ダイアフラム
ダイアフラムは、薄く柔軟な膜材を機械要素として用い、圧力の伝達、流体の遮断、微小変位の検出などを行う部品である。弁・ポンプ・圧力センサ・音響機器など用途は広く、金属薄板、エラストマー、PTFE、織布補強複合材など多様な材料が採用される。周縁をクランプ固定し中央部が圧差でたわむ構造が基本で、摺動密封を伴わず粒子発生が少ないため衛生・クリーン用途に適する。設計では感度と耐久性、化学耐性と温度範囲、透過性と応答性などのトレードオフを最適化する。
構造と材料
ダイアフラムは円板状が一般的で、リム部をハウジングに挟持し、中央部が変形して機能する。平板型のほか、同心円状のコルゲーションで柔軟性と行程を確保する設計も多い。金属はSUS304/316L、Ni、Inconelなどが用いられ、高温・低透過・低ヒステリシスに優れる。エラストマーはNBR、EPDM、FKMが代表で、変位量が大きくシール性に優れる。PTFEやPTFE+織布補強は強い耐薬品性と低吸着が求められるプロセスに適する。
材料選定の指標
- 温度範囲と熱老化特性
- 耐薬品性・抽出物の少なさ・溶出規制適合
- ガス透過係数と透過起因の性能ドリフト
- ヒステリシス・クリープ・応力緩和
- 応力集中の回避(コルゲーション設計、補強布)
- パーティクル・アウトガス管理、クリーン度
- 規格適合(FDA 21 CFR、USP Class VI、ASME BPE、3-Aなど)
力学モデルと設計式
平板理論に基づく小変形域では、周辺固定円板の中央たわみδは、圧差p、半径a、厚さt、ヤング率E、ポアソン比νにより概ね δ ≈ 3(1−ν^2)p a^4 / (16 E t^3) と近似される。薄いほど感度は高まるが、許容応力と疲労寿命が制約となる。コルゲーションは等価ばね定数を低下させ、同圧差での変位を増やす有効手段である。
非線形領域
大たわみ域では膜張力が支配的となり、板曲げ支配から膜支配へと遷移する。これに伴い感度の非線形化やゼロ点シフトが生じるため、圧力センサでは作動域を限定し、ひずみゲージや静電容量の線形化・温度補償を合わせて設計する。
代表的用途
- ダイヤフラムポンプ:摺動シール不要でドライ運転が可能、AODD(air-operated double diaphragm)に代表される。
- 隔膜弁:流体と作動機構を隔離しデッドスペースを抑制、衛生・半導体薬液ラインで広く用いる。
- 圧力計・差圧伝送器:隔膜を介して圧力をひずみゲージや静電容量で電気信号化。
- 音響機器:スピーカやマイクの振動板として、剛性/質量/内部損失の最適化が鍵。
- 封止・隔離:バリア膜として圧力伝達しつつ媒体交差汚染を防止。
半導体・医薬での隔膜弁
ダイアフラム弁は接液部のクレビス(隙間)を抑えCIP/SIPに適し、PTFEやEPDM、複合構成で耐薬品性と弾性を両立させる。表面粗さ管理、圧痕のないクランプ、バルブボディの流路最適化により滞留を低減する。アクチュエータ側の背圧や温度上昇は寿命低下要因となるため、作動条件の安定化が重要である。
劣化・破損モード
繰返し曲げ疲労、化学的膨潤・クラック、ガス透過によるブリスター、ピンホール、熱老化、オゾン割れなどが代表である。金属では応力腐食割れや低サイクル疲労、PTFEではコールドフローやクレージングが懸念される。
予防保全
- 圧力スパイク・ウォーターハンマの抑制(スナッバ・ソフトスタート)
- 温度管理と化学適合材料の選定
- 締結トルクの規定化と座面粗さの管理
- 定期交換基準(サイクル数・累積時間・媒体別)
- 外観/寸法/硬度の定点監視と履歴管理
製造と加工
金属はプレス・ディープドロー・ハイドロフォームで成形し、必要に応じてコルゲーションを付与する。エラストマーはコンプレッション/トランスファ/インジェクション成形が一般的で、織布補強で耐圧・寿命を高める。PTFEはスカイビングやモールディング後に二次加工し、膜厚均一性と残留応力の低減が重要となる。
品質特性
- 膜厚ばらつき・初期たわみ・残留応力
- 漏れ率・ヒステリシス・温度ドリフト
- 繰返し寿命(サイクル耐久)と破断モード
- 抽出物/粒子、アウトガス、トレーサビリティ
計測・検査
圧力保持・バブル試験・Heリークでシール性を評価し、DMAやデュロメータで材料特性を把握する。センサ用ではデッドウェイトテスタで較正し、線形性、ヒステリシス、再現性、温度係数を規格(例:IEC 60770、IEC 61298)に沿って確認する。
設計上のトレードオフ
ダイアフラムは薄いほど感度が上がるが耐圧・寿命が低下する。コルゲーションは柔らかくなるが応力集中を招きやすい。PTFEは透過が小さく化学的に安定だが弾性回復が弱い。エラストマーは追従性に優れるが温度・媒体による物性変動が大きい。用途の圧力レンジ、温度、媒体、許容漏れ、クリーン度、規格要求を明示し、試験とフィードバックで最適化することが重要である。