ブローチ盤
ブローチ盤は、多数の切れ刃を段階的に配列したブローチ工具を直線運動させ、1ストロークで高精度な内外形状を加工する工作機械である。被削材に対して工具が通過するあいだに粗加工から仕上げまでを連続して行うため、寸法の再現性が高く、量産に適する。縦型・横型、引込(プル)式・押込(プッシュ)式があり、キー溝、スプライン、歯形、フィルタリーフィルムのスリットやタービンディスクのファー・ツリー形状など、フライスや中ぐりでは難しいプロファイルを短時間で得られる。
構造と基本原理
ブローチ盤は、ベッド、コラム、スライダ(ラム)、駆動機構、ワーク支持・クランプ部、切削油循環装置、チップ処理装置で構成される。ブローチは刃先高さが徐々に増す「リード(歯上がり)」を持ち、前段が切り残した余肉を後段が順次除去する。ストロークの開始から終了までに所定の断面形状へ到達するため、一般の切削のように1刃当たり送りを調整する代わりに、歯上がり量と歯数で実質的な送りが決まる。縦型はワーク着脱が容易で省床面積、横型は長尺ブローチの案内に有利で重切削に向く。
- 主運動:ブローチの直線往復(加工は通常1方向)
- 送り相当:刃のリード量とピッチの設計値
- クランプ:内面・外面治具、マンドレル、アーバ支持
- 冷却:循環切削油による潤滑・冷却・切りくず排出
ブローチ(工具)の特徴
ブローチは粗刃・中仕上げ刃・仕上げ刃を順配列し、ピッチ、リード、前すくい角、逃げ角、ランド幅、シア角の組合せで切削抵抗や面品位を制御する。材質は高速度鋼や超硬、コーティング(TiN、TiAlN 等)を用いる。刃先は先端側から摩耗が進むため、所定回数でリシャープニングを行い寿命を延ばす。ガイド部は曲がり・ビビリを抑制し、チップブレーカ溝は切りくず分断と排出性を高める。
- ピッチ:切りくず干渉を避けるため加工断面と材質で最適化
- リード:1刃当たり切込み量に相当し、過大は欠損の原因
- シア角:面粗さと抵抗低減に有効(特に外面・平面ブローチ)
加工方式と適用範囲
ブローチ盤は内面ブローチ、外面(平面)ブローチ、成形ブローチに大別される。内面ではキー溝、スプライン、六角・花形、オイル溝などを、下穴や下加工済みのワークへ一括成形する。外面ではガイドレールやサスペンション部材の面取り・段付き・R付けを安定して行える。量産性が高く、特に自動車のトランスミッション部品、ステアリング部品、ベアリング保持器、航空機用の高強度合金部品などで普及している。
- 内面:パイロット穴→ブローチ通過→ゲージ検査
- 外面:基準面拘束→案内靴で直進性確保→仕上げ通過
- 成形:歯形・異形溝等を1ストロークで連続成形
加工精度と表面性状
ブローチ盤は全刃が専用プロファイルを持つため、形状精度と同軸度の再現性に優れる。一般に量産条件でIT7〜IT8相当、精密条件や安定した治具・油管理ではIT6級も狙える。面粗さは仕上げ刃のランドとシア角設計、油剤粘度、ストローク速度で決まり、Ra 0.8〜3.2 μm 程度が目安である。寸法の片側化はブローチ摩耗や芯出し誤差で生じやすく、摩耗進行に応じた補正やリシャープニング計画が必要となる。
加工条件の設定
切削速度は材料と工具に応じておおむね 5〜60 m/min 程度、ストローク速度は機械の推力と油圧系能力で決まる。送り相当はリード量で規定されるため、実機ではストローク長、復帰速度、油量・濾過精度、温度管理が生産性と寿命を左右する。難削材では高圧クーラントや増粘油、切りくず分断溝の最適化が有効である。
- 推力の余裕:最大切削断面積×比切削抵抗に安全率を掛ける
- 油管理:清浄度と温度一定化で寸法ばらつきを抑制
- 治具:基準面の繰り返し拘束と確実な排油・排屑経路
段取りと治具設計
ブローチ盤の段取りでは、ワーク基準の一貫化と通し穴の面粗さ・直進度が要点となる。内面加工ではパイロット径の管理とマンドレルの真直度、外面加工では基準面の平行度と案内靴の当たり調整が重要である。量産ではクイックチェンジ冶具、エアブロー併用のチップ排出、インラインゲージによる即時判定で手戻りを防止する。
長所と短所
ブローチ盤の長所は、(1)1ストロークでの形状完成によるサイクル短縮、(2)技能依存の低い寸法再現性、(3)高硬度材や難形状への適用、である。短所は、(a)ブローチ製作コストとリードタイムが大きい、(b)加工形状の変更に柔軟でない、(c)長尺工具ゆえの据付・保守の手間、である。少量多品種では非効率になりやすく、ライン設計時はタクトと型費回収の見積もりが不可欠となる。
- メリット:高い生産性、プロファイル精度、自動化適性
- デメリット:型費負担、形状変更コスト、機械剛性要求
保全・安全・品質管理
日常点検ではガイド・シューの摺動状態、油圧漏れ、エレベータ(ブローチ昇降)や把持口金の磨耗を確認する。ブローチは専用ラックで保管し、欠けを防ぐ。安全面では防護カバー・インターロック、非常停止、チップ飛散防止が必須である。品質は初品・中間・最終のゲージ管理、寸法トレーサビリティ、リシャープニング履歴とストローク累積で見える化し、摩耗起因のドリフトを予防する。
関連機械との位置づけ
形削り盤やスロッターが1刃で往復切削するのに対し、ブローチ盤は多数刃の連続切削で断面全体を一気に作るため、加工能率と形状の一貫性に優れる。フライスや中ぐりでは段階工程が必要なプロファイルも、専用ブローチ化で工程集約が可能となる。一方で、設計値は工具に固定されるため、試作段階では他機に比べ融通が利きにくい点を理解して工程設計に反映させるべきである。
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