電圧変動対策|瞬低サージから設備と品質を守る

電圧変動対策

電力系統や工場内配電では負荷の投入・遮断、モータ起動、太陽光の出力変動、系統インピーダンスの変動などにより電圧が時間的に上下する。これにより照明のちらつき、制御装置のリセット、インバータのトリップ、リレーの誤動作、過熱・寿命低下などの不具合が生じる。したがって電圧変動対策は、系統側・配電設計・機器設計・運用監視の4層で多面的に実装し、規格試験で検証することが重要である。

用語と評価指標

電圧変動は短時間のサグ(0.1~0.9 pu、数 ms~1 min)、スウェル(>1.1 pu)、瞬時電圧低下・短時間停電、長期の電圧偏差、点灯ちらつき(flicker:Pst・Plt)などに区分する。設計では目標入力範囲(例:AC 85~265 V)と許容一時低下時間(ride-through)、機器の誤動作境界(UVLO/ブラウンアウト点)、電圧変動率(%)を定義する。計測はクラスAの電力品質アナライザでIECに準拠して行い、イベント波形・統計(95パーセンタイル)・個別事象の時刻相関を記録する。

主な原因

  • 大容量モータやコンプレッサの直入れ起動、アーク溶接機やスポット溶接のパルス負荷
  • 昇降機・クレーン等の反復起動、EV充電の突入、ヒーターのサイクル制御
  • 弱い系統・短絡容量不足、変圧器タップ不適合、配線の過長・細線による電圧降下
  • 無効電力の急変、コンデンサ開閉や共振、分散電源(PV・風力)の出力揺らぎ
  • 雷・地絡・再閉路等の系統事象、近隣需要家の大負荷投入

系統・受配電レベルの対策

  • AVR/オンロードタップ切替(OLTC)による一次側目標電圧の保持、SVRで末端補償
  • 無効電力補償:分路コンデンサ+直列リアクトル、SVC/STATCOMで動的な無効電力供給
  • 電圧サグ対策機器:DVR(Dynamic Voltage Restorer)、ダブルコンバージョンUPS、瞬低補償電源(高応答インバータ+蓄電)
  • フィーダ分割・重要負荷の専用フィーダ化、並列運転の負荷分担調整、トランス容量の適正化
  • 需要家協調:大負荷の投入スケジュール化、ソフトスタータ/VFD使用の系統ルール化

配線・設備設計での低減策

電圧降下はおおむねΔV[%]≈100×I×(R cosφ+X sinφ)/Vで評価できる。主幹・幹線は余裕断面を選定し、配線長を最小化、ループインピーダンスを下げる。配電はスター配線で分岐ごとの電圧降下を独立化し、デイジーチェーンを避ける。トランスは短絡電圧%と負荷プロファイルから過渡降下をチェックし、タップ設定を見直す。起動電流の大きい負荷はソフトスタータやVFDを標準化し、同時起動を避ける。コンデンサ開閉はリアクトル付きで共振を回避し、開閉タイミングを調整する。

機器(電源・制御)設計の耐性強化

  • 広入力AC/DCとPFC:AC 85~265 V対応、低ライン時のスイッチング損失・熱設計と制御余裕を確保
  • ホールドアップ設計:エネルギ式よりCを算出(P t=0.5 C (V1^2−V2^2) → C=2P t/(V1^2−V2^2))。整流後バスのV1(通常)、V2(最低許容)から必要バルク容量・ボルト耐圧を決める
  • ブラウンアウト/UVLO:入力検出とリセット監視で不完全動作領域を避ける。ディレーティングを仕様化
  • DCバス設計:プリチャージ、インラッシュリミット(NTC/PTC/ソフトスタート)、ORing FETや理想ダイオードで電源切替時のディップを抑制
  • 制御安定化:入出力変動に対する位相余裕・利得余裕、アクティブダンピング、電流制御帯域の適正化
  • モジュール選定:ドロッパとスイッチングの組合せ、LDOは余裕電圧と熱、DCDCはトランジェント応答指標(負荷過渡ΔVと回復時間)で評価

運用・保全と監視

PQメータ(IEC 61000-4-30)を要所に設置し、イベントトリガ(サグ/スウェル/瞬断)と時刻同期で原因設備を特定する。負荷プロファイルを日・週・季節で可視化し、需要ピークや同時投入を回避する運用ルールを整備する。UPS・DVR・STATCOM等は劣化指標(内部抵抗、コンデンサESR、バッテリSOH)を点検し、ファームウェアはしきい値や復帰ロジックをログに基づき最適化する。設備更新時は短絡容量・インピーダンスを再計算し、余裕を再確認する。

規格試験と適合性評価

  • 電圧ディップ耐性:IEC 61000-4-11(AC入力機器)、-4-34(高電流設備)、-4-29(DC入力)で試験
  • フリッカ:IEC 61000-4-15の指標でPst・Pltを評価、照明・映像装置ではユーザ体感も考慮
  • EMCとの両立:高調波・THD低減(PFC/フィルタ)と電圧安定化の両立を設計審査で確認
  • 信頼性:HALT/HASSやラインディップ再現試験で誤動作・ソフトリセット・ラッチアップを摘出し、しきい値とリトライ戦略を調整

簡易計算と設計チェックの要点

  • 配線降下:DCはΔV≈I R、三相はΔV[%]式でcosφ・sinφを含め算定。電圧降下限度(例:幹線3%、分岐5%)を守る
  • ホールドアップ:負荷P、保持時間t、V1・V2からCを算定。安全率と温度特性、リプル電流許容を加味
  • 突入・順序投入:起動電流をソフトスタート化し、電源シーケンス(タイマ/ENピン)でピーク重畳を回避
  • 設定値:UVLOは最低動作電圧+余裕、過電圧は耐圧とディレーティングから設定し、ヒステリシスでチャタリング防止
  • フェールセーフ:入力低下時は安全側に停止し、復電時のラッシュ・誤動作を抑える再起動条件を明文化

現場実装のベストプラクティス

  • 重要負荷をUPSやDVRで局所保護し、系統対策と二段構えにする
  • モータ・溶接等は専用フィーダ、必要ならトランス分離で影響を局在化
  • 配電盤で電圧・電流・無効電力を常時監視し、閾値逸脱を通知・ログ化
  • 設備増設時は短絡容量・電圧降下の再評価を必須プロセス化
  • 設計審査で入力ディップ波形を想定し、回路・ファーム・運用の整合を確認

補足:計測・単位・部品選定の勘所

電圧は計測点で結果が変わるため、母線・末端・負荷端の三点で同時記録しインピーダンスを逆算する。耐圧や絶縁は規定温度でのディレーティングを前提に選定し、コンデンサはリプルと寿命曲線で余裕を確保する。ねじ締結部や端子圧着の接触抵抗も降下要因である。必要な耐圧・容量の選定では、仕様電圧に対して10~20%の設計余裕を持たせるとともに、実測データで周期的に見直す。単位系・基本量の復習にはボルトの定義と換算を参照するとよい。