1xEV-DO
1xEV-DOは、CDMA2000規格の拡張として開発された高速データ通信方式で、音声通信ではなくデータ転送専用に特化している。正式名称は“1x Evolution-Data Only”であり、CDMA2000 1xのキャリア帯域を利用しつつ、データレートを飛躍的に向上させることを目的に設計された。3G時代においては主に携帯電話事業者がモバイルデータ通信を提供するために採用し、音声用のCDMAチャンネルとは別に高速パケットデータを扱うことで、ストリーミングやインターネットアクセスの安定化を図った。
誕生の背景
CDMA2000は音声とデータの両方をサポートする第3世代移動通信方式だが、当初はデータ通信速度が限られていた。そこでデータ転送能力を強化するために新たに策定されたのが1xEV-DOである。通信事業者は既存の周波数帯域とインフラをできるだけ流用しつつ、ユーザーに高速なデータサービスを届ける必要があった。その要請に応える形で、高速データ専用のプロトコルを別途用意し、高効率な変調技術や適応変調などを導入している。
技術的特徴
1xEV-DOでは、高速ダウンリンクが重視される設計が特徴となる。基地局から端末へ向かうリンクには時分割のスケジューリングが採用され、一度に特定の端末だけに大きな帯域を割り当てる仕組みを用いる。これにより受信側は高い瞬間的スループットを得ることが可能になる。また適応変調と呼ばれる手法を活用し、電波状態が良好なときはより高い変調方式を適用して伝送速度を増大させ、状態が悪化した場合には低い変調方式へ自動的に切り替えて接続を安定させる。
リビジョンと速度向上
1xEV-DOは複数のリビジョンで高速化や新機能の追加が行われてきた。初期のRelease 0では最大2.4Mbps程度のダウンリンク速度が理論値だったが、後継のRevision Aでは上り速度の強化を含めて3.1Mbps程度に向上し、さらにはVoIPを想定した低遅延化などの最適化が施された。さらにRevision Bでは複数のキャリアを束ねるマルチキャリア方式を導入し、理論上は10Mbps超の転送速度を目指した。これらのリビジョンアップによって、ネットワーク事業者は段階的に設備投資を行いながら、サービス品質を引き上げることが可能となった。
運用面の課題
1xEV-DOは高速データ通信に優れる一方、音声通話と同時利用する場合の帯域配分やハンドオフに注意が必要だった。CDMA2000 1xで音声通話を維持しつつ、1xEV-DOで高速データを並行して扱う運用では、ネットワーク側でのリソース管理が複雑化する傾向があった。またLTEなどの次世代方式が普及するにつれ、1xEV-DOに割り当てられていた周波数帯を新たなサービスへ再編する動きも進み、機器のアップグレードや周波数の再配置が課題となった。
主な利用シーン
1xEV-DOは、スマートフォンが普及し始めた時期のデータ通信サービスを支えた重要な技術でもある。定額データプランの導入や、高速モバイルルーターの提供によってユーザーは外出先でもPCやゲーム端末でインターネットを活用できるようになった。一方、基地局側は1xEV-DO対応のハードウェアを追加導入する必要があり、地域によって速度や接続品質に格差が生じるケースもあった。それでも当時の標準的な要求水準を満たすには十分な容量を確保し、モバイルブロードバンドへの橋渡し的な役割を果たしたといえる。
後継規格との比較
1xEV-DOの後継としては、3GPP系ではHSPAやLTE、CDMA系ではUMB(Ultra Mobile Broadband)などが検討されたが、最終的にはグローバルな主流がLTEへ移行した経緯がある。1xEV-DOとLTEを比較すると、周波数利用効率や帯域幅の柔軟性などでLTEが大きく勝り、高トラフィック時のセルスループットでも差がついていた。結果として多くの通信事業者はLTEの導入を進め、1xEV-DOは一部地域やローミング需要を支える形で残存する場合が多かった。
現在の位置付け
4Gや5Gの普及が進んだ現在では、新規に1xEV-DO網を構築する意義はほとんどない。既存インフラとしての継続利用や、一部の産業用途で限定的に運用されるケースがある程度になっている。ただし、CDMA2000 1xネットワークで音声通話を行いつつ、データの高速化を実現する手段として機能した歴史的意義は大きい。移動通信技術の発展過程を振り返る上で、1xEV-DOの開発と普及は欠かせない一章といえる。