防爆等級
防爆等級とは、可燃性ガスや粉じんが存在する危険場所で電気機器が着火源とならないように設計・試験・表示された性能区分であり、国際規格のIEC 60079系や欧州ATEX、北米NEC/CEC、国内法令に基づいてゾーン、ガス・粉じんのグループ、温度等級、保護方式などを組み合わせて定義される指標である。
定義と目的
防爆等級の目的は、爆発性雰囲気中で機器が発する火花・高温面・電気故障による点火を防止することである。規格は危険性の定量評価と機器の許容条件を対応付け、適合表示により設置者が環境に適合した装置を選定できるようにする。
規格体系の概要
- IEC:IEC 60079シリーズが国際基盤で、機器の保護方式、温度等級、グループ、ゾーン分類、試験方法、マーキングを定める。
- ATEX:EU指令(2014/34/EU)で機器カテゴリ(1G/2G/3G、1D/2D/3D)と整合EN規格に適合する。
- 北米:NEC/CECがClass/Division/Group方式を用いるが、近年はゾーン方式も併存する。
- 国内:電気設備技術基準・JIS C 60079群がIECに整合し、労働安全衛生関連告示等と併せて運用される。
危険場所の分類(ゾーン/ディビジョン)
- ゾーン:ガス系はZone 0(常時または長時間)、Zone 1(通常時に発生しうる)、Zone 2(通常時は発生しないが異常時に発生)である。粉じん系はZone 20/21/22で同様に定義する。
- ディビジョン:北米Class I, II, IIIに対してDivision 1(常時またはしばしば)、Division 2(通常時は発生しない)である。ゾーンとの対比は完全一致しないため設計時は変換表に依拠する。
ガス・粉じんのグループ
- ガス(Group IIA/IIB/IIC):IICが最も着火容易(例:水素、アセチレン)で、要求が厳しい。IIBは中間(エチレン等)、IIAは比較的緩い(プロパン等)。
- 粉じん(Group IIIA/IIIB/IIIC):IIICは導電性粉じん(金属粉等)で要求が厳しい。IIIBは非導電性可燃粉じん、IIIAは可燃繊維等である。
温度等級(T1〜T6)
温度等級は機器の最高表面温度上限を示す。T1(450℃以下)からT6(85℃以下)まであり、ガスの自己着火温度より十分低い値でなければならない。T番号が大きいほど許容表面温度は低く、安全要求は厳しい。
保護方式(Ex記号)
- Ex d(耐圧防爆):容器内部で爆発が起きても外部に伝播させない構造である。
- Ex e(安全増防爆):通常運転時のアーク・高温を抑え、クリアランス・沿面距離等を増大させる。
- Ex i(本質安全):回路エネルギーを着火限界未満に制限する(ia/ib/icの等級がある)。
- Ex p(加圧防爆):外気より高い保護ガス圧で内部への爆発性雰囲気の侵入を防ぐ。
- Ex n/Ex ec(簡易防爆/制限安全):Zone 2向けの限定的保護である。
- Ex t(粉じん用保護):外被で粉じん侵入を制御し表面温度を管理する。
- Ex m(充填剤封入)、Ex q(砂充填)、Ex o(油浸)など用途別の方式がある。
マーキングの読み方
代表例「Ex d IIC T4 Gb」は、耐圧防爆方式、最厳ガスグループIICに適合、温度等級T4、機器保護レベルGb(Zone 1適合)を示す。「Ex t IIIC T85℃ Db」は粉じん用保護で、導電性粉じん群IIIC、表面温度85℃、Zone 21適合である。ATEXでは「II 2G Ex d IIB T4 Gb」のように機器グループII、カテゴリ2Gが付く。
機器選定の手順
- 危険場所の同定:プロセス流体、粉じんの種類、発生頻度からゾーンまたはディビジョンを確定する。
- 物質特性:爆発下限界、最小着火エネルギー、自己着火温度からグループと温度等級を決定する。
- 保護方式の選択:制御盤はEx pまたはEx d、計装はEx i、モータはEx d/e等、メンテ性とリスクで最適化する。
- マーキング整合:現場要件(例:Zone 1、IIB、T3)に対して機器表示が満足しているかを照合する。
- 付帯条件:周囲温度範囲、IP/外被、ケーブルグランド、ガス置換手順などの付記を確認する。
試験・評価と維持管理
型式試験では外被強度、間隙寸法、温度上昇、引火試験、絶縁距離などを評価する。設置後は導通・接地、グランド締結、ガス置換時の圧力・流量、隔爆継手のクリアランス、ケーブル被覆損傷、表面温度の温度計測などを定期点検する。改造・部品交換時は同等品証明を取り、適合性を損なわない。
IP等級との関係
IP等級は粉じん・水に対する侵入保護であり、着火防止の概念とは異なる。ただし粉じん用のEx tでは外被侵入を制御するため適切なIP(例:IP6X)を要求することがある。IPの高さは必ずしも防爆等級の高さを保証しないため混同しない。
よくある誤解と注意点
- 「IIC適合=どこでも使用可」ではない。ゾーンや温度等級が不一致なら使用不可である。
- Ex i機器は安全だが、非本質安全回路との結合条件やバリア要件を満たす必要がある。
- 加圧防爆ではパージ/加圧の手順・インターロックが未実施だと適合にならない。
- 北米のClass/Div機器をゾーン地区に流用する場合は適合相当性の確認が不可欠である。
関連規格・表示の読み替え
設計ではIEC 60079-0(総則)を起点に、方式別(-1x台)、粉じん(-31)、加圧(-2)、本質安全(-11)等を参照する。ATEXではカテゴリ1/2/3がZone 0/1/2等に対応し、北米Class Iはガス、Class IIは粉じん、Class IIIは繊維である。国内のJIS C 60079はIECと整合し、表示・試験の手順はほぼ共通化している。
現場適用の実務ポイント
- 図面上にゾーン境界と換気条件、発生源クラスを明示し、ケーブルトレイ経路の区分を徹底する。
- 機器マーキング、周囲温度、取付姿勢、グランドのEx適合クラス(Ex d/e/ta等)を施工要領書に記載する。
- 校正・保全手順にホットワーク許可、ロックアウト/タグアウト、ガス検知の基準値を組み込む。
- 粉じん環境では堆積厚と表面温度の相互作用を管理し、清掃周期を設計に織り込む。
国内法令・適合評価の要点
国内では技術基準省令やJIS整合規格に従い、電気機械器具防爆構造規程の枠組みに基づく評価が行われる。製造物責任・労働安全衛生の観点から、合理的なリスク低減策(設計、保護方式、運用手順、教育)を多層に組み合わせ、適合証明・試験成績書・検査記録を保管してトレーサビリティを確保することが肝要である。
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