レーザビーム焼入れ|低歪みで高硬度化し熱影響小

レーザビーム焼入れ

レーザビーム焼入れは、集光したレーザエネルギーで金属表面を急速に加熱し、母材内部の自己冷却でマルテンサイト化させて硬化層を形成する表面熱処理である。必要な部分のみに選択的に熱を入れられ、歯面やカム、シャフト座部、金型エッジなど局所硬化が要求される機械要素に適する。入熱の空間・時間制御性が高く、ひずみが小さいこと、治具が簡素で自動化に適合しやすいことが特徴である。

原理と熱サイクル

レーザビーム焼入れは、表面の吸収により数ミリ程度までの浅い領域を急速加熱し、A3(またはAc1以上)までオーステナイト化させた後、周囲の冷たい母材へ熱を逃がして急冷する。水や油などの外部急冷剤を原則用いず、急冷は母材の熱拡散に依存するため、熱影響部(HAZ)が小さく、焼入れ直後に表層で自己焼戻しが進み、硬さ勾配が滑らかになる。ビームの走査速度と出力密度が熱サイクルを支配するため、線エネルギーの最適化が鍵となる。

利点(設計・製造観点)

  • 局所加熱で全体ひずみが小さいため、後加工や矯正の手間が減る。
  • NC/ロボット化が容易で、トレース性のある品質管理が実現しやすい。
  • 複雑形状のトラック設計が可能で、必要硬化部位のみを精密に指定できる。
  • 熱源のオン・オフ応答が速く、立ち上げ時間・段取り時間が短い。
  • 材料表面の酸化やスケールが比較的少なく、仕上げ面品位を維持しやすい。

適用材料と組織

中炭素鋼(C≈0.3〜0.6%)やCr-Moなどの合金鋼で良好な硬化が得られる。球状黒鉛鋳鉄も条件設定により硬化層形成が可能である。低炭素鋼では浸炭や窒化などの前処理と組み合わせることが多い。オーステナイト系ステンレスは焼入れ硬化を基本的に示さないため不向きである。組織は表層に細かいマルテンサイト主体、深さ方向に焼戻しマルテンサイト〜ベイナイトの勾配が形成される。

プロセス設計と主要パラメータ

  • 出力P(kW)と走査速度v(mm/s):硬化深さ・幅の一次要因。
  • スポット径d(mm)・ビーム形状:矩形ビームは均一加熱に有利。
  • 重ね代(%)・パス順序:硬さムラと段差の抑制に影響。
  • 焦点位置・傾斜角:吸収と反射のバランスを最適化。
  • 表面状態:黒化・塗膜による吸収率制御が有効な場合がある。
  • 雰囲気・シールド:酸化抑制とレンズ汚染対策に寄与。

線エネルギーの考え方

線エネルギーEはE=P/v(J/mm)で表し、Eが大きいほど硬化深さは増すが、過大では溶融・凹みを招く。逆にEが小さすぎるとAc1に達せず軟点が残る。目標硬化深さと許容ひずみからEの設計値を定め、試行でビード形状・硬さ分布・金相を確認して微調整するのが実務的である。

走査戦略とトラック設計

長尺軸では軸方向の直線走査、歯面では歯形追従の輪郭走査、平面大面積ではラスタ走査を用いる。端部や曲率変化部は入熱が集中しやすいため、端部オフセット、往復走査の折返し減速、パワーモジュレーションで均一化する。重ね代は熱蓄積とムラの妥協点を選ぶ。

  1. 前処理(脱脂・スケール除去・吸収調整)
  2. 焦点合わせ・試験照射
  3. 本走査(パワー・速度の閉ループ運転)
  4. 冷却・硬さ測定・外観検査
  5. 必要に応じて軽微な仕上げ研磨

品質保証と評価

品質指標は表面硬さ(例:HRC換算)、硬化層深さ、有効硬化深さ、硬さ勾配、寸法変化、表面粗さなどである。断面硬さトラバースと金相観察で基準化し、量産では渦流探傷や赤外/二色パイロメータによる温度トラッキングの記録を活用する。硬さムラが出る場合は重ね代と速度のチューニング、端部のパワーリダクションで改善する。

代表的な欠陥と対策

  • 溶融・凹み:E過大。出力低減、速度増、ビーム拡大で回避。
  • 軟点・未硬化:E不足。出力増、速度減、吸収率向上で対策。
  • 割れ:急峻な温度勾配や応力集中。予熱、角部面取り、走査順変更。
  • 酸化・すす:シールド不十分。ガス流量見直し、光学防汚。

装置構成と制御

熱源はfiber、diode、disk、CO2などが用いられ、出力安定性とビーム品質が重要である。光学系はコリメーションとビーム整形、ライン/矩形形成、ガルバノスキャナやロボットにより高速・高精度に走査する。温度は赤外計測でモニタし、パワーフィードバックや走査速度制御で一定の熱履歴を保つ。治具は位置決め再現性と遮光安全を両立させる設計とする。

安全と環境

レーザビーム焼入れは高出力Class 4に属し、遮光筐体、インターロック、適合ゴーグル、迷光対策、反射防止が不可欠である。煙霧・微粒子は局所排気で捕集し、レンズ汚損を防止する。設備はJIS/IEC 60825に準拠した安全設計とし、作業手順書に基づいて運用する。

適用例と設計ポイント

  • 歯車歯面・歯元:等硬化深さを狙い、歯端の入熱過多を抑制。
  • カムローブ:輪郭追従で硬化帯を均等化、折返し部を緩和。
  • シャフト座・キー溝:段差や角Rの応力集中を面取りで緩和。
  • 金型エッジ・スライド:エッジ丸みとパワー逓減で欠け対策。
  • 土農工具刃先:摩耗帯のみ局所硬化し、靭性とのバランスを確保。

工程FMEAでは、熱履歴ばらつき、端部不良、光学汚染、治具位置ずれ、温度計測誤差を主要リスクとみなし、定期キャリブレーション、試験片による立ち上げ検証、トラック設計の標準化、記録データの統計管理を組み合わせて安定稼働を図る。これらを踏まえれば、レーザビーム焼入れは小ひずみ・高能率・高再現の表面硬化手段として、機械要素の寿命向上とトータルコスト低減に大きく寄与する。