防振ゴム
防振ゴムは、機械の振動エネルギーが床や架台、建屋へ伝わることを抑えるための弾性体である。ばね(弾性)とダンパ(減衰)の機能を併せ持ち、固有振動数を十分に低く設定して共振域を避けることで、運転周波数領域での伝達率を下げる。用途は工作機械、ポンプ、送風機、圧縮機、半導体装置、精密測定機器など多岐にわたり、据付の容易さや保守性の良さから広く利用される。
基本概念と原理
防振ゴムの基本モデルは質量・ばね・ダンパ系である。質量m、ばね定数k、減衰比ζとすると固有振動数はf_n=(1/2π)√(k/m)で与えられる。運転周波数fとの比r=f/f_nが重要で、一般にr>√2で隔離が始まり、r≧3程度で良好なアイソレーションが得られる。静たわみδはδ=W/k(Wは機器重量)で、f_nは静たわみから近似的にf_n≈(1/2π)√(g/δ)と評価できる。
材質と特性
一般的な材質はNR(天然ゴム)、CR(クロロプレン)、NBR(ニトリル)、EPDM、VMQ(シリコーン)である。耐油性が必要ならNBR、耐候・耐熱性が重視される屋外ならEPDM、広い温度範囲や低温特性ならVMQが選ばれる。硬度(ショアA)は35〜70が多く、硬度が高いほどばね定数は大きくなる。動的剛性は静的より高く出るのが一般的であり、設計時はカタログの動的データを用いる。
形状と種類
防振ゴムの形状は荷重方向や必要減衰に応じて選ぶ。圧縮型は高さ方向に荷重を受け、せん断型は大きなたわみを許容できる。金具一体型は据付が容易で、ブッシュ型は回転軸やリンクの揺動に適する。積層ゴムは薄いゴムと鋼板を交互に積層し、鉛直剛性と水平柔軟性を両立させる。
- 円筒・ダブルコーン型:汎用据付用。圧縮中心に配置しやすい。
- せん断型:低固有振動数を得やすい。変位許容量が大きい。
- ブッシュ・マウント:回転機構の防振・防音に適する。
- パッド型(板材):据付高さ変化が小さい現場で簡便。
- 積層ゴム:大変位や水平柔軟性が必要な用途に有効。
選定手順
- 機器重量Wと重心位置、支持点数nを把握し、各支持点荷重W_iを推定する。
- 目標固有振動数f_nを運転周波数fに対してr=f/f_n≧3を満たすよう設定する。
- 必要ばね定数k_iをk_i=W_i/δから求め、δはレベル出し許容範囲と行程から決める。
- 候補マウントの動的剛性と許容荷重、変位量を照合し、最大変位時の安全率を確認する。
- 環境条件(温度、油、薬品、屋外、オゾン、紫外線)とメンテ性を評価する。
- 据付高さ、ボルト径、横荷重、抜け止めストッパの要否を確認する。
設計留意点
形状因子(荷重面積/自由側面積)は剛性とクリープ特性に影響する。形状因子が高いと圧縮永久ひずみを抑えやすいが、減衰は低下しやすい。横荷重や引張荷重がかかる場合は、金具一体型やメタルインサート付きを用いて抜けや破断を防ぐ。温度依存性により剛性・損失係数が変動するため、起動・停止の通過共振も考慮する。
据付と保守
防振ゴムは荷重中心と幾何中心が一致するよう配置し、台数ごとの荷重配分を調整する。アンカーボルトは締付けすぎによる硬化や座屈を避け、レベルシムで高さを合わせる。長期使用ではオゾン・油・紫外線で劣化し微細亀裂や硬化が進むため、定期点検でひび、座屈、永久たわみ、金具の腐食、接着剥離を確認し、異音や振動増大が見られたら交換する。
伝達率と評価
伝達率Tは周波数比rと減衰比ζで決まり、r>√2でT<1となる。実機評価では、起動〜定格まで加速度レベルを確認し、共振ピークの有無、据付前後の振動レベル差、床側の加速度スペクトルの低減量を計測する。動的剛性試験やロスファクタ測定はカタログ値の妥当性確認に有効である。
静的剛性と動的剛性の違い
ゴムは粘弾性体であり、静的剛性より動的剛性が高く、温度・周波数・ひずみ振幅で変化する。設計には必ず動的データを用い、想定運転周波数帯での実効剛性を確認する。
制振材との違い
防振ゴムは機器と床を隔離して伝達を減らすのに対し、制振材(制振ゴムや粘弾性シート)は板の曲げ振動自体のQを下げて発生源の振幅を小さくする。必要に応じて、源対策(制振)と経路対策(防振)を併用する。
よくある失敗例
- 固有振動数が高すぎ、運転周波数に近接して共振を誘発。
- 据付高さばらつきで荷重偏りが生じ、一部マウントが過負荷。
- 油滴・薬品環境で材質不適合、早期硬化や膨潤が発生。
- 横荷重・引張の想定不足で抜け防止ストッパ不設置。
- 起動・停止時の通過共振を無視し、騒音や微振動が増大。
選定の実務ポイント
カタログから候補を挙げ、各支持点のW_iと目標δからk_iを逆算して短冊評価を行う。r≧3を満たすか、許容変位内か、熱環境・油への耐性は十分か、据付高さと保守スペースは確保できるかを順にチェックする。必要に応じて二段防振(上段ゴム+下段パッド)や、せん断型の大たわみ設計で固有振動数をさらに下げる。
環境・信頼性の視点
防振ゴムの寿命は温度・ひずみ・時間の関数であり、クリープや熱老化を見込んだ設計が要る。交換容易性を考慮したボルト配置、脱落防止、識別管理(ロット・硬度表示)を行い、稼働率の高い設備では予防保全で定期交換サイクルを設定する。再資源化やRoHS対応材の採用も実務上の配慮点である。
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