BMS
BMS(Battery Management System)は、二次電池パックの状態監視・保護・最適制御を担う組込みシステムである。セル電圧・電流・温度を高精度に計測し、充放電の安全域を維持しながら寿命・出力・効率のトレードオフを最適化する。推定アルゴリズムによりSOC(残容量)・SOH(健全度)・SOF(出力可能度)を算出し、コンタクタ制御や冷却制御、充電器との連携、異常時のフェイルセーフを実行する。自動車(xEV)から定置型蓄電システム(ESS)、産業機器、UPS、ドローンまで用途は広いが、基本設計思想は「正確な状態推定」「迅速な保護」「劣化抑制」に集約される。
役割と基本機能
BMSの中核は①計測(セル電圧、パック電流、各点温度、絶縁抵抗)、②推定(SOC・SOH・SOF)、③制御(コンタクタ、プリチャージ、冷却系、セルバランス)、④通信(CAN、LIN、Ethernetなど)である。異常(過充電・過放電・過電流・過温・絶縁低下)を検知すると安全回路を作動させ、必要に応じてシステムを遮断する。ログ保全と自己診断(DTC)も重要で、原因追跡と予防保全に資する。
アーキテクチャ
構成は中央集約型(1基のコントローラで全セル監視)、モジュール分散型(CMU/Slaveが各モジュールを監視しMasterが統括)、完全分散型(各セルに監視IC)の3類型が代表的である。高電圧系ではプリチャージ回路とメインコンタクタ、HVIL(高電圧インタロック)により着脱・保守時の安全を担保する。計測ICはmV級分解能とμV/℃の温度ドリフト特性が求められる。
計測と推定(SOC・SOH・SOF)
SOCはクーロン積算とOCV(開回路電圧)参照、温度補正、等価回路モデル(Thevenin型RC)と拡張カルマンフィルタの融合で高精度化する。SOHは容量・内部抵抗・拡散係数の変化を指標とし、カレンダー劣化とサイクル劣化の分離推定を行う。SOFは温度・SOC・内部抵抗から瞬時許容入出力を算出し、インバータや充電器に指示値を提供する。
保護・安全機能
過充電・過放電・過電流・短絡・過温・低温充電・セル電圧急変・絶縁低下を多段閾値(警告→制限→遮断)で扱う。遮断はコンタクタとプリチャージ抵抗の協調制御で行い、サージやアークを抑制する。機能安全ではASIL/PLに応じた診断(センサ冗長、ロジック監視、通信監視、クロック監視)を設計し、フェイルサイレントまたはフェイルオペレーショナルを選択する。
セルバランス
バランスは受動式(抵抗放熱)と能動式(インダクタ/キャパシタ移送)がある。受動式は回路簡素・低コストだが熱設計が要点で、能動式は往復効率が高く大容量パックや急速充電で有利である。開始条件は電圧差・SOC差・温度・充放電状態(特に定電圧充電終盤)を組合せ、セル寿命と時間を両立させる。
受動式と能動式の選定指針
高エネルギー密度・高C充電・長寿命要求では能動式、コスト重視・中小規模では受動式が採用される傾向にある。ただし筐体内の熱拡散・騒音・EMI対策も含めシステム最適で判断する。
熱マネジメント
セル温度の均一化は内部抵抗と劣化ばらつきを抑える鍵である。空冷・液冷・冷媒直膨などを用い、放熱経路(サーマルパッド、銅バスバー、冷却プレート)を設計する。BMSは温度場モデルに基づきポンプやファンを制御し、急速充電時はセル温度の上昇を予見して先行冷却する。低温域ではプレヒートの可否を判断し、リチウム析出を防止する。
通信・診断・サイバーセキュリティ
CAN FD等で車両ECUやPCSと連携し、UDS/OBDに準拠したDTC・Freeze Frameを提供する。フラッシュ更新(OTA/ベンチ)に備え、ブートローダの署名検証や鍵管理を実装する。時刻同期・ログ保全・黒箱化は事故解析に有効である。量産ではEMC適合とノイズ耐性(コモン/ディファレンシャル)を確保し、通信断時のデグレード動作を定義する。
規格・適合
用途により適用規格は異なる。車載では機能安全ISO 26262、高電圧安全ISO 6469、診断UDS、サイバーISO/SAE 21434が中心となる。定置ではセル/パックの安全規格(例:IEC/UL系)や輸送要件(UN 38.3)への適合が必要である。セル化学(NMC、NCA、LFPなど)により電圧・温度窓が変わるため、閾値は化学特性に整合させる。
用途別要件(xEVとESS)
xEVでは高出力・広温度域・振動環境・短時間急速充電に対応し、等価回路の温度依存と内部抵抗増大を考慮する。ESSでは長寿命・高往復効率・セル拡張性が重視され、能動バランスやセル履歴管理が有利に働く。いずれもセルばらつき(容量・抵抗・自己放電)管理が劣化抑制の要である。
計測ハードとセンサ
電流はシャントとホール(またはフラックスゲート)で測り、直流精度と周波数応答を用途に合わせて選ぶ。電圧は差動多重化でノイズ耐性を高め、温度はNTC/RTD/ICセンサを配置最適化する。絶縁監視はIMDで実施し、湿潤環境や汚損に配慮したレイアウト・コーティングを行う。
ソフトウェアとアルゴリズム設計
モデル同定(OCV曲線、R・C定数、温度係数)と適応推定、異常検出(統計的残差、機械学習のドリフト監視)、寿命予測(デューティプロファイル依存)を組み合わせる。固定小数点での数値安定性、飽和処理、例外時のフェイルセーフ遷移、パラメータのバージョン管理が量産品質を左右する。
設計指標と仕様例
- 計測精度:セル電圧±2–5 mV、電流±0.5–1%FS、温度±1–2 ℃
- 推定誤差:SOC ±2%以内、SOH推定ばらつき年率±1–2%
- 保護応答:μs–ms級短絡、ms–s級過電流・過電圧
- バランス能力:数10–数100 mA(受動)、数A級(能動)
- ログ:イベントリングバッファ+長期履歴、タイムスタンプ一貫性
よくある故障モード
コネクタ接触不良、センサ断線・短絡、ADC飽和、基板汚損によるリーク、通信輻輳、温度センサ貼付不良、バランス抵抗の過熱、コンタクタ溶着などがある。設計段階でFMEA/FMEDAを実施し、故障検出率(DC)を高める診断カバレッジを確保する。
関連分野への接続
BMSは電力変換や再生可能エネルギー、蓄電システムと密接に関わる。系統連系インバータや充電インフラ、再エネ設備と統合する際は、電圧・周波数制御、需要応答、ピークシフトを考慮したエネルギーマネジメントと協調させる。