設計計算
設計計算とは、要求仕様を満たす製品・設備・部品の成立性を数量的に検証し、必要な寸法・強度・性能・安全余裕を定めるための体系的手順である。設計段階での数値検証は手戻りや不具合を未然に防ぎ、品質・コスト・納期(QCD)の最適化に直結する。想定使用環境・負荷・寿命・法規の制約を満たしつつ、モデル化・近似・安全率の扱いを一貫させることが肝要である。紙と鉛筆の見積り計算から表計算、CAE(FEM/CFD)まで手段は多様だが、前提条件と根拠の明示、再現性の担保が最優先である。
目的と位置付け
設計計算の主目的は、(1)要求機能の実現可能性、(2)規格・法規の適合、(3)製造・保守性の確保である。構想設計での当たり検討、基本設計での成立性確認、詳細設計での寸法・公差決定という階層に沿って深度化させる。節目ごとに設計レビューを通し、仮定・荷重・境界条件・許容値の妥当性を第三者が検証する体制を組む。
前提条件と仕様の明確化
- 荷重条件:静荷重、衝撃、疲労、熱応力、圧力、振動、ねじり、座屈の有無
- 環境条件:温度範囲、湿度、腐食、粉塵、真空、放射線、EMC
- 使用プロファイル:デューティ比、使用時間、点検周期、設計寿命
- 信頼性指標:故障率、MTBF、要求安全水準(SIL/PL)
- 規格・標準:JIS/ISO/IEC 等の適用条項と限界値
単位・公差・安全率
単位はSIを基本とし、換算は系統表で固定する。公差は機能公差と製造公差を切り分け、幾何公差(GD&T)で機能を担保する。安全率は材料ばらつき、荷重不確かさ、モデル化誤差、経年劣化を含めて設定し、脆性破壊や疲労のモードには別途の評価基準を設ける。
モデル化と簡略化の原則
現象を支配する支配方程式・支配無次元数を特定し、必要最小の自由度で表現する。境界条件は実機を模擬し、線形化・集中定数化・等価剛性化などの近似は適用理由と影響範囲を明記する。最悪条件と代表条件の両輪で検証することが望ましい。
代表的な計算領域
静力学・強度
- はり・軸・板の応力・たわみ、ねじり角、座屈限界
- 疲労(S-N、Mean stress 補正)、クリープ、摩耗、接触応力
- 締結部のボルト軸力、ばね定数、トルク伝達、キー・スプラインのせん断
熱・伝熱
- 定常/過渡、伝導・対流・ふく射の合成伝熱、熱抵抗網
- 熱膨張とクリアランス、熱歪み、ヒートシンク選定、ΔT見積り
- 熱源分布とピーク温度、温度サイクルによる疲労
流体・気体
- レイノルズ数評価、層流/乱流判定、圧力損失(Darcy–Weisbach)
- ポンプ/ファンの点選定、キャビテーション余裕、配管径最適化
- 圧縮性の影響、リークレート、フィルタ圧損、ベルヌーイの適用範囲
電気・制御
- Ohm/P=VI/損失計算、配線電流容量、温度上昇
- ノイズマージン、接地設計、EMC余裕
- 制御系のゲイン余裕・位相余裕、サンプリングとNyquist条件
数値解析とツール選定
手計算と表計算で見通しを得た上で、CAEを用いて局所応力や流れ場を精査する。FEM/CFDはメッシュ独立性、時間刻み、ソルバ収束を確認し、検証(Verification)と妥当性確認(Validation)を分けて実施する。自動化には表計算のパラメトリック計算やPythonスクリプトを活用する。
不確かさと信頼性設計
公差累積は最悪値法と統計法を使い分ける。入力のばらつきに対する感度を求め、Monte Carloで出力分布と達成確率を評価する。6σ設計やロバスト最適化の導入で量産ばらつきに強い設計に近づく。
ドキュメンテーションと再現性
計算書は目的、入力(根拠付き)、方法(式・参照・仮定)、結果(数値と単位)、検算、結論の順で構成する。変数命名、版管理、トレーサビリティを統一し、第三者が追試可能な形で保存する。数式の次元整合性チェックと桁感の検算を習慣化する。
実務フローの例
- 要求仕様・法規の抽出と合意
- 基礎式と支配要因の同定、当たり計算
- 主要寸法・安全率の一次決定
- CAEによる局所・過渡現象の精査
- 感度解析・公差設計・量産揺らぎ評価
- 試作評価計画と受入れ基準の設定
- 設計レビューでの承認と凍結
よくある誤りと対策
- 前提の未確定:条件表を作りステークホルダー承認を得る
- 単位混在:SI固定と換算表の一本化、ツールに単位チェックを組み込む
- 境界条件の過度単純化:実機拘束を反映し、感度で妥当性を検証
- 疲労・座屈の見落とし:静強度と別系統で評価フローを用意
- 過信:独立検算・ピアレビュー・異常値テストを義務化
QCDと最適化
設計計算は性能だけでなく、材料費、加工時間、治具、組立性(DFM/DFA)に影響する。多目的最適化や感度に基づく寸法調整で、性能のボトルネックを低コストに解消する。制約条件を明確にし、実現可能領域内でのロバスト解を狙う。
法規・規格の遵守
圧力容器、昇降装置、電気安全、機械指令などの適用範囲と限界値を事前に確認する。材料許容応力や試験基準はJIS/ISOの該当条項を根拠に採用し、国家認証や第三者検査が求められる場合は計算書の体裁・トレーサビリティを公的審査の要求水準に合わせる。以上の枠組みを通じ、設計計算は安全・信頼・経済性の均衡点を実務的に見出すための中核プロセスとなる。