非接触温度計|接触不要で正確迅速な温度測定

非接触温度計

非接触温度計は対象物に触れることなく赤外線放射を検出して温度を推定する計測器である。製造現場、電気設備点検、食品衛生、研究開発に広く用いられ、移動体や高温・高電圧・汚染リスクのある対象にも安全に適用できる。測定は瞬時で、プロセスの立ち上げ監視や品質管理に有効である一方、放射率や視野条件の扱いを誤ると系統誤差が大きくなるため、原理と仕様を理解した設定・運用が重要となる。

動作原理:赤外放射と温度

非接触温度計は物体が温度に応じて放射する赤外線(熱放射)を受光素子で電気信号に変換し、校正モデルに基づき温度へ換算する。熱放射はPlanckの法則に支配され、積分的にはStefan–Boltzmannの法則により放射エネルギーが温度の4乗に比例する。実物体は黒体ではないため放射率ε(0〜1)を考慮する。機器は波長帯域を限定する光学フィルタを備え、水蒸気やCO₂の吸収帯を避ける設計が一般的である。

主要構成と信号処理

  • 光学系:レンズやミラーで視野角(FOV)を規定し、所望のスポットサイズを形成する。
  • フィルタ:特定波長帯(例:8–14 μm、3–5 μm)を通過させ環境影響を低減する。
  • 受光素子:熱電対型、熱電堆、InGaAs等。感度、ノイズ、応答速度に影響する。
  • 演算部:放射率補正、距離補正、環境温度補償(内部サーミスタ等)を行う。
  • 出力:表示、アラーム、4–20 mA、0–10 V、RS-485やEthernetなど。

仕様と用語(読み方のコツ)

  • 測定範囲:−50 ℃級の低温から2000 ℃超の高温域まで機種で異なる。
  • 確度・再現性:黒体炉校正条件の値。現場では放射率設定や視野外混入の影響を受ける。
  • 分解能・応答時間:高速ラインではms級の応答が有利。
  • 光学比D:S:距離Dに対するスポット径Sの比。遠方ほどスポットが大きくなり背景混入に注意する。

放射率(ε)の取り扱い

放射率は表面状態と波長に依存する。つや消し塗装や酸化皮膜は高く、鏡面金属は低い傾向にある。未知の場合は代表値で開始し、既知温度点で合わせ込み(エミッタテープ使用や塗装スポットの作成)を行う。プロセスで表面が変化する場合は定期的な再確認が必要である。

距離・視野・置き方

測定位置はD:SとFOVを満たすよう調整し、スポット内を対象で満たす。背景に高温体や反射面があると指示が偏るため、遮光フードや角度を工夫する。粉じん・蒸気が多い環境では短波長帯モデルやエアパージで窓面の汚れを抑制する。

誤差要因と対策

  • 反射:低放射率金属は周囲放射の映り込みで過小・過大表示。黒化処理や斜め視野が有効。
  • 大気吸収:長距離や高湿度では減衰。適切な波長帯と距離短縮、空気パージで緩和する。
  • 視野外混入:スポットからはみ出すと平均化される。治具で位置決めする。
  • 窓材:石英、サファイア等は透過帯が限定される。機器の帯域と適合させる。
  • ドリフト:内部温度変化でゼロ点がずれる。ウォームアップや環境補償を活用する。

校正とトレーサビリティ

非接触温度計は黒体炉と標準温度計で校正し、JISやISOに整合するトレーサビリティ体系を維持する。使用環境や用途(品質記録、規制対応)に応じて年1回程度の校正を計画し、現場確認用に比較基準(接触式センサなど)を併用すると信頼性が高まる。

適用分野の実務ポイント

  • 電気設備:配電盤・端子・モータ軸受のホットスポット点検。負荷状態を記録し再現性を確保する。
  • 食品衛生:HACCP文脈で表面温度確認。表面と中心温度の差に留意し手順書を整備する。
  • 製造ライン:圧延、焼入れ、ガラス、樹脂成形での温度フィードバック。応答時間と視野管理が鍵。
  • 建築・設備:断熱欠損や空調吹出温度の確認。環境放射の影響を理解して解釈する。

選定・導入チェックリスト

  1. 対象温度域と材質(放射率、表面仕上げ、経時変化)。
  2. 波長帯(高温金属は短波長帯、一般用途は8–14 μm帯など)。
  3. D:Sと設置距離、視野確保の可否。
  4. 応答時間と外部出力(4–20 mA、RS-485、Ethernet)。
  5. 環境条件(粉じん、蒸気、振動、雰囲気温度)と保護等級。
  6. 校正・保守体制(黒体炉校正間隔、現場点検手順)。

二色温度計(比視放射温度計)

高温域や放射率が変動する対象では、2波長の比で温度を求める二色方式が有効である。視界の一部遮蔽や伝送損失に相対的に強いが、波長ごとの放射率差が大きい材料では補正が必要になる。

光学照準とフィードバック制御

レーザポインタやビューファインダは狙点の可視化に有効で、搬送ラインでの位置再現性を向上させる。アナログ出力やデジタル通信を用いれば温調器やPLCと連携し、温度偏差に応じたフィードバック制御が可能である。

安全・衛生面の留意事項

非接触温度計は感電・火傷リスク低減に寄与するが、レーザ照準を用いる場合はクラスと目の安全を順守する。食品や医療関連では機器の清拭・保管を徹底し、測定手順(距離、角度、放射率設定)を標準化することで記録の一貫性を確保できる。