電気事業法|電力の安定供給と安全規制の根幹

電気事業法

電気事業法は、日本の電力の安定供給、料金の適正化、そして公正な競争環境を確保するための基本法である。発電・送電・配電・小売の各段階に対して制度的枠組みを与え、保安規制や設備の技術基準、市場設計、系統運用のルールを定める。2000年代以降の段階的自由化と2020年の送配電の法的分離を経て、公益性と競争促進の両立を図る構造が整備された。加えて、災害時の供給確保や広域連系の強化、需給ひっ迫時の需要抑制要請など、エネルギー安全保障上の機能も担う。

位置づけと目的

本法の目的は、電気の安定供給と電気料金の適正な水準を確保しつつ、需要家利益の保護と競争の促進を図ることである。資源エネルギー庁・経済産業大臣による監督の下、許認可・届出制度、技術基準適合、保安監督、料金規律、市場監視などの手段が運用される。公益性の高い送配電部門は中立性の確保が求められ、発電・小売は競争領域として設計されている。

規制の対象と事業区分

電気事業は、発電(卸・自家発を含む)、一般送配電(広域供給網の運用・系統接続)、特定送配電(工業団地など限定エリア)、小売電気事業(需要家への販売)に区分される。一般送配電事業者は地域独占的に送配電網を保有し、ネットワーク中立性と接続の公平性が義務づけられる。小売事業者は需要家保護規定に基づき、契約前の情報提供、苦情・紛争対応、供給停止手続の適正化などが求められる。

制度の変遷(自由化と分離)

  • 1995年以降:特定規模需要(大口)への供給自由化が段階的に開始
  • 2000年代:小売自由化の対象拡大、卸電力取引所の整備
  • 2016年:家庭を含む小売全面自由化により参入障壁が低下
  • 2020年:送配電部門の法的分離により、垂直統合の中立性リスクを緩和

これらの改革は、投資インセンティブと中立性確保のバランスをとりつつ、料金・サービスの多様化と需給調整機能の高度化を狙ったものである。

系統運用と市場制度

広域的運用は広域機関の指針のもとで行われ、計画段階から実潮流までの運用を通じて安定度を確保する。取引面では、卸電力市場(日前・時間前)、需給調整市場、容量(供給力)調達のための仕組みなどが整備され、kWh価値とkW価値を分離して適切な投資シグナルを与える設計が採られている。需給ひっ迫時には調整力の動員や公募、需用抑制要請がルール化される。

料金・託送制度

小売料金は全面自由化以降、原則自由だが、脆弱な需要家保護や市場機能の不全が懸念される場合には規律が及ぶ。送配電の託送料金は、ネットワークの効率的運営・投資回収を両立するため、規制的手法(収入上限や効率化係数等)に基づき設定される。接続検討や系統増強の費用負担ルールも定められ、先着・先負担や広域最適化の視点から見直しが行われてきた。

技術基準と保安

電気設備は「電気設備の技術基準」に適合する必要があり、系統の周波数・電圧維持、短絡電流対策、絶縁・接地、系統連系要件(低電圧・周波数変動時の耐性等)に関する規格が示される。事業者は主任技術者の選任、定期点検、トラブル報告等を通じて保安を担保し、違反時には命令・罰則が適用される。スマートメーターの設置・計量データの適正管理も重要な保安・計量インフラの一部である。

再生可能エネルギーとの関係

固定価格買取制度(FIT)などは別法で規定されるが、発電事業として系統接続・出力抑制ルールは電気事業法の枠組みと密接に連動する。系統混雑、需給調整力の確保、周波数調整力への寄与、出力変動対策(蓄電池・需給調整市場の活用)など、再エネ大量導入時代の安定供給要件が整備されている。

需要家保護・スイッチング

小売事業者は、料金メニュー・燃調条項・解約条件などの事前説明義務を負う。スイッチング手続は標準化され、スマートメーターを介した計量データの適正な第三者提供(同意管理)や、乗り換え時の連続供給確保が制度上担保される。不当表示や不招請勧誘などに対しては行政処分の対象となる。

許認可・届出・監督

発電は規模や用途に応じて届出・許可が求められ、環境影響評価や立地規制と整合する。小売は登録制で、供給能力・財務基盤・苦情処理体制などが審査要件となる。監督当局は報告徴収、立入検査、業務改善命令、最終保障供給の発動などの手段を有し、系統安定と需要家保護を両立させる。

関連法令・用語の区別

「電気用品安全法(PSE)」は家電等の製品安全・適合性を対象とし、事業運営・系統・料金を扱う電気事業法とは目的が異なる。また、エネルギー供給構造高度化法や再エネ関連法は投資・脱炭素の政策手段として連携するが、系統の中立性や保安の根幹は本法が担っている。用語の混同を避け、対象・目的・規制手段の違いを理解することが実務上重要である。