CENTO
CENTOは、既存の詩句や散文の断片を縫い合わせて新たな作品を構成する文芸技法である。語義は「継ぎはぎ」を示し、引用の連鎖によって別の物語や主題を立ち上げる点に特徴がある。古代の学校教育、韻律文化、宗教的表現、読書共同体の形成と結びつきながら展開し、近代以降は「引用」や「間テクスト性」をめぐる議論の中で再解釈されてきた。
語源と定義
CENTOはラテン語で「布切れを継いだ外套」などを指す語に由来するとされ、転じて「寄せ集め」「継ぎ合わせ」を意味する。文芸上は、先行作品から採った行や句を素材として、語順の調整や接続語の挿入、最小限の改変を通じて、連続した物語や主題を成立させる制作法を指す。引用が単なる装飾ではなく、作品全体の構造を担うことが重要である。
成立の背景
CENTOが成立しやすい環境として、朗誦や暗誦を重視する教育文化が挙げられる。古典作品の語彙と韻律を身体化した読者は、断片を取り出して再配置する操作に熟達しやすい。また、権威ある典拠への依拠は、作品の格調を保証する装置として働き、創作の正当性を支える役割も果たした。こうした条件は修辞学の訓練、ラテン語の韻律、そして古代ローマの文教制度と密接に連動している。
古代ローマにおける展開
古代には、叙事詩の権威が極めて高く、特にウェルギリウス作品は引用の宝庫として機能した。CENTOは、既存の英雄叙事の語彙を用いて別種の物語を語るため、読者は原典の記憶を手がかりに二重の意味を読み取ることになる。ここでは、作品理解が「原典を知ること」を前提とし、引用元の気配が消えないこと自体が表現上の効果となる。
代表例と典拠意識
古代末期には、既存の詩句のみで別の筋立てを作る試みが注目され、婚礼や神話など異なる主題に転用する作品が現れた。これらは、原典の権威を損なわずに別世界を組み立てる点で、単純な模倣から一歩進んだ高度な遊戯性を示す。読者は「どこから持ってきたか」を探る鑑賞行為を通じて、共同体内部の教養を確認することにもなる。
キリスト教文学と中世
CENTOはキリスト教的主題の表現にも用いられ、古典語彙を用いて聖書的世界を語るという形で展開した。異教的叙事の語り口を転用しながら、信仰の物語を新たに編み直すことは、古典文化の継承と再定位を同時に達成する手段となった。中世に入ると、注釈文化や写本流通の中で引用の実践が厚みを増し、中世の学芸的環境は断片の再配置を日常的な知の操作として支えた。
- 典拠の権威を借りて主題の正統性を示す
- 原典の語彙を聖なる物語へ転用する
- 注釈と朗誦の文化が鑑賞の前提となる
手法上の特徴
CENTOの制作は、素材の選定と接合の技術に依存する。断片は単体でも意味を持つが、隣接する断片との関係で新たな意味を獲得するため、継ぎ目の処理が作品の成否を左右する。継ぎ目は完全に隠される場合もあれば、あえて目立たせて読者の教養を刺激する場合もある。いずれにせよ、引用元の語彙や韻律の制約を受けつつ、物語の連続性を確保する点が核となる。
- 断片の選択は主題の設計図となる
- 接続語や語順調整で叙述の流れを作る
- 読者の記憶にある原典が解釈を増幅する
近代以降の再評価
印刷文化の発達とともに原典へのアクセスが容易になると、CENTOは学的対象として整理され、文学史の中で位置づけ直された。さらに近代の文芸理論では、引用・転用・再配置といった操作が創作一般に広く関わることが意識され、ルネサンス以来の古典受容史や、作品間の関係を扱う概念と結びついて論じられるようになった。現代においても、コラージュ的表現やリミックスの発想と接点を持つが、CENTOは典拠の権威と教養共同体を前提に成り立つ点で独自の歴史的輪郭を保っている。
研究上の論点
CENTOをめぐる論点は、創作性の所在、作者の意図、読者の教養条件、そして文化継承の形式に集約される。断片の出所が明確であるほど作品は「借用」に見えるが、断片配置の設計や継ぎ目の操作は独自の表現行為であり、単純な模写とは異なる。また、古典の権威をどう扱うかは、古典主義や学芸制度の変化とも連動する。CENTOは、引用を通じて共同体の記憶を編み直す装置として、文学史だけでなく知の社会史を考える素材にもなっている。
さらに、原典の断片が新たな文脈で意味を変える過程は、解釈学や読者論の観点からも検討される。原典を知る者と知らない者では読解の層が変わり、作品は単線的に読まれない。こうした多層性は、古典作品の伝統が長く維持された社会ほど顕著になり、CENTOという形式を通じて、古典と同時代の距離感そのものが露わになる。