波長変換器
波長変換器は、入射した光の波長(光周波数)を別の波長へ能動的に変換する装置である。用途は大きく二系統に分かれ、第一に非線形光学効果を用いてレーザ光を短波長化(第二高調波など)や長波長化(差周波発生など)するタイプ、第二に光通信のWDM環境で信号波長を別チャネルへ移す通信系タイプである。前者はBBOやPPLNなどの非線形結晶や導波路を用い、高効率化のための位相整合設計が中核となる。後者はO-E-O変換や全光学FWM(四光波混合)を用い、透過帯域と歪み、OSNRの管理が要点となる。両者に共通して、変換効率・雑音・安定性・耐光損傷の最適化が設計の肝となる。
定義と分類
波長変換器は「入出力の光周波数を意図通りに置換する機能ブロック」と定義できる。レーザ応用ではSHG(Second Harmonic Generation)、SFG(Sum Frequency Generation)、DFG(Difference Frequency Generation)、OPO/OPAなどの非線形過程を活用する。一方で通信系の波長変換器は、WDMでのチャネル詰め替えや保守を目的に、O-E-Oリタイマや全光学FWM、XGM/XPM(半導体光増幅器)などを用いる。
非線形光学の原理
レーザ用波長変換器は物質の二次・三次非線形感受率(χ(2)、χ(3))を利用する。SHGは基本波fから2fを得る代表例で、SFGはf1とf2の和、DFGは差周波を生成する。効率はポンプ強度、相互作用長、ビーム集光条件(Boyd–Kleinman因子)、結晶の有効非線形係数、ならびに位相整合の達成度に依存する。
位相整合と材料選定
高い変換効率には位相整合(Δk≈0)が不可欠である。複屈折位相整合(角度位相整合・温度位相整合)に加え、周期分極反転を施すQPM(PPLN、PPKTP)が広く用いられる。材料はBBO、LBO、KTP、LN(LiNbO3)などが代表で、透過域、非線形係数、GVM(群速度不整合)、ウォークオフ、損傷しきい値、温度特性を総合評価して選定する。導波路型PPLNは低パワでも高効率が得られ、小型化にも有利である。
構成方式(レーザ用)
単パス型は構成が簡素で堅牢だが閾値が高い。リングやリニアの共振器内SHGはキャビティ蓄積で効率を高められる。OPO/OPAはポンプから可変波長の信号・アイドラを得る手段で、広帯域可変光源や中赤外発生に向く。温度制御、位相整合角調整、ARコート、熱レンズ対策などの実装が安定出力の鍵である。
通信ネットワーク向け方式
通信系波長変換器は、(1)O-E-O型:受光→電気再生(リタイマ/リシェイプ)→発光で高信頼、(2)全光学型:FWMやXGM/XPMで低遅延・広帯域を狙う、に大別される。評価軸は入出力チャネル間アイパターン劣化、OSNR、チャネル間干渉、変換ペナルティ、伝送規格適合(例えば100G/400G級変調)などである。
性能指標と設計の勘所
レーザ用では変換効率(%)、出力安定度、ビーム品質(M2)、スペクトル線幅、ドリフト、空間歩行、受容帯域(角度・温度)、および耐光損傷が主要指標である。設計ではポンプのコヒーレンス、ビーム径と結晶長の整合、温度揺らぎの抑制、反射・散乱ロスの最小化が重要となる。通信用ではエラーフロア、Q値、ジッタ、CD/PMD耐性、FEC併用時の実効スループットが焦点となる。
主な応用例
産業・研究用途では、1064→532 nmのSHGグリーン、UV生成(例えば266 nm)、中赤外分光、LiDAR、蛍光励起、周波数コム展開、量子光学のSPDC源などが典型である。通信分野ではトランスポンダ内のチャネル変換、保守回避、動的波長割当て、障害時の自動振替に波長変換器が使われる。
導入時のチェックリスト
用途要件から逆算して構成を決めると失敗が少ない。以下の観点を順に確認する。
- 目標波長・出力・帯域(単色/可変)
- ビーム品質と許容ノイズ(RIN、位相雑音)
- 環境条件:温度範囲、振動、クリーン度
- 保守性:結晶寿命、コーティング耐久、再調整容易性
- 安全と規格:レーザ安全クラス、電気/EMC要件
- TCO:初期費用、光源/冷却/制御の運用コスト
補足:代表的材料と特徴
BBO(広い透過域・高ダメージしきい値・歩行大)、LBO(熱特性良・SHG実績豊富)、KTP(高効率・グリーンで実績)、PPLN/PPKTP(QPMで低閾値・導波路化容易)など。材料と位相整合方式の組合せで、効率・帯域・耐久の折衝点を設けることが実践的である。
実装と運用のポイント
光学調整は偏波管理と温度域設定が要。導波路型はファイバ連結の損失最小化、バルク型はビーム品質と結晶アライメントの再現性が鍵となる。通信装置ではトランシーバとの相互運用、監視MIB、アラーム設計、保護切替シーケンスを事前に検証する。いずれも波長変換器のログ取得と劣化トレンド監視が安定稼働に効く。
よくあるトラブルと対策
効率低下は位相整合ずれ、汚染、コーティング劣化、ポンプドリフトが主因である。温度・角度の再最適化、結晶表面の清浄化、ポンプの安定化で改善する。通信系のエラーフロアはOSNR不足や非線形歪みが多く、増幅段の最適化やスペクトル整形で対処する。保守では光学面の無接触清掃と、防塵・除振の基本を徹底する。