サブマージアーク溶接機
サブマージアーク溶接機は、造船や圧力容器、橋梁、厚板構造物の長尺継手を高能率・高品質で連続施工するための自動溶接設備である。アークは粒状フラックスに覆われて発生し、外観上は光が隠れているため「サブマージ(潜弧)」と呼ぶ。大電流(しばしば1,000A超)と安定したワイヤ供給、フラックス供給・回収系、搬送トラクタやコラム&ブームなどの位置決め機構、シームトラッキング、溶接電源(DC/AC)と制御盤から構成される。被覆によりスパッタやヒュームが低減し、深い溶け込みと大きな溶着速度を同時に達成する点が特長である。
構成と機能
サブマージアーク溶接機は、(1)溶接電源、(2)ワイヤ送給装置、(3)トーチ/コンタクトチップ、(4)フラックスホッパと供給ノズル、(5)フラックス回収装置(サクション)、(6)走行台車やトラクタ、またはコラム&ブーム、(7)シームトラッキングと制御盤で一体のシステムを成す。各要素は厚板での直線・円周・スパイラル継手に適応し、連続運転の安定性と段取り再現性を担保する。
- 電源: 定電圧/定電流のいずれも用いられるが、長手継手では定電圧+ワイヤ速度制御が一般的である。
- 搬送: トラクタは板上を自走し、コラム&ブームは大型ワークに上方からアクセスする。
- 回収: 使用後のフラックスは吸引し、ふるい分けと乾燥で再使用する。
原理と溶接パラメータ
粒状フラックスがアークと溶融池を覆い、電弧は外気から遮断される。金属ワイヤは連続供給され、溶滴移行により高い溶着速度を得る。代表パラメータは電流I(A)、電圧V(V)、走行速度S(mm/min)、ワイヤ径d(mm)、フラックス粒度と塗布厚である。入熱Hは経験的にH≈(V×I×60)/(1000×S)×η(kJ/mm)で評価し、ηは効率係数である。多電極(ツイン/タンデム)やACの導入によりアークブローを抑え、溶込みとビード形状を最適化する。
プロセスのバリエーション
1電極のシングルから、タンデム(前後2電極)、ツイン(並列2ワイヤ)、ナロ―ギャップSAW、ストリップクラッディング(幅広帯状材で肉盛)まで多様である。円周配管の外面自動、スパイラル鋼管の連続溶接、板桁の長手すみ肉など、継手形状と要求特性に応じて電極配置と極性(DCEN/DCEP/AC)を選択する。
適用分野と導入効果
サブマージアーク溶接機は、板厚12〜100mm級の長手・周継手で威力を発揮する。造船の甲板・外板、圧力容器の円周・縦継手、ラインパイプ、H形鋼のフランジ溶接などが典型である。溶着速度は条件次第で8〜20kg/h(多電極で30kg/h級)に達し、アーク露出がないため輻射熱・眩光の作業負担も低い。自動化によりビード寸法のばらつきを抑え、再加工と欠陥修理のコストを低減する。
材料・消耗材
ワイヤは一般構造用鋼から低合金Cr-Mo鋼、耐候鋼、クラッド用ストリップまで選択できる。フラックスは溶融型(fused)と造粒型(agglomerated)に大別され、塩基度やMn/Si供給能で脱酸・機械的性質・靭性を調整する。水分は拡散性水素の原因となるため、乾燥(例: 250〜350℃保持)と保管が重要である。規格はJISやAWSの分類に基づき、線材とフラックスの組合せで要求強度を満たす。
品質管理と欠陥対策
代表的欠陥は、融合不良、アンダーカット、スラグ巻込み、割れ(センター/横割れ)などである。原因は入熱不足や過大、フラックス層厚・粒度、ルートギャップ不適合、湿潤、トーチ角度不良などに起因する。超音波探傷や放射線透過で内部健全性を確認し、WPS/PQRの管理下でパラメータを標準化する。
- 融合不良: 電流増・速度減・開先再設計で溶込み確保。
- スラグ巻込み: 層間清掃とトーチ角度適正化、フラックス粒度見直し。
- 割れ: 予熱・層間温度管理、低水素系フラックス、拘束低減。
設備レイアウトと自動化
長尺物にはトラクタ複数台の同期制御、厚肉円筒にはコラム&ブーム+回転ロールの組合せが用いられる。レーザ変位計やアークセンサによるシームトラッキングで開先中心を追従し、停止/再開時はクレーター処理とタブ板で品質を守る。生産管理ではビード記録、入熱履歴、フラックス再生率、ワイヤ消費量をロット単位で可視化するとよい。
安全衛生と環境
アークは被覆されるが、金属ヒュームや窒化物はゼロではないため局所排気を併設する。高電流・高温スラグの取り扱い、回収配管の詰まり防止、フラックス粉じんの飛散抑制が重要である。フラックスはふるいと乾燥で再利用し、未溶融分の廃棄は法規に従う。
運用上の留意点
フラックスは吸湿しやすく、開封後は密閉・乾燥を徹底する。コンタクトチップとライナは摩耗で供給不安定を招くため定期交換し、ワイヤ蛇行はガイドと圧力調整で抑える。始終端はスタート/ランオフタブを用い、脱スラグ後の目視・寸法検査を標準作業に組み込む。設備は校正と絶縁点検を周期化し、異常時は原因を電源・供給・搬送・材料の系統で切り分ける。