制振構造|エネルギー吸収で地震時の揺れ抑制

制振構造

制振構造とは、地震や風などの外乱により生じる建物・橋梁・塔状構造物の振動エネルギーを、ダンパー等の付加要素で吸収し、応答加速度や層間変形角を低減する構造方式である。材料の塑性化に依存する従来の耐震に比べ、入力エネルギーの一部を能動的・受動的に散逸させる点に特徴がある。粘性ダンパー、履歴(鋼材)ダンパー、粘弾性ダンパー、制振壁、連結制振、チューンドマスダンパ(TMD)、アクティブ・セミアクティブ制振など多様な手法があり、既存建物の増改築や高層建物、長大橋、産業プラントの配管・機器にも適用される。設計では目標性能(最大層間変形、加速度、非構造部材の損傷抑制など)を定め、モード特性と減衰付加量を最適化する。

原理と効果

振動系におけるエネルギー収支は「入力=運動+ひずみ+散逸」で表され、制振構造は散逸項を意図的に増やす。粘性要素は速度比例力でエネルギーを熱に変換し、履歴要素はヒステリシスループ面積としてエネルギーを吸収する。一次モード卓越の中高層では上層応答の抑制効果が大きく、体感加速度の低減や内装・設備被害の抑制につながる。等価減衰比h_eqの増加は応答スペクトル低減に直結し、同一入力でも最大変位・加速度が低くなる。

免震・耐震との違い

免震構造はアイソレータで入力を遮断して周期延長と減衰付加を図るのに対し、制振構造は主として上部構造内に減衰要素を配置しエネルギーを散逸させる。従来の耐震設計は部材の塑性化と靱性で応答に耐える考え方である。建物用途や敷地条件、地盤、目標性能、上部構造の剛性分布を踏まえ、免震・制振・耐震を適切に選択・組合せる。

主な制振デバイス

デバイス選定は応答モード、温度環境、メンテナンス性、設置スペース、火災時挙動などを総合評価する。複数種類の併用により広帯域の低減も得られる。

  • 粘性ダンパー:油圧シリンダとオリフィスで速度比例の減衰力を発現し、風と地震の双方に有効。
  • 履歴(鋼材)ダンパー:座屈拘束ブレース等で安定した塑性履歴を確保し、繰返し吸収性能に優れる。
  • 粘弾性ダンパー:ポリマー層のせん断変形で減衰を得る。温度依存性と長期劣化の評価が要点。
  • 制振壁・連結制振:隣接棟やコアと外周架構をダンパで連結し、相対変位を利用して散逸。
  • TMD(チューンドマスダンパ):付加質量とバネ・ダンパを調整し、共振近傍のピークを狙って低減。
  • MR(磁気粘性)ダンパ等のセミアクティブ:外部電源で減衰力を可変制御し、広範な入力に適応。

設計法と評価指標

制振構造の一次設計では、目標層間変形角、上部加速度、非構造部材の許容値を設定し、モーダル解析で主要モードへ減衰を集中させる。応答評価は応答スペクトル法(等価線形化)や時刻歴応答解析で行い、ダンパーの非線形特性(速度指数、降伏耐力、履歴則)をモデル化する。一般に等価減衰比はc=2mωhの関係で追加減衰を見積り、設計用の応答スペクトルあるいは地震応答解析で性能確認を行う。風に対してはガスト応答解析や加速度基準で体感限界を照査する。

配置計画と施工・維持管理

ダンパーは層間変形の大きい位置に集中配置するのが効率的であるが、偏心を助長しないよう平面・立面のバランスに留意する。耐力壁・ブレース・制振壁との整合、接合部の降伏先行防止、アンカーや座金の座屈・抜け出し防止が重要である。粘弾性材は温度管理と耐久性評価、粘性ダンパーは漏油監視とシール材寿命、鋼材ダンパーは累積塑性変形の管理が必要である。定期点検計画と交換性の確保、火災時・長期風応答時の安全側設計を併せて実施する。

TMD設計の要点

高層建物や煙突・塔状構造ではTMDが有効である。質量比μ(付加質量/主系質量)は1〜5%程度が実務的で、チューニング比f(TMD固有/主系固有)を1.0付近に設定し、TMD減衰比ζ_tmdは10〜20%程度が目安である。複数モード対応には複数TMDや分散配置を用いる。設計では主系の周波数シフトや施工誤差、温度に伴う特性変動を考慮し、試験体で実機相当の減衰力—速度特性を確認する。

アクティブ・セミアクティブ制振

アクティブ制振はアクチュエータで外力を与える方式で、制御則(LQG等)により広帯域で応答低減を狙うが電源・冗長性確保が課題となる。セミアクティブはMR流体や可変オリフィスで減衰力を連続可変とし、受動要素並の信頼性を保ちながら入力適応性を高める。実装ではセンサー配置、フィードバック遅延、フェイルセーフ、長期保守の枠組みを設計段階から織り込む。

地震・風入力と性能設計

地震時は設計用の地震荷重に対し、層間変形角やダンパーの累積損傷指標で性能を規定する。長周期地震動やパルス性入力に対しては、速度依存型のダンパー特性と降伏型の履歴要素を適切に組み合わせることが効果的である。風設計ではサービス性能(加速度・微振動)の管理が中心となり、年超過確率に応じて目標値を設定する。外装・内装の機能維持や設備機器の共振回避も重要である。高層・長大構造では風荷重評価と併せ、常時微動計測で実効減衰の同定を行い、維持管理に反映する。

関連項目

関連する解説として、耐震設計免震構造地震応答解析応答スペクトル地震荷重風荷重がある。これらを併読することで、目標性能に応じた制振構造の適用判断と設計全体像を体系的に把握できる。