パウダーベッド方式
パウダーベッド方式は、粉末材料を薄層で敷き詰め、その所定部分のみをエネルギ源で溶融・焼結して層ごとに積み上げる積層造形(Additive Manufacturing, AM)の代表的手法である。国際規格では Powder Bed Fusion(PBF)と呼ばれ、金属向けのPBF-LB/M(レーザ溶融)やPBF-EB(電子ビーム溶融)、樹脂向けのPBF-LB/P(選択的粉末焼結、一般にSLSと呼称)が含まれる。複雑内部流路の一体化や軽量格子構造の創成に適し、治具から最終製品まで幅広く用いられる。粉末性状、雰囲気、走査条件が密接に品質に影響するため、工程管理と設計指針の理解が重要である。
原理とプロセスの流れ
造形は①リコーターで粉末を指定厚みに敷設、②レーザまたは電子ビームで断面形状のみを溶融(または焼結)、③プラットフォームをΔzだけ下降、④次層を敷設して繰返す、というサイクルで進む。金属ではArやN2の不活性雰囲気下でO2濃度を厳密管理し、プラットフォーム予熱で熱応力と反りを抑える。溶融による急速凝固は微細組織をもたらす一方、残留応力や気孔のリスクがあるため、後工程の熱処理やHIPを併用することが多い。
方式の分類
PBF-LB/Mは金属粉末をレーザで溶融して高密度を得る方式である。PBF-EBは真空中の電子ビームを用い、帯電しやすい粉末でも安定造形が期待できる。PBF-LB/P(SLS)は主に熱可塑性樹脂を焼結し、サポート材を用いずに造形できる場合が多い。用途・材料・装置環境に応じて導入形態が選択される。
主な材料例
金属:Ti-6Al-4V、AlSi10Mg、316L、Inconel 718、CoCr、マルエージング鋼など。樹脂:PA12、PA11、TPU、PBT系など。粉末は球状度と粒度分布が重要で、流動性・含酸素・含水率が造形安定性と機械特性に影響する。
装置構成と主要パラメータ
装置はビルドチャンバ、粉末供給・回収系、リコーター、エネルギ源(レーザ/電子ビーム)、スキャンヘッド、雰囲気制御(ガス循環・酸素計)、監視センサ群で構成される。主要パラメータはレーザ出力P、走査速度v、ハッチ間隔h、層厚t、スポット径dなどで、線エネルギ密度の観点では概念的にE≈P/(v×h)で整理できる。スキャン戦略(ストライプ、チェッカーボード、層ごとの回転)は熱履歴と残留応力、気孔形成に影響する。
雰囲気と安全
金属粉末は微細で可燃性や粉じん爆発の危険がある。不活性ガス循環、静電気対策、集じん・防爆設計、保護具(手袋・防塵マスク)を徹底する。粉末の搬送・ふるい・保管は密閉容器とロット管理で行う。
設計ガイドライン(DfAM)
造形方向を早期に決め、オーバーハング角を抑えサポート最少化を図る。一般に45°程度までが無サポートの目安である。最小肉厚・溝幅・穴径・文字高さなどの可製造限界を把握し、後加工面(基準穴・基準面)を確保する。ラティスやトポロジー最適化で軽量化・放熱・剛性最適を狙える。内部流路は粉末抜きが可能な開口・勾配・ドレン設計が必要である。
公差と表面粗さ
as-built表面はレーザ溶融痕や付着粉で粗くなりやすい。一般的にRaは二桁μm台となることが多く、摺動・シール面は機械加工や化学的・電解的後処理で仕上げる。ネジ孔は下穴のみ造形してタップ・ヘリサートを後入れする運用が安定する。
品質保証と検査
前工程:粉末の粒度分布・球状度・流動度・酸素/水分の分析と受入評価。中工程:メルトプールモニタ、層画像、フォトダイオード/パイロメータによる発光・温度の監視。後工程:応力除去焼鈍やHIPで緻密化し、必要に応じCT、浸透探傷、超音波などのNDTを適用する。ビルドログ、センサデータ、パラメータレシピを統合管理し、トレーサビリティを担保する。
粉末のリサイクル
未溶融粉末は回収・ふるい分けして再利用するが、熱履歴や酸化による劣化を考慮しリフレッシュ粉との混合比を管理する。ロット追跡と品質指標(流動度・酸素量)を定期測定することで安定運用が可能となる。
欠陥モードと対策
主な欠陥は気孔(ガス巻込み・キーホール)、溶け込み不足、未溶融、ボール化、スパッタ堆積、反り・割れ(残留応力)である。対策は線エネルギ最適化、スポット径・焦点位置調整、スキャン順序の工夫、プラットフォーム予熱、粉末更新、サポート配置最適化などがある。
後処理と仕上げ
金属では応力除去焼鈍、HIP、時効・溶体化などの熱処理で機械特性を整える。表面はショットピーニング、バレル研磨、ブラスト、化学的・電解的研磨、コーティング等を用途に応じて選択する。基準面や嵌合部は切削・研削で精度を仕上げる。
適用分野と導入ポイント
航空宇宙の軽量部材、医療インプラントや患者別ガイド、金型インサートへのコンフォーマル冷却、ロボティクスの一体化構造、熱交換器・ヒートシンクなどで成果を挙げる。導入では部品点数削減、在庫のデジタル化、リードタイム短縮、カスタム化価値をKPI化し、造形設計・後加工・検査を一体で計画することが肝要である。
コストと生産性の考え方
ビルド高さを抑え、ネスティングで充填率を高め、サポートを削減し、後工程の自動化でタクトを短縮する。粉末の歩留まりを監視し、保守・消耗品・ガス・電力を含めた総所有コストで評価する。
規格・適合・バリデーション
ISO/ASTM 52900の用語体系を起点に、設計指針の52910、試験やプロセス特性の関連規格、粉末取扱い(52907)などを参照し、IQ/OQ/PQで装置・工程の妥当性を確立する。医療や航空宇宙では追加の法規・顧客要求に基づく材料証明・記録管理が必須である。