適応制御系
外乱やモデル不確かさの下でも所望の応答を維持するために、制御器のパラメータを運転中に更新する仕組みが適応制御系である。対象の動特性が時間と変動する、初期同定が難しい、製造ばらつきが大きい場合に有効で、固定ゲインでは達成しにくい性能と頑健性の両立を狙う。実運用で用いられる。産業・交通・エネルギー分野で需要が高い。
基本概念
- 参照モデル:望ましい動作を与える安定モデル。
- 調整機構:誤差からパラメータを更新する法則。
- 推定器:未知パラメータや状態を推定する仕組み。
- 制御器:推定値と参照モデルを用いて入力を生成する。
代表的手法
MRAC(Model Reference Adaptive Control)
参照モデルを定め、追従誤差を小さくするよう更新法を設計する。Lyapunov関数を用い、勾配更新、σ修正、投影法で収束性を確保する。
STR(Self-Tuning Regulator)
入出力データから逐次同定(RLS, ARXなど)を行い、その推定モデルに対して制御器(極配置、最小分散など)を再設計する。交互に進む。
L1適応・GPCほか
高速更新とローパス整形で高周波を抑えるL1法、予測モデル上で最適入力を解くGPCなど、むだ時間や制約を伴う系への拡張が進む。
設計プロセス
- 仕様定義:整定時間、過渡、定常偏差。
- 対象仮定:相対次数、最小位相性、符号条件。
- 参照モデル:帯域と位相余裕を設定。
- 更新法選択:勾配、RLS、正則化(σ修正、忘却)。
- 安定性と実装:Lyapunov、PE条件、サンプリング、アンチワインドアップ。
安定性と収束性
Lyapunovの直接法で閉ループ安定性を示すのが標準である。追従誤差は有界化できるが、パラメータの真値収束にはPE(persistent excitation)が鍵となる。実務ではドリフト防止のため投影、デッドゾーン、微小リーケージを併用する。
ロバスト性と制約
未モデルダイナミクスや時変外乱には、フィルタで高周波増幅を抑え、規範モデル帯域を控えめにする。非最小位相ゼロを持つ場合は直接追従が不可能なため、出力再定義や内部モデル原理を用いる。強い飽和がある系ではアンチワインドアップが必須である。
実装・チューニング
- 初期値:保守的な初期ゲインと狭い投影集合。
- 励起:試験信号や切替えで励起度を確保。
- ノイズ:前処理フィルタ、差分の抑制、数値微分の回避。
- 監視:更新凍結、フェールセーフ、固定ゲイン切替え。
応用例
航空機の舵面制御、産業用ロボットの負荷補償、工作機械の熱変形補償、化学プロセスのレシピ切替え、電動アクチュエータの摩擦変化への追従で実績がある。センサと計算資源の向上で適用範囲は拡大している。
関連理論との位置づけ
ロバスト制御は最悪外乱に対する一括設計で、不確かさ集合を事前固定する。一方適応制御系は運転中の情報からパラメータを更新し、時間変動に追随する。両者を組み合わせ、基底はH∞/LQRで設計し、その周辺を適応で微調整する構成も実務的である。状態推定にはKalman filterや拡張オブザーバを併用する。
コメント(β版)