放射ノイズ
放射ノイズは、装置や配線に流れる高周波電流がアンテナとして振る舞い、空間中に電磁波として漏洩する電磁妨害(EMI)である。伝導経路を介して流入・流出する「伝導ノイズ」に対し、放射ノイズは空間伝搬が主体であり、距離減衰やアンテナ指向性の影響を受ける。評価量は電界強度E(dBμV/m)が一般的で、30 MHz〜1 GHz、あるいはそれ以上の帯域で測定する。主な起点はクロックやスイッチング電源、広いループ面積をもつ配線、筐体のスロット、ケーブルの共通モード電流などである。
定義と特徴
放射ノイズは回路内の時間変化電流・電圧が形成する等価アンテナから生じる。近傍では磁界・電界が独立的に振る舞い、遠方では電磁波として平面波に近づく。測定は3 mまたは10 m離隔が慣用で、距離rに応じて概ね1/rで減衰する。ケーブルは長尺導体として効率良く放射し、基板のグラウンド帰路が細い・長い場合はループ面積増大により高調波放射が増える。
近傍界と遠方界
周波数fと寸法から決まる近傍界境界(おおよそλ/2π)を越えると遠方界近似が妥当となる。3 m法では30 MHz以上で多くの装置が遠方界近似に入るが、大型筐体や低周波では近傍性の影響が残り、受信アンテナ高さや方向で結果が変動する。
発生メカニズム
根本は「高di/dt・高dv/dt×幾何学」である。高速クロックのエッジやスイッチングの立上りが高調波群を生成し、広いループ面積(信号線とリターンの分離)や筐体開口がアンテナ効率を高める。ケーブルの共通モード電流は特に効率が高く、I/O・電源線からの漏洩が支配的となる。
ケーブルの共通モード
差動伝送でも不平衡が生じると共通モードが発生し、ケーブル全体がモノポールのように放射する。コネクタ周辺の接続インダクタンスや筐体接続不良が起点になりやすい。
測定と評価
準自由空間(OATS)または電波暗室(SAC)で受信アンテナ(バイコニカル、ログペリオディック、ホーン)を用い、3 m/10 mでターンテーブル回転・アンテナ高さスキャンを行う。受信機はQP(Quasi-Peak)、AV(Average)、CISPR RMS-Average等の検波を用い、RBW/VBWを規格に合わせる。測定前にプリスキャンでピーク源を抽出し、本測定で姿勢・ケーブル配置を最悪化して上限を評価する。
スペクトルの読み方
基本波の整数倍にピークが並ぶ場合はクロック由来、広帯域な裾を伴う場合はスイッチング過渡由来である。アンテナ偏波切替で水平・垂直の優位を見極め、原因箇所の等価電流向きを推定する。
規格と限度値
情報機器はCISPR 32(EN 55032)やFCC Part 15が代表で、住環境向けのClass BはClass Aより厳しい。産業・医療・車載ではCISPR 11、CISPR 14、CISPR 25やISO規格群が適用される。対象・使用環境で要求帯域と検波法が異なるため、開発初期に適用規格・帯域・距離条件を確定することが重要である。
試験構成の注意
装置の動作モード、ケーブル長・取り回し、周辺機器の有無で結果は大きく変わる。実使用を模擬しつつ、最悪配置(ケーブル浮かせ、開口露出)を含めて限度線を評価する。
低減設計の要点
- ループ最小化:信号とリターンを近接、GNDプレーン連続化、ビアでリターン短絡。
- エッジ制御:ドライバのスルーレート制限、スプレッドスペクトラムクロック(SSC)。
- フィルタ:I/Oにコモンモードチョーク、π/LCフィルタ、終端で反射低減。
- シールド:筐体連続性、ガスケットでスロット遮蔽、パネル周縁の多数接続。
- ケーブル対策:フェライトコア、編組シールドの360°接地、ツイストペアの採用。
- 電源・スイッチング:スナバ、ゲート抵抗でdv/dt・di/dt抑制、レイアウトで熱源・高dI/dt経路を短縮。
基板・筐体の接地
シールドは単点接続よりも360°かつ低インピーダンス接続が有効である。リターン電流の経路が筐体外周に回らないよう、コネクタ周囲のグランドリングとビアフェンスで高周波帰路を閉じる。
解析と試作アプローチ
EMIスキャナやニアフィールドプローブでホットスポットを特定し、等価回路と簡易電磁モデルで寄与を見積もる。対策は一度に複数適用せず、プローブ再測定で効果検証→恒久対策(パターン改版・部品選定)へ移行する。
デバッグの小技
アルミ箔で仮シールド、ケーブルへの暫定フェライト、クロック停止や周波数変更でピーク因子を切り分ける。アンテナ偏波と装置姿勢の感度から放射源の向きを推定できる。
用語整理
- 電界強度E(dBμV/m):基準1 μV/mに対する対数表現。
- QP/AV検波:人間の受感特性に近い時間重みを模擬。
- 共通モード/差動モード:導体群全体が同相か、互いに逆相かを区別。
- OATS/SAC:屋外準自由空間/シールド暗室。
伝導ノイズとの関係
伝導抑制で共通モード電流が減れば放射ノイズも下がる。逆にラインフィルタの配置が悪いと、フィルタ前後で電流が環流し、かえって放射が増えることがある。系全体のインピーダンスと帰路設計を一体で最適化することが要諦である。
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