ビッカース硬さ試験機|ダイヤ圧子で微小領域の硬さ測定

ビッカース硬さ試験機

ビッカース硬さ試験機は、対向角136°の正四角錐ダイヤモンド圧子を所定の試験力で材料表面に押し込み、残留圧痕の対角線長さから硬さ値HVを算出する装置である。微小領域から厚肉材まで広い適用範囲をもつこと、圧子形状が単一で換算表の依存が小さいこと、金属・セラミックス・表面処理層など多様な材料の比較が容易であることが特長である。マイクロ領域の組織評価、焼入れ深さの推定、溶接HAZの硬さ分布測定、薄膜・表面改質層の品質保証など、研究から量産検査まで幅広く用いられる。

原理と硬さ値HV

ビッカース法の原理は、圧子に試験力Fを一定時間(保持時間)負荷して生じた圧痕の平均対角線長さdを測り、幾何学定数1.8544を用いてHV=1.8544×F/d²で定義する点にある。FはSIではN、dはmmで表し、結果は「HV」に試験力と保持時間を付記する(例: 720 HV10/15 はおよそ98.07 Nの試験力、保持15 sを意味する)。対角線2本d1,d2の平均を採用し、対角差が規格限度内であることを確認する。ダイヤモンド圧子角度が一定であるため、広い硬さ域で連続的な比較が可能である。

試験機の構成

試験機は、荷重付与部、圧子・対物レンズを切り替えるターレット、光学観察部、ステージ、制御・演算ソフトウェアから構成される。近年はロードセルとクローズドループ制御により荷重精度と再現性が向上し、自動焦点・自動圧痕認識・XYステージ連携で多点測定や硬さマッピングが容易となっている。温度ドリフトや振動の影響を抑えるフレーム剛性、顕微鏡の倍率校正、画素寸法のトレーサビリティ確保が重要である。

  • 荷重系: デッドウェイトまたはロードセル制御、速度制御機構を備える。
  • 光学系: 低倍率〜高倍率の対物レンズと高解像度カメラ、画像処理。
  • ステージ: 微動ねじ・水平調整・試料固定治具、時に加熱・環境制御。
  • ソフト: 圧痕自動検出、合否判定、プロファイル・CHD算出、統計処理。

試験手順

  1. 試験片の研磨: 酸化皮膜・加工疵を除去し、所定の仕上げ粗さに整える。
  2. 載置と水平出し: ステージ上で傾斜を除き、焦点位置を安定化する。
  3. 条件設定: 試験力(例: HV0.3, HV1, HV10 など)と保持時間(例: 10〜15 s)を選定する。
  4. 圧痕形成: 規定のアプローチ速度で荷重を印加・保持・除荷する。
  5. 測定: d1,d2を測定し平均dを求め、HVを演算する。
  6. 記録: 試験位置、条件、個数n、平均・標準偏差、外れ値処理を記録する。

試験条件と適用範囲

適用範囲は軟質金属から超硬まで広く、微小ビッカース(概ね0.098〜9.8 N)では薄膜・表面層・粒内評価に有効である。マクロビッカース(概ね9.8〜980 N)は母材の平均硬さ評価や厚肉材に適する。圧痕間隔は相互干渉を避けるため対角線長の3倍以上を目安とし、薄板・薄膜では基材の影響を避けるため圧痕深さが層厚の1/10以下となる条件を選ぶ。結晶方位依存性や粒径効果(ISE)を考慮し、代表性ある点数と配置を計画する。

保持時間と速度の影響

ビッカース値は時間依存塑性やクリープの影響を受けるため、保持時間の一貫性が重要である。一般に10〜15 sが広く用いられ、粘性の大きい材料では長めの保持を採ることがある。アプローチ・除荷の速度も圧痕形状に影響し、規定範囲で管理する。

誤差要因と校正

主な誤差要因は、圧子形状偏差(136°角のずれ・先端丸み)、荷重のトレーサビリティ、表面粗さ・残留応力の影響、対角線読み取りの閾値設定、光学倍率の校正、試料の傾きやたわみである。基準片による日常点検、画素スケールの校正、黒化・照明条件の最適化、圧痕の自動判定結果の目視確認を組み合わせる。

  • 圧子/光学の校正: トレーサブルな標準片で倍率とHVを確認。
  • 表面状態管理: 研磨条件と洗浄、酸化皮膜除去の標準化。
  • 配置計画: エッジや相境界を避け、干渉を最小化するピッチ設定。
  • 統計管理: R&Rや管制図で量産工程の再現性を監視。

規格と表示

国際的にはISO 6507シリーズ、国内ではJIS Z 2244に準拠して実施する。表示は「HV」の後に試験力と保持時間を付し、必要に応じて測定温度や試験位置を記録する。ブリネルやロックウェル等への換算は便覧的な参考値であり、厳密な相互換算は推奨されない。材料の組織・加工履歴・表面処理の有無により同一HVでも機械特性が異なり得るため、用途に応じた評価指標を併記する。

結果の表記例

例として「720 HV10/15, 23 ℃, n=5, 平均±σ」を記録する。ここで「HV10」は約98.07 Nの試験力を意味し、保持時間15 sで測定したことを示す。報告書では測定点配置図、圧痕画像、対角線長の原データ、外れ値処理規則、基準片チェック結果を付すと再現性と信頼性が高まる。

他法との関係と使い分け

ビッカースは単一圧子で広範囲をカバーし、微小領域の組織差を高解像度で追跡できる点が強みである。粗大組織・鋳肌・非常に軟らかい材料ではブリネルの方が代表性を得やすい場合があり、厚板量産検査ではロックウェルが迅速である。一方、ビッカースは薄膜や浸炭・窒化の硬さ勾配、機能傾斜材、ろう付け・溶接部のミクロ硬さプロファイルに最適であり、CHDやNHDの評価指標と組み合わせて工程管理に用いられる。

実務での活用ポイント

  • 工程設計: 熱処理条件の差異をHVプロファイルで可視化し、過不足焼入れを検知。
  • 研究用途: フェーズマップとHVの相関、析出強化や固溶強化の寄与を分離検討。
  • 品質保証: 受入・出荷時の基準片チェック、GUMに基づく不確かさ表記を導入。
  • 自動化: XYスキャンと画像認識で硬さマップを作成し、工程ばらつきを早期発見。

測定設計の勘所

目的特性(表面層、母材、界面)に応じて試験力を選び、圧痕深さ/層厚の比、ピッチ、点数、保持時間を統一する。組織異方性の強い材料では同一条件で方位依存性を評価し、必要に応じて荷重を変えてサイズ効果を確認する。温度・湿度・振動は管理し、装置の年次校正と日常点検をルーチン化することが安定運用の鍵である。