電子親和力
電子親和力は、気体状態の中性原子が1個の電子を受け取り陰イオンX⁻(g)になる過程「X(g) + e⁻ → X⁻(g)」にともなうエネルギー変化である。放出されるエネルギー量を正の値で表す慣習が一般的で、値が大きいほど原子は電子を取り込みやすい。単位はkJ/molまたはeVが用いられる。周期表では一般に周期の右側かつ上方へ向かうほど電子親和力が大きく、特にハロゲンは高い値を示す。一方、閉殻構造をもつ希ガスは小さく、場合によっては負値(付着に外部エネルギーが必要)となる。
基本概念
電子親和力は、電子1個を無限遠から原子に結合させて陰イオンを形成したときのエンタルピー(または内部エネルギー)の差で定義される。核の有効電荷、既存の電子との反発、軌道の空き状態(電子配置)が寄与し、外殻p軌道に空きがある原子は電子を受け入れて安定化しやすい。したがって電子親和力は化学結合形成や酸化還元性の直感的な指標として使われる。
符号規約と単位
電子親和力は「X(g) + e⁻ → X⁻(g)」で放出されるエネルギー量を正として示すのが慣例である(発熱ほど大きな正値)。一方、熱力学的には反応エンタルピーΔHが発熱で負となるため、文献により符号の表し方が混在する。読み手は定義を必ず確認することが重要である。数値はkJ/molとeVが併用され、1 eV ≈ 96.485 kJ/molで換算できる。
周期表における傾向
同一周期では左から右へ、同一族では下から上へ概ね電子親和力は増加する。これは有効核電荷の増大と原子半径の縮小により外部電子がより強く引かれるためである。典型元素では17族(ハロゲン)が最大級で、閉殻に1個足りない配置が大きな安定化をもたらす。金属では一般に小さく、アルカリ金属は低い。
例外と代表例
フッ素は最外殻2pが狭く電子間反発が大きいため、塩素より電子親和力がわずかに小さいという有名な例外がある。希ガスは既に閉殻であり付着による安定化が乏しく値は小さいか負となりうる。酸素・硫黄ではp軌道内の電子反発の影響が見られ、単純な単調増加からの偏差が生じる。
第2電子親和力
O⁻(g) + e⁻ → O²⁻(g)のように2個目の電子を付着させる電子親和力(第2電子親和力)は典型的に吸熱で正のエンタルピー(慣用記法では負値)となる。既に負電荷を帯びた陰イオンにさらに電子を近づけるため強い静電反発を克服する必要があるからである。このため多価陰イオンは結晶場や溶媒和など集合効果で安定化されやすい。
電気陰性度や第1イオン化エネルギーとの関係
電子親和力は「電子を受け取る容易さ」、第1イオン化エネルギーは「電子を失う困難さ」を表す。一方、電気陰性度は共有結合内で電子対を引き寄せる傾向の尺度であり、厳密には定義が異なる。ただし三者は周期表上で類似の傾向を示し、結合極性や反応性を総合的に判断する際に相補的に用いられる。
測定・推定法
- 光電子分光や光脱離を用いた陰イオンからの脱離閾値測定(アニオンPES):観測された閾値から電子親和力を決定。
- 熱化学サイクル(Born–Haber)による間接推定:格子エネルギー等と組合せて求める。
- 電子付着断面積・遅延時間法:自由電子の捕獲挙動から抽出。
固体・半導体での意味
固体物性では電子親和力χは真空準位Evacと伝導帯底ECの差χ = Evac − ECで定義され、表面・界面でのバンド整合、ショットキー障壁やオーミック接触設計の基礎量となる。材料間のχ差は電子移動方向や整流性に直結し、デバイスの立ち上がり電圧や漏れ電流評価に重要である。
負の電子親和力(NEA)
表面終端や吸着(例:H終端ダイヤモンド、Cs処理GaAs)によりEvacがECより下がると固体表面は電子親和力が負(NEA)となる。NEA表面は電子放出障壁が極めて低く、高輝度電子源、光電陰極、真空マイクロエレクトロニクスで活用される。表面汚染や終端状態の変化に敏感で運用には清浄度管理が要る。
データ利用上の注意
- 定義・符号の確認:文献により電子親和力の符号規約が異なる。
- 状態の特定:基底状態の原子・温度(0 K/298 K)・圧力条件を明記。
- 分光定数の誤差:実験法により系統誤差が変わるため比較は同系列データで行う。
- 単原子値と物質系:分子・溶液・固体では意味が異なるため混同しない。
理論的背景の補足
電子親和力の大きさは有効核電荷Z*、遮蔽、軌道半径、電子相関で決まる。量子化学では多体摂動、密度汎関数法(DFT)、結合エネルギー解析等で評価し、相対論効果は重元素で無視できない。計算値は関数形や基底関数に依存するため、実験との系統差を理解して用いるべきである。