保温|熱の損失を防ぐ断熱技術

保温

保温とは、対象物や空間の温度低下(または上昇)を抑え、所望の熱状態を一定に維持するための技術である。配管・タンク・ダクト・装置・建築外皮などに断熱材や遮熱層、表面仕上げを組み合わせ、熱移動の経路を制御する。省エネルギー、品質安定、結露防止、作業安全、設備耐久の観点から、産業・建築を問わず中核的な熱マネジメントの要素である。

定義と目的

保温の一次目的は、熱損失(または熱取得)を最小化して運転コストを下げることである。副次目的として、表面温度の低減による火傷リスクの抑制、表面結露の回避、温度むらの縮小、周辺環境への放射熱負荷の抑制がある。冷媒系では保温と同じ設計思想で「保冷」を行い、防露・省エネ・霜付抑制を図る。

物理原理(熱移動の3要素)

熱移動は伝導・対流・放射で記述できる。伝導は材料内部の熱伝導率λ(W/m・K)で支配され、低λの材料が保温に有利である。対流は表面熱伝達係数h(W/m2・K)で表され、風速や表面粗さに依存する。放射は表面の放射率εと温度差により決まり、金属ラッキングやアルミ被覆は放射熱の低減に寄与する。実設計ではこれらを合成した総合熱貫流率Uで評価する。

材料と性能指標

保温材の選定指標は、熱伝導率λ、使用温度範囲、吸水率、耐湿性、耐薬品性、耐火・不燃性、圧縮強度、経年安定性である。設備系ではJISやISOの試験法に基づくλの温度依存性データを参照し、運転温度付近のλを用いることが重要である。

代表的な材料

  • グラスウール/ロックウール:広範囲で使える無機繊維。耐火性に優れ、配管やダクトの保温に汎用的。
  • ポリウレタンフォーム・フェノールフォーム:低λで高い保温性能。冷媒配管や設備外皮に用いられる。
  • カルシウムシリケート:高温域の機器保温に適する硬質材。
  • エアロゲル・VIP(真空断熱材):極めて低λ。薄肉で高性能の保温が可能。

設計と計算(一次元定常)

保温の基本式は Q = U・A・ΔT である。ここで Q は熱損失(W)、A は外表面積(m2)、ΔT は内容物と周囲の温度差(K)である。平板近似では U ≒ 1/(Rsi + t/λ + Rse) と表せ、t は保温厚み(m)である。円筒(配管)では導熱抵抗が ln(ro/ri)/(2πλL) で与えられ、内外表面の対流抵抗を直列和として加える。目標Qもしくは目標表面温度Tsから必要厚みtを逆算する。

表面温度と防露

防露設計では、表面温度Tsが周囲空気の露点以下にならないよう保温厚みと表面仕上げを決める。高湿度環境では吸水・吸湿でλが上昇し性能低下するため、防湿シートやアルミ被覆、気密継手で湿気の侵入を抑える。ISO 12241等の指針ではTs計算と冷却系保温の評価手順が示される。

施工・保守・安全

保温性能は施工品質に大きく依存する。継ぎ目の隙間、支持金具部の熱橋、貫通部・フランジ周りの未処理は顕著な熱漏れを生む。ラッキングやジャケットは耐候性・防汚・機械保護に有効で、屋外では紫外線劣化や雨水浸入を防ぐディテールが要点である。定期点検では剥離・湿潤・圧潰・腐食(CUI: insulation 下腐食)を確認し、必要に応じて部分更新を行う。

産業での応用

化学プラント、食品・医薬のプロセスライン、蒸気配管、ボイラ・熱交換器、空調ダクト、温水・給湯系、各種タンクで保温は不可欠である。建築では屋根・外壁・床・配管シャフトの温熱設計に組み込み、ZEB/ZEHや省エネ基準適合のための熱損失削減に寄与する。輸送・物流でも保温容器や断熱ボックスにより温度管理を実現する。

パイプ・ダクトの実務要点

  • 曲げ部・バルブ・フランジは熱橋になりやすく、専用カバーで連続保温とする。
  • 支持金具は断熱座金や吊りバンド用インサートで熱橋を抑制する。
  • 屋外は水切り・シール・端部折返しで浸水防止し、凍結・腐食を抑える。

よくある誤りと対策

設計温度に対するλの取り違え、表面熱伝達係数の過小評価、施工後の隙間や圧潰、保温下腐食対策の不備が典型例である。対策として、温度帯ごとの材料データを採用し、風速条件に応じたhを設定、ディテール標準を整備し、CUIリスク領域には水分遮断・排水・コーティングを併用する。改修時はサーモグラフィで保温欠損部を可視化すると効率的である。

関連概念との違い

保温は熱流を小さくして温度を保つ包括概念であり、「断熱」は主に伝導抑制に焦点を当てた材料・層構成の側面、「遮熱」は放射・日射負荷低減の側面を指すことが多い。冷熱系の「保冷」は方向こそ逆だが評価式は同じで、特に防露要件を重視する点が特徴である。適切な用語選択と計算条件の設定が、性能と安全、コストの均衡をもたらす。