センサレス制御|センサ不要で位置・速度推定

センサレス制御

センサレス制御とは、モータの回転角度や速度を機械式センサ(エンコーダやレゾルバ)なしで推定し、インバータで駆動する技術である。部品点数の削減、配線の簡素化、コスト低減、故障点の減少、環境耐性向上(高温・振動・粉塵)といった利点がある。一方で、低速域での推定精度、パラメータ変動への頑健性、電磁ノイズの影響といった課題が設計の肝となる。対象は主にPMSM(永久磁石同期モータ)とIM(誘導電動機)で、FOC(Field Oriented Control)との組合せが一般的である。

基本原理

センサレス制御は電気量から回転子の位置・速度を推定する。PMSMでは逆起電力(back-EMF)や磁気異方性(サリエンシ)を利用し、IMではロータ磁束モデルからすべり周波数を推定する。要は「電圧・電流・既知パラメータ」から状態方程式を構成し、オブザーバで回転角θと角速度ωを得る流れである。

  • 逆起電力法:中〜高速域で有効。d-q座標の電圧方程式からebackを抽出し角度を推定
  • 高周波インジェクション(HFI):低速・ゼロ速で有効。高周波電圧を重畳し、Ld≠Lqのサリエンシ応答から角度を復元
  • 磁束モデル:IMでロータ磁束ベクトルを推定し、すべりを補正して速度推定

推定アルゴリズム

推定器はノイズ耐性、演算量、整定性のトレードオフで選ぶ。産業用途ではSMOやPLL系が多く、研究・高性能用途では拡張カルマンが使われる。

  1. SMO(Sliding Mode Observer):切換制御でロバスト。チャタリング低減のため擬似符号関数や低域通過を併用
  2. PLLベース:back-EMF位相に同期させる。設計直観に優れ、実装が容易
  3. Luenbergerオブザーバ:極配置で応答整形。モデル化誤差への配慮が要る
  4. EKF/UKF:非線形・多変量ノイズに強いが演算負荷が高い

低速域・始動戦略

低速やゼロ速ではback-EMFが小さく推定が難しい。そこでHFIや初期位置推定、オープンループ始動を併用する。一般に「整流起動→低速推定(HFI)→中高速でback-EMF移行」という段階設計が安定である。

  • I-F始動:位相を開ループで回し、十分な誘起を得てから閉ループへ
  • 初期位置推定:DC注入やパルス印加で磁極位置を推定(IPMSMで有効)
  • HFI移行:ゼロ〜数百rpmをカバーし、所定速度でback-EMFへシームレス切替

FOC実装の要点

センサレス制御はFOCと一体で設計する。サンプリング、デッドタイム補償、遅延整合を揃えないと位相誤差が増大する。

  • 電流検出:シャントの帯域とADC同期待ち。搬送周波数とサンプル点の位相整合
  • デッドタイム補償:キャリア当たりの有効電圧誤差をモデル補正
  • 座標変換:Clark→Park→PI(d/q)→逆Park→SVPWM。遅延は推定器に前向き補償
  • ゲイン設計:電流PIは高速、速度PIはロバスト重視。オブザーバゲインはノイズと位相余裕の折衝

パラメータ同定と温度ドリフト

Rs、Ld/Lq、磁束鎖交Ψ、Keは温度と磁化で変動する。初期同定に加え、オンライン推定で追従させると安定する。Rsはステップ応答や正弦注入から同定、Ld/LqはHFI応答で推定、磁束は中速域の電圧方程式から再帰推定する。温度センサが無くても、Rs推移から間接温度推定が可能である。

ノイズ対策と安全設計

EMIは推定精度を悪化させる。ゲート配線の帰還パス短縮、シャントのKelvin接続、アナログGNDのスター接続、差動計測、適切なRC/デジタルフィルタで抑制する。過電流・過電圧・失速検出、推定異常時の安全降格(トルクリミット、惰行停止)を設け、フェイルセーフを確保する。

代表アプリケーション

センサレス制御はポンプ・ファン・コンプレッサ・家電・EV補機、産業用サーボ(高効率域重視)などで広く用いられる。センサを省くことで信頼性とコストに優れ、保全性も高まる。近年は低電圧・高スイッチング周波数のSiC/MOSFET化により、トルクリップル低減と静粛性が向上している。

よくあるトラブルシュート

低速での角度オフセットはRs誤差と電圧オブザーバ帯域の不整合が原因になりやすい。HFIの搬送周波数を機械共振から離す、LPF位相遅れを予見補償する、ゲインを周波数整形する、SVPWMの零ベクトル配分でTHDを下げる、といった対策が有効である。中高速での吹き上がりはPLL帯域過大や遅延未補償が典型である。

評価指標とチューニング手順

評価は始動成功率、ゼロ速保持、速度脈動、トルクリップル、効率、過渡応答、外乱トルク耐性で行う。実務では①パラメータ初期同定、②開ループ始動の安定化、③HFIゲイン最適化、④中高速のPLL帯域調整、⑤遅延・デッドタイム補償、⑥オンライン同定の有効化、の順で詰めると収束が早い。量産では離散ばらつきに対しマージン設計を施す。

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