静電マット|ESD対策で機器を守る

静電マット

静電マットは、作業者や部材に蓄積した静電気を安全に逃がし、電子部品の破壊や誤作動を防止するためのESD(Electrostatic Discharge)対策用品である。作業台(ベンチ)、床面、搬送台車などに敷設し、適切な抵抗値を介して接地(アース)へ電荷を拡散させる。半導電性のゴムやPVC、多層構造シートが一般的で、表層は拡散層、裏層は導電層を成すことが多い。運用上は、共通接地点(Common Point Ground)を設け、リストストラップや機器シャーシと合わせた系として一体管理することが重要である。

機能と作用原理

静電マットの本質は、帯電体から電荷を一気に放出させず、抵抗体を介してゆるやかに接地へ導くことにある。高抵抗の表面層は電位傾斜を穏やかに保ち、点放電のリスクを抑える。裏層はより低抵抗で電荷を集め、接地線へと導く。結果として、作業者がマットに触れた際や部品を置いた際に、電位差が縮小し、ESD損傷の発生確率が低下する。

種類(導電性・拡散性・帯電防止)

  • 導電性タイプ:体積抵抗が低く、素早く電荷を逃がす。高感度デバイスを扱う場合は、局所的な急峻放電を避けるため、表層抵抗のレンジに留意する。
  • 静電拡散性タイプ:表面抵抗が10^6〜10^9Ωの範囲に設計され、電荷を穏やかに拡散させるため一般的なEPA(ESD保護区域)で広く用いられる。
  • 帯電防止タイプ:帯電しにくい特性を付与した素材。単体では接地機能が弱い場合があるため、他のESD対策と組み合わせる。

材料と構造

材質はNBRやEPDM系ゴム、PVC系樹脂、発泡材の複合などがある。二層構造(表層=拡散、裏層=導電)が主流で、耐薬品性・耐熱性・難燃性の付与も行われる。床用は耐摩耗と滑り抵抗、ベンチ用ははんだ作業に対する耐熱・耐フラックス特性を備える。端末部にはスナップや端子が設けられ、専用の接地コードで共通接地点へ接続する。

規格・評価指標

代表的な評価は表面抵抗Rs、体積抵抗Rv、接地までの抵抗Rgである。一般にEPAでは、表面抵抗10^6〜10^9Ω、接地抵抗約10^6〜10^8Ωが目安とされることが多い(運用規程に従う)。測定には表面抵抗計やメガオームメータを用い、温湿度条件(例:23℃/50%RH)を管理して再現性を確保する。

設計と敷設のポイント

  • 接地設計:マット→接地コード→共通接地点→建物アースの単一路を明確化し、二重接地や浮遊接地を避ける。
  • エッジ処理:めくれ防止の面取り、コーナーR、固定テープの選定によりトリップ(つまずき)を回避する。
  • ゾーニング:EPA境界を明確にし、マット面外への部品持ち出しを最小化する。
  • 付帯機器:リストストラップ、導電性シューズ、コート、イオナイザなどと組み合わせ、総合ESDマネジメントを構築する。

運用と保守

清掃は帯電しにくい中性洗剤と導電性モップを推奨する。ワックスや溶剤は表面抵抗を変化させるため避ける。定期点検として、日次の接地断線チェック、月次の表面抵抗測定、年次の総合監査を実施すると良い。表層の光沢変化や傷、剥離が見られた場合は性能劣化が疑われるため、交換を判断する。

よくある不具合と対策

  • 想定外の高抵抗:清掃不足やワックス残渣が原因。適正クリーニングで復帰することが多い。
  • 断線・緩み:スナップやコードの機械的疲労。定期的に外観・導通を確認する。
  • 履物の影響:絶縁性の高い靴底で効果が低下。導電性フットウェアを併用する。
  • 局所帯電:イオナイザを併設し、中和を補完する。

床用とベンチ用の使い分け

床用静電マットは耐摩耗・耐滑と歩行帯電抑制を重視し、厚みと弾性で疲労軽減も図る。ベンチ用は作業台上に敷設し、はんだ・フラックスに耐える表面特性と清掃性、部品の滑りにくさが求められる。両者とも接地は独立に確認し、共通接地点で統合管理する。

関連する周辺要素

ESD管理は単一製品では完結しない。作業者接地(リストストラップ)、機器接地、イオナイザによる空間中和、導電性容器・トレイの使用、湿度管理など、総合的な統制が必要である。機械要素では、締結部の接触抵抗やアース端子の導通も重要であり、例えばボルトの締結品質は接地の信頼性にも影響しうる。

選定手順(実務フロー)

  1. 用途定義:扱うデバイスの感度、作業プロセス、必要なESDクラスを洗い出す。
  2. 性能要件:表面抵抗レンジ、難燃・耐薬品・耐熱等の必須要件を決める。
  3. サイズ設計:作業域・動線・機器配置から寸法と継ぎ目位置を決定する。
  4. 接地計画:共通接地点、配線ルート、点検口、表示ラベルを設計する。
  5. 評価計画:受入検査(Rs/Rg)、定期測定、清掃手順、交換基準を文書化する。

安全・法規への配慮

電気的安全の観点から、漏電・感電リスクを避けるため、接地は建築設備の指針に準拠し、有資格者の監督下で行う。火気・有機溶剤を扱う区域では、難燃性や発火源管理を徹底する。表示(Ground、ESDシンボル)、立入区分、教育訓練を整備し、監査で運用実態を確認する。

導入時のチェックリスト

  • 受入:表面抵抗・接地抵抗の測定記録、材質証明、厚み・寸法の確認。
  • 施工:段差・浮き・反りの有無、配線保護、接地点ラベリング。
  • 運用:清掃剤の適合、点検周期、異常時の是正手順。

用語メモ

ESD:静電気放電。EPA:ESD保護区域。Rs:表面抵抗、Rv:体積抵抗、Rg:接地抵抗。Common Point Ground:共通接地点。イオナイザ:空間イオンにより帯電を中和する装置。