鉛フリーはんだ
近年、電子機器に対する環境負荷の軽減が国際的な課題となっており、欧州を中心とした各種規制により鉛の使用制限が強化されてきた。こうした動向の中で台頭してきたのが、鉛を含まないはんだ、すなわち鉛フリーはんだである。従来のはんだは溶融温度が低く扱いやすいPb-Sn系合金が主流であったが、有害金属である鉛が人体や環境に対して潜在的リスクを抱えるため、その代替技術として各国の企業が積極的に採用してきた。本稿では鉛フリーはんだの定義や背景、合金組成や実装への影響などについて概説し、そのメリットと課題を多角的に考察する。
定義と概要
鉛フリーはんだとは、従来のSn-Pb系はんだに含まれていた鉛を除去し、スズ(Sn)を主体として他の金属元素を組み合わせた合金を指す。一般的にはSn-Ag-Cu(SAC)系やSn-Cu系、Sn-Bi系などが代表例として知られており、さまざまな用途や温度帯に応じて複数のバリエーションが存在する。はんだ付け工程では金属間接合が得られることが重要であるが、Pbを含む合金と比べると溶融温度やぬれ性などの特性が変化するため、実装条件の最適化や実装機器の調整が求められている。
採用の背景と規制
EUにおけるRoHS指令(Restriction of Hazardous Substances)やELV指令(End-of-Life Vehicles)など、製品内の有害物質使用を制限する法律の施行によって、電子機器や自動車部品での鉛使用が厳しく規制されるようになった。これを受けて産業界では、鉛含有はんだから鉛フリーはんだへの置き換えが急速に進んでいる。とりわけ環境意識の高い欧州市場に製品を展開する企業ほど、早期から実装ラインを切り替え、品質やコスト両面での課題解決に取り組んできた経緯がある。結果として、現在では世界的に鉛不使用が標準化しつつある。
合金組成と特徴
鉛フリーはんだの代表格であるSn-Ag-Cu系(SAC系)は、溶融温度が従来のSn-Pbはんだよりも高い傾向がある。一般的には217℃前後で溶融が始まり、完全に液相化するにはさらに高温が必要とされている。加えて、AgやCuなどを添加することで強度や接合信頼性が向上する一方、コストの増大や実装中の温度ストレスが問題になる場合もある。また、Sn-Bi系やSn-Cu系は他の特性とのバランスが異なり、用途や実装条件に応じて使い分けが行われている。
実装プロセスへの影響
鉛を含む合金を使用していた従来の装置や工程で鉛フリーはんだを用いる場合、リフロー炉の温度プロファイルやフラックスの選定を見直す必要がある。特にリフロー温度の上昇は、基板や部品への熱負荷を増やし、部品の熱特性によっては実装不良のリスクを高める。また、鉛フリー合金は溶融時のぬれ性が異なるため、ランド設計やソルダーペースト量の管理も従来とは異なる考慮が必要である。これらを最適化することで、従来のPb-Sn系はんだに近い実装信頼性を確保することが可能となっている。
温度管理と信頼性
鉛フリーはんだに切り替えると、接合部のクリープ破壊や繰り返し熱ストレスによる亀裂発生など、新たな故障メカニズムが顕在化するケースがある。Pb-Sn系より硬度が高い合金では、機械的ストレスが集中しやすくなるため、基板と部品の熱膨張係数の差によって接合部に生じる歪みを十分に考慮する必要がある。温度管理を適切に行い、十分なアニール処理を施すことで、結晶粒界や金属間化合物層の形成状態を制御し、破壊の進行を抑制することが重要とされている。
製造現場における課題
実装ラインで鉛フリーはんだを使う場合、金属成分の混合や装置汚染などのトラブルを防ぐため、専用設備やクリーニング体制を整備する必要がある。作業者への技術教育も欠かせず、リフロー工程の温度プロファイル管理やフラックスの塗布条件など、多岐にわたる最適化項目を理解することが求められている。さらに、製造コストの上昇を抑えるために、歩留まりと信頼性を両立させるプロセス条件の確立が現場レベルでの重要テーマとなっている。
業界動向
世界的な環境規制の強化と企業のCSR意識の高まりを背景として、多くの分野で鉛フリーはんだが標準として受け入れられている。高信頼性を求める車載・産業用途でも、熱負荷や振動への耐性を確保できる合金設計や接合手法が発展しており、次世代の実装技術としてさらなる高性能化が進められている。今後は微細実装分野の高度化とともに、ナノ粒子を用いた新規はんだ材料や低温接合技術など、多面的なアプローチによる進化が期待されている。