原子力発電|低炭素で安定供給する大規模電源

原子力発電

原子力発電は、原子核分裂で生じる熱エネルギーを蒸気に変換し、タービンと発電機で電力に変える方式である。ウラン235などの核分裂性物質が中性子を吸収して分裂し、熱とともに新たな中性子を放出する連鎖反応を、人為的に制御して熱源として利用する。高いエネルギー密度、長期連続運転、低い運転時二酸化炭素排出が特長で、系統全体のベースロードを担いやすい。

基本原理と炉心構成

原子力発電の炉心は、燃料集合体、減速材、冷却材、制御棒、圧力容器などで構成される。燃料棒に封入された二酸化ウラン(UO2)が分裂して発熱し、冷却材(水や重水、時にガス)が熱を取り出す。減速材は中性子を減速して分裂確率を高め、制御棒(ホウ素やカドミウムなどの吸収材)は挿入量で反応度を調整する。

連鎖反応の制御

有効中性子増倍率kを1付近に保つのが運転の要点である。出力追従時は制御棒や可溶性ホウ素、温度・ボイド効果などの負の反応度係数を活用し、過渡変化を抑制する。

炉型の種類

軽水炉が主流で、沸騰水型(BWR)は炉心で直接蒸気をつくりタービンへ送る。加圧水型(PWR)は一次系で加圧水を循環し、蒸気発生器で二次系に熱移送する。重水炉(CANDU)は重水を減速材・冷却材に用い、天然ウランの利用が可能である。近年は受動的安全系を備えた改良型や小型モジュール炉(SMR)の検討が進む。

二重系統と格納の思想

一次系・二次系の熱的分離、原子炉容器・配管の健全性維持、原子炉格納容器による放射性物質の閉じ込めが基本である。断層的な多重防護(ディフェンス・イン・デプス)により外乱・故障に対処する。

熱サイクルと発電効率

原子力発電はランキンサイクルを採用し、蒸気条件は化石火力ほど高温高圧ではないため熱効率はおおむね30%台である。復水器の真空度管理、給水加熱段数の最適化、タービン段落の改良がプラント効率を左右する。

容量係数と運用

計画保守を除けば長期の連続運転に適し、容量係数の高さが経済性の鍵となる。負荷追従は設計と運転方策に依存し、系統運用上はベースロードに位置づけられることが多い。

核燃料サイクル

採鉱・転換・濃縮・燃料成形・炉内燃焼・貯蔵・再処理・廃棄までの流れを核燃料サイクルと呼ぶ。使用済燃料は崩壊熱と放射能を持つため、プール貯蔵や乾式貯蔵で冷却・遮蔽する。再処理ではウラン・プルトニウムを分離し、MOX燃料として再利用する選択肢がある。

廃棄物管理

低・中レベル廃棄物は適切な固化と埋設で管理される。高レベル放射性廃棄物はガラス固化体にし、地層処分を想定する。バリアは固化体、オーバーパック、緩衝材、地質の多重で構成する。

安全設計と防災

設計基準事象に対して、原子炉停止・冷却・閉じ込めの三機能を確保する。非常用炉心冷却系(ECCS)、非常用電源、多様冗長の計装制御が要となる。設計拡張事象に対しては水素管理、フィルタ付ベント、受動的冷却などの強化策が講じられる。

リスク評価

確率論的リスク評価(PRA)により、機器故障や人的要因、外部事象(地震・津波・洪水など)のシナリオを体系的に評価し、重要度解析から対策優先度を決定する。

環境影響と温室効果ガス

原子力発電は運転段階でのCO2排出が低い。ライフサイクルで見れば採鉱・燃料加工・建設・廃止措置を含む排出があるが、化石火力に比べ低水準とされる。温排水や取水の生態系影響、放射線影響の監視が不可欠である。

放射線防護

ALARAの原則に基づき、線源強度の低減、作業時間の短縮、距離と遮蔽の確保、監視測定と手順化で線量を管理する。運転・保守・廃止措置の各段階での被ばく管理が重要となる。

経済性とLCOE

資本費の比重が高く、建設期間・資金コスト・規制対応が経済性を左右する。運転燃料費は低めで、長期連続運転でコストが平準化される。LCOE評価では、資本費、運転維持費、燃料費、廃止費用、バックエンド費用を割引現在価値で比較する。

系統統合

大型機の出力喪失に備えた予備力の確保、周波数維持、慣性寄与、無効電力供給などの系統サービスを考慮する。レギュレーション能力や計画停止の調整は、系統運用者との計画協調で対応する。

規制・標準と国際枠組み

原子力安全は法令・規制基準、技術基準、運用基準の階層で担保される。国際原子力機関(IAEA)の安全要求・ガイド、運転経験(OE)の共有、ピアレビューが継続的改善を支える。品質保証(QA/QM)と構造材料・溶接・非破壊検査などの標準適合が前提となる。

事故経験と教訓

過去の重大事故は、設計想定の超過外乱、ヒューマンファクター、電源喪失や冷却喪失の連鎖など複合事象の脆弱性を示した。これを踏まえ、ハード・ソフト両面の対策、サイト・地域の防災連携、長期の廃止措置計画が強化されている。

将来技術

高温ガス炉は高温熱の産業利用や水素製造への展開が期待される。第4世代炉は増殖性や資源有効利用、廃棄物特性の改善、受動的安全性の追求を目標とする。SMRはモジュール化による建設リスク低減と系統柔軟性の向上を狙う設計である。