中塗り鏝
中塗り鏝は左官工事において下塗りと上塗りの中間層を平滑化し、厚みと平面精度を整えるための鏝である。刃は仕上げ鏝より厚めで剛性が高く、木鏝よりは面が締まる中庸のしなりを持つことが多い。モルタルや漆喰、石膏など可塑性材料のレオロジーに対して、圧力と接触角を制御しながら「ならし」「締め」「押さえ」を連続的に行える点が特徴である。壁・天井・下地の吸水性や外気条件に応じて水引きのタイミングを合わせ、平滑度と付着性の両立を図る道具である。
用途と工程における位置付け
一般に左官の工程は下塗り→中塗り→上塗りの順で進む。下塗りで付着と粗面を確保した後、中塗り鏝で層厚を確定し面のうねりを除去する。ここでの均し品質が上塗りの作業量と最終品位を左右するため、平面度、コーナーの直角度、面間のつながり(入り隅・出隅)、開口まわりの納まりまでを視野に入れた運用が求められる。下地がRC、木摺、ボードなどで吸水速度が異なる場合は、中塗り鏝の当て方と圧力を調整し、材料のブリーディングやドライアウトを抑えつつ面を締める。
形状・材質・寸法の特徴
中塗り鏝の刃は中厚で、長さは壁面のスパンや作業者のストロークに合わせて選定する。材質は炭素鋼(本焼・半焼)とステンレスが代表的で、前者は食いつきと磨耗耐性、後者は錆びにくさと滑走性に優れる。先端とカカト側のエッジ処理は、食いつきとコテ跡低減のトレードオフで決まる。ハンドルは朴木や樹脂芯で、握り径・重心位置がストローク安定性と疲労に影響する。
- 刃の剛性:うねり修正に必要な面圧を確保しつつ、微小追従が効く程度のしなりが望ましい。
- エッジ形状:角の面取り量がコテ跡の出やすさと入り隅の納まりを左右する。
- 背金・口金:座屈やねじれを抑え、荷重伝達を均一化する。
- 表面仕上げ:鏝面の微細粗さは材料の滑りと付着挙動に影響する。
操作の基本とコツ
中塗り鏝は低い接触角で面を長手方向に走らせ、面圧を一定に保つことが基本である。押さえ過ぎると水膜化して後工程でひび割れの起点になり、弱すぎると空隙が残る。ストロークの終端で刃を立て過ぎないこと、返し動作で材料を引きずらないことが肝要である。開口部や入隅は短いストロークで方向を分割し、目違いを残さない。
- 一次ならし:配合通りに練った材料を配り、ストロークを重ねて厚みを均一化する。
- 締め:水引きを見極めて再押さえし、微細な気泡と粗さを潰す。
- 端部処理:サッシュ・見切りとの取り合いは先にラインを決め、面を当て込む。
関連工具との使い分け
仕上げ鏝
仕上げ鏝は薄刃・高靱性で最終平滑度を出す。中塗り鏝はより厚刃で面修正と厚み管理を担い、上塗りの負担を減らす役割である。
木鏝
木鏝は下塗り初期の荒均しに適し、吸水性により表面の水分を調整する。中塗り鏝はその後の平面度確保に用い、材料を締めて強度と付着を高める。
角鏝・目地鏝
角鏝や目地鏝は局所や入隅・目地用の小型鏝である。広い面の均一化は中塗り鏝で行い、細部をこれらで仕上げると段差やコテ跡が抑えられる。
土間鏝
土間鏝は床面の広面積押さえに特化し、刃の剛性と面圧が大きい。壁・天井の中間層整形には中塗り鏝の取り回しが適する。
選定のポイント
- 素材の選択:炭素鋼は食いつき重視、ステンレスは錆対策と滑走性重視。
- 硬さとしなり:うねり修正には硬め、複雑面の追従には柔らかめが有利。
- 寸法:作業空間と姿勢に合わせ、ストロークを無理なく確保できる長さを選ぶ。
- ハンドル形状:握り径と表面摩擦が疲労と精度に直結する。
- エッジ処理:コテ跡の少なさとコーナーの線出しのバランスを取る。
運用上の注意・品質管理
中塗り鏝の品質は材料側条件とも相互作用する。配合比、水量、外気温湿度、下地吸水性によって水引きが変化するため、押さえのタイミングを現場で最適化する。面制度は長尺定規で当たりを確認し、光の反射で波打ちを検出する。連続作業では同一ロット・同一配合を維持し、コールドジョイントや色ムラを避ける。
メンテナンスと寿命管理
使用後は直ちに洗浄し、アルカリ分を除去する。炭素鋼は薄く防錆油を伸ばし、ステンレスでも付着物の焼き付きは避ける。平面度維持のため、定盤と耐水ペーパーで軽く面出しし、反りやねじれが出た個体は粗均し専用に回す。収納は刃を干渉させず、荷重で曲げ応力が残らない姿勢で保管する。
よくある不具合と対策
コテ跡が残る場合はエッジの当たり過ぎや水引き過多が原因である。ストローク方向を交差させ、押さえ角を浅く保つ。表面が粉っぽい場合は押さえ不足または早期乾燥であり、材料の保水性見直しと再押さえで改善する。波打ちは刃のねじれや不均一な面圧が要因で、中塗り鏝自体の平面確認と握りの矯正で再発を防ぐ。