同軸ケーブル
同軸ケーブルは、中心導体とそれを同心円状に取り囲む金属シールド導体(編組や箔)、両者を隔てる絶縁体(誘電体)、および外装シースからなる高周波用伝送線である。両導体が共通軸(co-axis)上に配置されることで外来電磁ノイズの影響を受けにくく、また外部への放射も小さい。特性インピーダンスが規定され、50Ω系(無線・計測)や75Ω系(放送・映像)が代表的である。伝搬は主としてTEMモードで生じ、周波数が上がるほど表皮効果や誘電体損失の影響が増すため、線材・構造の選定が性能を左右する。
構造と原理
同軸ケーブルは、中心導体(単線または撚り線)、誘電体(実体PE、発泡PE、PTFEなど)、シールド導体(編組、金属箔、二重または三重シールド)、外装(PVC、PE、FEPなど)で構成される。円筒対称な幾何により電界は中心導体から外部導体内面へ放射状、磁界は同心円状に分布し、外装外側の界は理想的には打ち消し合う。これにより低漏話・低放射が得られる。
特性インピーダンスと設計式
特性インピーダンスZ0は導体半径と誘電率に依存し、理想円形ではおおむね Z0≈(138/√εr)log10(b/a) と表される(a:中心導体半径、b:外部導体内半径、εr:誘電体の比誘電率)。50Ωは電力伝送と減衰の妥協点、75Ωは低損失に有利とされる。VSWR(電圧定在波比)やリターンロスは整合の良否を示す重要指標であり、機器・コネクタを含めた終端整合が不可欠である。
周波数特性と減衰メカニズム
減衰は導体損失(表皮効果により周波数の平方根に概ね比例)、誘電体損失(tanδに比例)、放射・漏れ(シールド不完全、曲げ・クラック)などで決まる。発泡PEは実体PEより低εrかつ低損失で軽量、PTFEは高温・広帯域に適する。速度係数(伝搬速度/光速)は誘電率に依存し、実体PEで約0.66、発泡PEで0.78程度が目安である。長距離・高周波では、線種(RG系、低損失タイプ、セミリジッド)や径の最適化が重要である。
シールド性能とEMC
シールドは編組の被覆率、箔の連続性、多層化で性能が変わる。転移インピーダンス(transfer impedance)はシールドを貫く電流結合の指標で、小さいほど優秀である。二重シールド(編組+箔)や高密度編組は高い遮へい効果を示し、外来ノイズ環境や送信機周辺で有効である。接地は片側・両側の方針を系統設計に合わせて選び、グラウンドループを避ける。コネクタ周辺の360°シールド接続の確実化もEMCの要点である。
コネクタとインターフェース
代表的コネクタにはBNC(迅速着脱・50/75Ω)、N(中電力・測定系)、SMA(マイクロ波)、F(CATV)、UHF、7/16 DIN(高電力・基地局)などがある。各コネクタは規定インピーダンス・周波数帯・機械強度が異なる。圧着(crimp)・圧接・はんだ付けなどの加工方法はメーカー規定の手順・専用工具・規定寸法を守ることが肝要で、わずかな芯線突出や編組の毛羽立ちがVSWR悪化や雑音源になる。
用途と代表例
- 無線通信:送受信機とアンテナ間の給電線、同軸給電器、分配・結合器接続
- 放送・映像:CATV・地上波・衛星配線、スタジオ内ルーティング、75ΩBNC映像伝送
- 計測:ネットワークアナライザ、スペアナ、オシロスコープの高周波プロービング
- 監視・産業:CCTV、産業カメラ、医療機器・試験設備内のノイズ耐性配線
- 車載・基地局:低損失ケーブルやセミリジッドによる安定給電と耐環境
選定指針
選定では、周波数帯・必要長・許容減衰・曲げ条件・環境(温湿度、油薬品、屋外紫外)・耐電力・規格適合(JIS、IEC、UL等)を総合評価する。長距離や高周波では低損失タイプや太径が有利だが、取り回しや重量とのトレードオフがある。測定用途では位相安定・温度安定の明示スペックが有用で、放送配線では75Ωの厳格整合と群遅延特性が画質・同期に効く。屋外は耐候外装と防水ブーツ、自己融着テープで浸水を防ぐ。
施工・取り扱いの要点
- 最小曲げ半径を厳守し、繰返し屈曲や引張荷重を避ける
- 端末加工時の芯線長・編組処理・フェルール圧着条件を規定どおりにする
- 屋外接続部の防水・防食処理、ドレンループで水侵入を抑止
- 束線時は過度な締付けを避け、熱源・強電線から距離をとる
- 敷設後はTDRやスイープで減衰・リターンロスを確認する
測定・評価指標
主な指標は、減衰量(dB/100mまたはdB/km)、リターンロス(dB)、VSWR、位相安定性(ppm/℃)、遮へい効果(dB)、転移インピーダンス(mΩ/m)、耐電力(W)、耐電圧(kV)、速度係数などである。ネットワークアナライザによるS11/S21測定、TDRによる不連続点特定、タイムアライメント用途での群遅延測定が実務的である。品質管理ではロット間ばらつきや端末加工再現性の評価が重要になる。
バリエーションと特殊構造
低損失・発泡誘電体タイプ、二重・三重シールド、セミリジッド(金属外導体で形状保持)、フレキシブル低位相変動、耐熱・耐油外装、難燃・低発煙仕様、ドアスロット通過用の極薄フラット同軸など、用途に応じた派生が存在する。高出力では太径と放熱性が求められ、マイクロ波ではSMA/3.5mm/2.92mm対応の位相・振幅安定ケーブルが選ばれる。
設計・運用上の留意点
同軸ケーブルの性能は系として決まる。ケーブル、コネクタ、分配器・アッテネータ・フィルタなどの受動部品、機器のポート整合、敷設条件が相互に影響する。高周波ではわずかな段差や誘電体の乱れが反射を招くため、コネクタの選定・取り付け精度・清浄管理を徹底することが望ましい。ライフサイクルでは定期点検(目視、Sパラ再測)を行い、被覆のひび割れやコネクタ緩み、浸水痕跡を早期に是正する。
コメント(β版)