無機ジンク|長期防錆を支える亜鉛リッチ下塗り

無機ジンク

無機ジンクは、炭素鋼の長期防食を目的とした亜鉛粉末高含有の下塗り塗料であり、無機質バインダー(主にシリケート系)で亜鉛粒子を結着させるジンクリッチプライマーである。乾燥塗膜中の金属亜鉛が電気化学的に犠牲陽極として働き、鋼素地を陰極に保つことで赤錆の発生を抑制する。橋梁、プラント、タンク外面、海洋・沿岸部の鋼構造物など、腐食性の高い環境で広く採用され、高温耐性・耐溶剤性・下地防錆力の総合性能に優れる。

定義と位置づけ

無機ジンクは「Inorganic Zinc-Rich Primer(IoZRP)」に相当し、乾燥塗膜中に高濃度の金属亜鉛を含む下塗り材である。バインダーは主にエチルシリケート系や無機シリケート系で、硬化により無機質の三次元網目を形成し、亜鉛粒子同士および鋼素地への導通経路を確保する。導通が保たれることで亜鉛の犠牲防食と、亜鉛腐食生成物(酸化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛)による緻密化の二重効果が得られる。

防食原理

鋼の電位より亜鉛の電位が卑であるため、電解環境下で亜鉛が先に溶解し、鋼は陰極化して腐食が抑制される。塗膜の連続導通と素地露出部への電気的到達性が重要で、ピンホールや界面の絶縁化が進むと効果が低下する。緻密化した生成物は酸素・水分・塩分の浸入を抑え、化学的バリアとしても機能する。これらの相乗で長期の防食耐久性が実現する。

組成と種類

  • バインダー:エチルシリケート系(湿気硬化型)、無機シリケート系(水ガラス系)など。
  • 顔料:高純度の金属亜鉛粉末(粒度分布制御により充填性と導通性を両立)。
  • 体質顔料・添加剤:沈降安定化、分散性、作業性の調整を目的に少量添加。
  • 乾燥塗膜中の金属亜鉛:質量比で高含有(一般に70〜90%台)とする設計が多い。

特長と性能

  • 優れた防食耐久:犠牲防食+生成物バリアの二段構え。
  • 耐熱・耐溶剤:有機結合を主骨格としないため高温域(スタックや配管外面)でも安定。
  • 上塗り適合:エポキシやフッ素系等の上塗りで耐候・美観を拡張可能。
  • 溶接焼け部の再防食:適切な素地調整後に補修塗りで導通性を回復できる。

適用分野

海塩粒子の多い沿岸・海上環境、化学プラントの薬品雰囲気、結露や温度変動の大きい設備に適する。橋梁主桁・横桁、鉄骨建築、貯槽外面、煙道・ダクト、海洋構造物などで一次防錆として採用される。接触腐食・隙間腐食が懸念される部位では設計段階で被膜厚や形状の検討を行う。

設計・仕様の要点

  • 素地調整:ブラストによる清浄度(例:Sa2.5相当)と所定の粗さ(例:中粗)を確保。
  • 膜厚:下塗り単膜で50〜75μm程度が一般的。厚付け過多はクラックの誘因となる。
  • 導通確保:重防食ではシーラーや中塗り前の導通低下に注意し、仕様書で許容範囲を定める。
  • 上塗り選定:アルキド系など鹸化しやすい樹脂は避け、エポキシ、ポリウレタン、フッ素などを用いる。

施工管理

  • 環境条件:基材温度は露点+3℃以上、過大な湿度・結露を回避。エチルシリケート系は湿気硬化を考慮。
  • 撹拌・配合:亜鉛粉末が重いため、施工中も定期的に撹拌し沈降を防止。二液型は可使時間内に使い切る。
  • 塗り重ね:ポロシティ封止や目止め目的のシーラーは仕様に従い適用する。
  • エッジ部処理:条塗り(ストライプコート)で欠膜を防ぐ。

検査と評価

  • 膜厚測定:磁気式・渦電流式で乾燥膜厚(DFT)を確認。
  • 付着性:クロスカット等で上塗りとの層間付着を確認。
  • 外観:ピンホール、泥割れ、白錆の有無、過膜・欠膜、異物付着を点検。
  • 性能試験:必要に応じて耐塩水噴霧、湿潤乾燥サイクルで耐久性を検証。

想定トラブルと対策

  • 泥割れ(マッドクラック):過膜や急乾燥が原因。設計膜厚・希釈・環境管理で抑制。
  • 白錆化:未硬化や塩分付着で発生。洗浄・硬化管理・適切な塗り重ねで対処。
  • 導通喪失:汚染や過度のシーラーで発生。表面清浄と仕様順守で回避。
  • 隙間・ボルト部:形状的欠膜が多い。条塗りと多方向吹付で膜厚確保。

関連と区別

無機ジンクは、溶射亜鉛(いわゆるメタリコン)や有機ジンクリッチとは結合機構と上塗り適合性が異なる。溶射は金属亜鉛層を機械的に付着させる方法で、厚膜・即時防錆に利点がある。有機ジンクは有機樹脂で結着し、柔靱性や補修適性に利点がある。一方、無機ジンクは高温域や溶剤環境での耐性、優れた電気化学的防食能に強みをもつ。関連領域には陰極防食アノードカソードメタリコン、接触腐食に関わる異種金属や漏れ電流に起因する電食、材料選定ではアルミ、化学的安定性では強アルカリなどが挙げられる。規格面ではISO 12944などの重防食システム設計指針が参考になる。