対撚り
対撚りは、二本の導体(線心)を一定ピッチで互いに撚り合わせ、外来ノイズの打消しと相互結合の均質化を図る配線技術である。平行二線に比べ、近接する空間に対する電界・磁界の位相反転が生じるため、誘導ノイズの総和を低減できる。通信、計装、制御、データ伝送、音響、車載ワイヤハーネスなど広範な用途で採用され、カテゴリ化(例:Cat.5e/Cat.6A)や差動伝送(例:LVDS、CAN、Ethernet)において基本構造となる。電磁適合性(EMC)の観点では、撚りピッチ、ペア間のレイアップ、シールドの有無が伝送路の特性インピーダンス、近端/遠端漏話、放射エミッションに影響する。
定義と目的
対撚りとは、二本の絶縁導体を均一な角速度で螺旋状に組み、対称形の二線式回路を構成することをいう。目的は、(1)誘導ノイズの自己打消し、(2)線間容量と相互インダクタンスの均一化、(3)外来電磁界に対する受信面積の縮小、(4)機械的な柔軟性と耐振性の向上である。撚りによって回路は平衡(バランス)化され、差動信号の共通モード耐性が増す。
幾何学と撚りピッチ
撚りピッチ(lay length)は一回転あたりの軸方向長さで定義する。短ピッチは結合の周期性を高め、近傍ノイズの平均化に有利だが、製造応力の増加や曲げ剛性上昇を伴う。撚り率(twist rate)や撚り方向(S/Z)は多対ケーブルでは意図的にばらして混信(crosstalk)の相殺を図る。ペア間のピッチ差(lay variation)は、信号間の相関を下げ、特に近端漏話(NEXT)を抑えるのに有効である。
電気的特性:静電・電磁の抑制機構
差動二線は電荷分布が反対符号となるため、外部に対する電界は空間平均で小さくなる。磁界についても、撚りによりループ面積が周期反転し、誘導起電力が平均化して低減される。結果として、共通モードノイズの受容が小さく、放射エミッションも抑えられる。線間容量C、相互インダクタンスM、特性インピーダンスZ0は絶縁体の比誘電率、導体径、心線間距離、撚りピッチに依存し、広帯域用途では目標Z0(例:100 Ω差動)に合わせて設計する。
通信線・制御線での適用
対撚りペアはEthernet、RS-485、CAN、LIN、Profibus、I2C(バス配線の物理層工夫を含む)、音声バランス伝送などで用いられる。UTP(非シールド)とSTP/ScTP(シールド付)は設置環境のEMIレベルや接地方式で選定する。ビル内配線ではISO/IEC 11801やANSI/TIA-568に基づき、カテゴリ別に周波数帯域と漏話限界が規定される。
機械的特性と耐久性
撚り構造は曲げ繰返し時の局所ひずみ集中を分散し、可とう性と耐振動性を高める。一方で過度な短ピッチは残留トルクを増やし、敷設後の反りやより戻りを生むことがある。外被とフィラーの選定により円形度を保ち、ペアの幾何学を保持することが長期特性の安定に寄与する。
製造工程と品質管理
導体撚線→絶縁押出→ペア撚り→集合撚り→シールド→外被押出の順で構成する。撚り機の回転数制御、張力制御、温度管理がピッチ均一性と同心度に直結する。オンラインでのキャパシタンス、直流抵抗、偏心率の測定、完成後の伝送特性(RL、IL、NEXT、FEXT、PSANEXTなど)評価が不可欠である。
設計指針:ピッチ、ペア数、シールド併用
- ピッチ:目標帯域と許容曲げ条件から最短許容ピッチを設定する。
- ペア数:多対ではペアごとに異なるピッチを配し、集合撚りの位相を最適化する。
- シールド:共通モード抑制や外来強電界での耐性が必要なら編組/箔を併用する。
- 接地:シールドは片端/両端接地の方式を系統EMCとグランドループのリスクで決める。
規格と測定
ビル内配線はISO/IEC 11801、ANSI/TIA-568系、試験はIEC 61935シリーズが参照される。絶縁、耐電圧、難燃はIEC 60332、UL 444等が対象となることが多い。国内用途ではJISに準拠した導体寸法、許容抵抗、絶縁厚さ、難燃性の確認が行われる。
応用例
高速データ(10GBASE-T、PoE併用)、産業用フィールドバス、ロボットの可動配線、音響のバランスライン、医療機器の計測線、車載のCAN-FD/100BASE-T1などで対撚りは標準技術となっている。可動用途では撚りピッチと撚り方向の繰返しパターンを工夫し、連続曲げ耐性を確保する。
注意点とトラブルシュート
- ばらし長(ツイスト解除長)の過大で漏話・RL悪化。端末処理では最短化を徹底する。
- 異常曲げ・結束締め過ぎで幾何学が崩れ、Z0と減衰が劣化する。
- シールド浮遊や誤接地により共通モードが増幅されることがある。
- 異種ペア混在はペア間結合を悪化させるため、レイアップ設計を統一する。
歴史的背景
電話線での長距離伝送において、平行二線の誘導障害が深刻であったため、19世紀末から対撚りが普及した。後に多対ケーブルに発展し、ピッチ差の最適化や紙絶縁から高分子絶縁への転換を経て、現在のUTP/FTPへ至っている。
用語の混同
撚線(導体素線のより合わせ)と対撚り(絶縁後の二心より)は段階が異なる。さらに集合撚り(ケーブル化)や同軸構造、スターカッドなどの特殊対称配置と区別して運用することが重要である。
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