陰極防食|埋設配管・鋼構造物の腐食防止

陰極防食

陰極防食は、金属を電気化学的に陰極側へと分極させ、腐食を実用上無視できる水準まで抑制する防食技術である。鋼管、貯槽、港湾構造物、海底配管、鉄筋コンクリート中の鋼材など、電解質(海水・土壌・コンクリート間隙水)に接する構造物で広く適用される。原理は「腐食は金属表面の陽極反応(溶解)と陰極反応(酸素還元・水素発生)の電気化学的対」で進むことに着目し、外部から電子を供給して金属表面の電位を腐食が進みにくい領域へ移動させる点にある。方式は主に犠牲陽極法と外部電源法(印加電流法)であり、しばしば有機被覆(塗装・テープ・ライニング)と組み合わせて総合的に防食性能を確保する。

電位制御と分極の基礎

腐食抑制は「保護電位」の達成で評価する。炭素鋼の代表的指標として、土壌環境では銅/硫酸銅参照電極(CSE)基準で約−0.85 V、海水では銀/塩化銀(Ag/AgCl)基準で約−0.80 Vが用いられることが多い。これは経験的・規範的な目安であり、環境(温度、塩濃度、酸素供給、塗膜欠陥率)や水素脆化感受性材の有無により最適点は変動する。分極により金属表面ではpH上昇や炭酸塩皮膜の形成が起こり、腐食反応の駆動力が低下する。一方で過度の分極はコーティング剥離や水素吸蔵(高強度鋼の脆化)を助長しうるため、測定と制御が要点となる。

評価・設計で用いる代表パラメータ

  • 保護電位:例として−0.85 V(CSE)や−0.80 V(Ag/AgCl)
  • 設計電流密度:土壌10–50 mA/m²、海水100–300 mA/m²(被覆欠陥率に依存)
  • IR降下(電解質抵抗による見かけ電位低下)とオフ電位補正
  • 分極抵抗、被覆健全度、環境抵抗率(ρ)

犠牲陽極法(ガルバニック法)

陰極防食のうち、外部電源を用いず、電位が鉄より卑な金属(Zn、Mg、Al合金など)を陽極として接続する方式である。陽極は自発的に溶解して電子を供給し、被保護体(鋼)を陰極に保つ。利点は装置が簡便で保守が容易、電食干渉を生じにくいこと、停電の影響を受けないことにある。課題は駆動電圧が小さく高抵抗環境や広域構造物では電流不足となりやすい点、陽極消耗に伴う交換管理が必要な点である。設計では必要総電流、陽極利用率、合金の閉路電位、形状係数、埋設抵抗(バックフィル材の有無)を勘案し、配置・本数・期待寿命を決める。

外部電源法(印加電流法)

整流器(DC電源)と不溶性陽極(MMO/Ti、Si-Fe、黒鉛など)を組み合わせ、必要電流を能動的に供給する方式である。広域・高抵抗・高負荷の対象でも所望の保護電位に到達しやすく、制御モード(定電流・定電位・自動追従)により季節変動や負荷変化へ適応できる。設計ではアノード床の配置(深井戸・分散)、土壌・海水の抵抗率、期待電流分布、IR降下、第三者設備への干渉を評価する。特に交流腐食や迷走電流、被覆下シールド(剥離下に電流が届かない現象)への配慮が要る。

設計の流れと概算の考え方

  1. 対象面積と被覆欠陥率から設計電流密度を定め、必要総電流 I を算定する。
  2. 電流分布と環境抵抗率から必要電圧(IR降下+分極余裕)を見積もり、電源容量と冗長性を設定する。
  3. 陽極材質・形状・配置を決め、期待寿命と交換計画(犠牲陽極)またはアノード床抵抗とスパークリスク(印加電流)を評価する。
  4. 配線・絶縁継手・短絡防止・計測端子箱・瞬断器(interruptor)などの付帯設計を行う。

例として、被覆鋼管 A=10,000 m²、欠陥率1%、土壌設計電流密度20 mA/m²なら必要総電流は I≈20 A となる。これに季節変動や経年劣化の余裕係数を乗じ、電源・陽極仕様を決定する。

監視・計測と保守

陰極防食の性能確認は、参照電極(CSE、Ag/AgCl)による電位測定とオフ電位の取得が中心である。IR降下を除いた実質電位を得るため、瞬断器で保護電流を周期遮断し、オフ瞬時電位を記録する。さらにクーポンや分極プローブで局部条件を模擬し、データロガや遠隔監視で経時変化を把握する。干渉対策としては排流結合、絶縁継手の適正配置、交流誘導の低減(配管・送電線の並走評価)などが挙げられる。

適用分野と材料選定の要点

  • 埋設配管・タンク底板:塗覆装と併用し、欠陥部へ電流を集中させる設計が要諦である。
  • 海洋・港湾鋼構造物:海水の低抵抗により電流は得やすいが、潮位変動帯は酸素供給が多く電流需要が大きい。
  • 鉄筋コンクリート:アルカリ環境・塩化物浸入・炭酸化の程度で設計が変わる。過防食によるアルカリ-シリカ反応や付近材への影響に留意する。
  • アルミ合金・高強度鋼:水素脆化や活性化の懸念があるため保護電位を保守的に設定する。

規格・指針と実務上の注意

実務では ISO 15589(パイプラインの cathodic protection)、NACE SP0169 系指針(現行は更新版へ継承)、各国規格・業界基準が参照される。適用にあたっては、保護電位の目安を機械的に当てはめるのではなく、環境抵抗率、被覆品質、構造幾何、溶接部・熱処理部の材質差、干渉源の有無を総合評価することが肝要である。また、過防食はコーティングの付着力低下や第三者設備の電食を誘発しうるため、設計段階から監視計画(測定点、瞬断周期、基準電極の校正、データ保存)を包含し、ライフサイクル全体で制御することが望ましい。