非常照明|停電時の視認性確保と安全誘導

非常照明

非常照明は、火災・地震・停電などの非常時に避難経路と安全上重要な箇所の視認性を確保する照明設備である。常用電源の喪失や煙・粉じんによる視界低下が生じても、通路の方向、段差、障害物、避難口を速やかに見分けられる状態を維持することが目的である。一般に建築物の用途・規模・階数に応じて設置義務と性能要件が定められ、器具は耐震性・耐熱性・信頼性の観点から専用設計が採られる。光源は近年LEDが主流であり、長寿命化と省エネ、自動点検機能との親和性が高い。

法的位置づけと適用範囲

非常照明は建築関連法令や消防関連規程で設置対象・照度・点灯継続時間・点検周期が規定される。対象は避難階通路、共用廊下、階段、機械室、集会室など多数で、用途変更や増改築時にも再評価が必要となる。設計者は用途別基準と実際の避難行動を踏まえ、避難開始から建物外安全域到達まで視環境が連続して確保されるよう配灯計画を立案する。

構成要素と電源方式

  • 器具本体:耐熱・耐衝撃ハウジング、拡散・集光レンズ、LEDモジュール、自己診断回路を備える。
  • 電源:蓄電池内蔵(Ni-MHやLi-ion)、集中蓄電池、非常発電機、UPSなどから選定する。
  • 配線:耐火・耐熱ケーブル、専用幹線、常用系と非常系の二重化、誤作動防止の制御回路。
  • 制御:停電検知自動点灯、手動試験スイッチ、定期セルフテスト、故障警報出力。

点灯方式(常用兼用/専用)

非常照明の点灯方式は概ね二類型に分類される。常用兼用は平常時は減光または調光して通路照明として用い、停電時に自動的に非常モードへ切替える。専用型は平常時は消灯し、停電検知時のみ点灯する。兼用は器具数削減・省スペースの利点があるが、光学設計・調光制御の整合が重要である。専用は干渉の少ない確実性が長所で、特殊環境下で採用されることが多い。

光学設計と照度分布

避難行動は足元視認と方向判断が中心であるため、鉛直面・水平面の両照度と均斉度が重要となる。階段では蹴上・踏面の識別、踊場の回頭部、手すり位置の視認を重視する。通路では進行方向の連続性を確保するため、重なり合う配光とグレア抑制が求められる。レンズや配光制御により、必要照度を過不足なく確保し、眩しさと反射の影響を抑える。

光源選定と電池容量

LEDは高効率・即時点灯・低温特性の点で適する。演色性は最低限の識別性を満たせばよいが、避難誘導標識や段差の色識別を考慮して過度に低下させない。電池容量は所要点灯時間、環境温度、劣化を見込んだ設計余裕(ディレーティング)を確保する。自己放電やサイクル寿命を考慮し、充電アルゴリズムはフロート充電と定期的な均等化・自己診断を組み合わせる。

設計手順(実務の流れ)

  1. 用途・法規要件の整理:対象室・経路・点灯時間・検査要件の明確化。
  2. 避難シナリオ設定:最大収容、最遠経路、段差・障害の抽出。
  3. 配灯計画:配光データによる照度シミュレーション、均斉度評価、グレア評価。
  4. 電源計画:単独蓄電・集中蓄電・発電機・UPSの組合せ検討と冗長化。
  5. 回路・配線:耐火区画貫通部の処理、系統分離、保護協調。
  6. 保全設計:自己診断周期、交換容易性、部品標準化。

保守点検と更新

非常照明は定期点検が不可欠である。手動試験スイッチや自動自己診断により、電池容量低下、LED異常、充電異常、配線断を早期検出する。電池は経年で容量が低下するため、設計寿命より前倒しで予防交換を計画する。器具交換時は最新基準・配光データに基づき、旧器具同等以上の照度・均斉度が確保されることを現地実測またはシミュレーションで確認する。

特殊環境への対応

高温・多湿・粉じん・薬品・防爆などの特殊条件では、筐体の保護等級、耐腐食材料、パッキン材、表面処理、熱設計を強化する。屋外避難経路では耐候性と結露対策、寒冷地では低温始動性と電池保護を考慮する。クリーンルームや医療施設では眩しさや影の少ない配光、EMC対策も重要となる。

誘導灯との違い

非常照明は「光で周辺を見えるようにする」設備であり、避難口・経路を示す誘導灯は「方向情報を表示する」設備である。両者は補完関係にあり、誘導灯のみでは段差・障害物の視認は不十分になり得るため、併用して初めて安全性が担保される。計画時は表示の視認距離と足元照度の連携を図る。

省エネとサステナビリティ

LED高効率化、スタンバイ電力低減、長寿命化によりライフサイクルでのCO2削減が可能である。さらにモジュール交換設計やリサイクル容易な材料選定により、更新時の廃棄負荷を低減できる。自己診断に基づく予防保全は無駄な交換を避け、稼働率と環境負荷の両立に寄与する。

設置・施工上の注意

耐火区画の貫通部処理、天井内温度上昇、配線の経路分離、誤結線防止、器具落下防止金具、施工後の通電試験と点灯持続試験が要点である。引渡し前に竣工図・系統図・機器台帳を整備し、点検スケジュールと交換計画を明記する。

よくある不具合と対策

  • 電池劣化による早期消灯:高温環境の是正、容量余裕の再設計、交換周期の短縮。
  • 局所的な暗部:配灯の再検討、レンズ交換、器具追加。
  • 誤作動・不点:検知回路の再調整、ノイズ対策、配線・端子の点検。