ガソリン
ガソリンは原油から得られる揮発性の高い炭化水素の混合燃料であり、主に火花点火式内燃機関(オットーサイクル)で用いる燃料である。炭素数C4〜C12程度のパラフィン、イソパラフィン、オレフィン、芳香族が主成分で、初留点はおよそ30℃、終点は200℃付近の留分を指す。密度は約0.73〜0.76 g/cm³、体積発熱量は約34 MJ/Lで、蒸気は空気より重く低所に滞留しやすい。引火点はおよそ-40℃と低く、可燃範囲は体積比で約1.4〜7.6%であるため、取扱いには厳重な安全管理が必要である。
定義と組成
ガソリンは分子構造の異なる多数の炭化水素をブレンドして性能を最適化する。運転性や排出ガス、冷間始動性に影響するのは蒸留性状(ASTM D86/ISO 3405に相当する試験法が広く用いられる)であり、初期沸点域は始動性、中沸点域は加速性、終点域はカーボン堆積や蒸発残留分に関係する。硫黄分は触媒劣化を招くため低硫黄化が進み、近年は10 ppm程度以下が一般的である。
- 理論空燃比:約14.7(質量比)
- 自己着火温度:概ね250〜300℃
- 蒸気圧(RVP):季節により設定を変更し始動性と蒸発損失をバランス
製造プロセス
原油の常圧蒸留で得たナフサを基材に、FCC(流動接触分解)、ハイドロクラッキング、リフォーミング(芳香族化でオクタン価向上)、イソメリゼーション、アルキレーションなどを組み合わせ、所望の蒸留カーブとオクタン価になるようブレンドする。脱硫(HDS)で硫黄を低減し、最終的に地域の規格に適合させる。
季節調整と蒸気圧
寒冷期はRVPをやや高めて始動性を確保し、夏期は蒸発損失とベーパーロック抑制のためRVPを下げる。RVPはReid vapor pressure(ASTM D5191など)で管理し、車両側ではキャニスタとORVRが蒸発ガス抑制に寄与する。
オクタン価とノッキング
ガソリンの耐ノック性はオクタン価で表し、基準燃料のイソオクタン(100)とn-ヘプタン(0)に対する相対評価である。試験法にはRON(研究法, ASTM D2699)とMON(モーター法, ASTM D2700)があり、米国表示のAKIは(RON+MON)/2で与えられる。日本のレギュラーは概してRON 89以上、ハイオクはRON 96以上が一般的である。高圧縮比・過給機エンジンでは、ノックセンサーとECUの点火時期制御によりノッキングを回避しつつ効率を高める。
- RONとMONの差(S)は蒸気圧・ブレンド構成で変化
- 過度の芳香族はオクタン価向上に寄与するが堆積物や排出への影響に留意
添加剤とバイオコンポーネント
ガソリンには清浄剤(PEA/PIB系)や酸化防止剤、防錆剤、染料などが少量添加される。酸素含有成分としてはethanol(E5〜E10)やETBEが用いられ、燃焼性とCO削減に寄与する一方、水混入時の相分離や材質適合性(ゴム・樹脂)に配慮が必要である。
規格と法規
代表的規格にはJIS K 2202(自動車ガソリン)やASTM D4814があり、揮発性、蒸留曲線、硫黄分、ベンゼン含有量、酸素含有率などの制限を定める。日本では消防法上、危険物第4類第1石油類に区分され、容器・貯蔵・運搬に厳格な要件がある。国際輸送ではUN1203が適用される。
品質管理と試験
留出性(ASTM D86/ISO 3405)、蒸気圧(ASTM D5191)、硫黄(ASTM D5453)、ゴム質(ASTM D381)、銅板腐食(ASTM D130)などの試験が品質保証で用いられる。車両適合の観点ではインジェクタ清浄性や吸気バルブ堆積抑制の評価が重視される。
エンジン燃焼と適用
ガソリンはPFI(ポート噴射)やGDI(筒内直噴)で供給され、三元触媒によりCO、HC、NOxを同時低減する。GDIは微粒化・層状給気で部分負荷効率に優れるが、粒子状物質(PM)対策としてGPFの採用が進む。オットーサイクルの熱効率は圧縮比向上やEGR、ミラー/アトキンソンサイクル、過給とノック限界の最適化で改善する。
安全・環境上の注意
ガソリン蒸気は引火しやすく、静電気や火気を厳禁とする。換気の悪い場所での扱いは中枢神経系への影響があり、ベンゼンなどの有害成分にも注意する。こぼれた場合は土壌・地下水汚染を引き起こすため速やかに吸収材で回収し、適切に処理する。
関連燃料との比較
ガソリンは点火プラグで着火する火花点火燃料であるのに対し、軽油は自己着火性(セタン価)を重視する圧縮点火燃料である。したがって圧縮比設定、燃料噴射方式、後処理装置の構成が大きく異なる。灯油は沸点範囲が高く、加熱機器や一部タービンでの利用が中心である。