現。スイッチング雑音や電流リップルの扱いが設計課題である。

主要仕様と選定ポイント

  1. 定格容量:モータ定格電流と負荷サイクルから選定し、過負荷性能(150%/60sなど)を確認する。
  2. 直流リンク耐量:サージ・再生エネルギの吸収余裕、コンデンサ寿命(温度・リプル電流)を評価する。
  3. キャリア周波数:高周波ほど電流波形が滑らかになるが損失・EMI・騒音を増大させる。
  4. 保護機能:過電流/過電圧/欠相/接地漏れ/過熱/短絡、STO(Safe Torque Off)など安全機能の有無。
  5. 環境条件:周囲温度、標高、粉塵・油ミスト、IP等級、冷却方式(強制風冷/液冷)。
  6. 規格適合:IEC/JIS、EMC(EN 61800-3)、安全(EN 61800-5-2)、UL、RoHS。

据付・配線とEMC/高調波対策

設置では接地(PE)の低インピーダンス化、モータ側ケーブルのシールド・三相対称配線、制御線のツイストペア・アイソレーションを徹底する。電源側にはラインリアクトルやACフィルタ、モータ側にはdV/dtフィルタや正弦波フィルタを挿入してサージ・軸受電食・放射ノイズを低減する。制御盤では動力線と信号線の離隔、金属ダクトやグランドプレーンの活用が有効である。

高調波抑制の要点

ダイオード整流は5次・7次などの電流高調波を系統へ流出させる。対応策としてACリアクトルや12パルス、アクティブフロントエンド(AFE)によるPFC、パッシブ/アクティブフィルタの導入がある。受電設備の容量・短絡容量、他機器への影響、ガイドライン(例えばIEEE 519に準拠した目標値)を踏まえて設計する。

回生と制動手段

慣性負荷の減速では直流リンク電圧が上昇するため、ブレーキチョッパ+抵抗器で熱消費するか、AFEで系統へ回生する。昇降や巻上げなど四象限運転では回生方式が省エネに寄与する一方、系統側EMCや力率制御の設計が求められる。

機械制動との協調

保持ブレーキや機械式クラッチを併用する場合、STO信号とブレーキ開閉のシーケンス設計、非常停止時の惰性走行距離評価、トルクゼロ化時間の再現性確保が重要である。

パラメータ設定とチューニング

  • モータ定数:定格電圧・電流・周波数・極数・効率・力率、一次抵抗や漏れリアクタンスを入力する。
  • 自己同定/オートチューン:無負荷/静止でのインピーダンス測定や回転試験で推定精度を高める。
  • 速度・トルク応答:PIゲイン、電流制御帯域、速度フィードフォワード、スルーレートを調整する。
  • 保護しきい値:過電流、過電圧、再起動禁止、サーマルモデルによる過熱保護を適正化。

モータ適合とケーブル影響

誘導機(IM)と同期機(PMSM/BLDC)では制御器設計とエンコーダ要件が異なる。長尺ケーブルや高dV/dtはコモンモード電流を増やし、軸受電食や絶縁ストレスの要因となるため、コモンモードチョーク、軸電流対策(絶縁ベアリング/アースブラシ)、正弦波フィルタを検討する。

代表的用途と効果

  • ポンプ・ファン:流量は回転数に比例、消費電力は回転数の三乗に依存し、省エネ効果が大きい。
  • 搬送・巻取り:張力制御や位置同期、踊り抑制のため高応答トルクが必要。
  • 工作機械:主軸・送り軸の高速応答と表面粗さの両立、異音・チャタリング低減が課題。
  • 空調HVAC:夜間低負荷時の省電力、ソフトスタートで突入電流を低減し設備寿命を延ばす。

保全・診断とデジタル連携

インバータドライブは異常コード、波形トレース、スイッチング損失やコンデンサ劣化の推定寿命を提供する。通信はRS-485(Modbus)、Ethernet/IP、PROFINET、CC-Link IEなどを備え、SCADAやDCS、PLCと接続して遠隔監視や予兆保全に活用できる。熱設計、冷却ファン・コンデンサの交換周期、ファーム更新やサイバーセキュリティ(アクセス制御)も運用項目である。

安全と機能安全

機械安全ではカテゴリ/PLやSILに基づく回路設計が求められ、STO、SS1、SS2、SLS、SBCなどの機能安全機能が提供される場合がある。非常停止(E-Stop)系統は二重化し、電源喪失時の挙動、過速検出、外乱時のフェイルセーフ設計を明確にする。

実務的な設計チェックリスト

  • 系統:短絡容量・高調波許容、漏れ電流と保護継電器整合。
  • 熱:盤内温度・風量、周囲環境(油・粉塵・腐食性ガス)。
  • EMC:ケーブル端末の360°シールド接地、フィルタの接地面積最小化。
  • 試運転:無負荷→部分負荷→全負荷の段階試験、波形・温度・騒音の記録。

用語メモ

  • PWM:搬送波と指令正弦でデューティを生成する変調方式。
  • ベクトル制御:dq変換でトルク・磁束を独立に制御。
  • AFE:双方向コンバータで力率1かつ回生可能。
  • STO:トルク発生を安全に遮断する機能。