過熱保護|温度監視と冗長設計で安全性向上

過熱保護

過熱保護とは、電気・機械・化学プロセス機器などの温度が安全限界を超えることを検知し、損傷・火災・性能劣化・熱暴走を未然に防ぐための設計および保護機構である。対象はモータ巻線、半導体素子、電池、磁気部品、潤滑油、樹脂ケース、電解液など多岐にわたり、温度計測と遮断・降格運転・警報の制御を組み合わせる。実装は能動・受動の両方式があり、制御系のフェールセーフと冗長化、熱設計のマージン設計、規格適合性の検証が要点となる。

目的と基本概念

目的は安全確保、信頼性維持、法規制遵守、ライフサイクルコストの最小化である。基本概念は「許容ジャンクション温度・巻線温度・筐体温度」を超える前に、①検知(測温)、②判断(閾値比較・推定)、③応答(遮断・制御・警報)を確実に実行することにある。熱容量・放熱経路・周囲条件(標高・風量・密閉度)の変動を見込んだ閾値設定が不可欠で、ヒステリシスを持つ再投入条件の明確化も重要である。

過熱の発生メカニズム

  • 電気起因:過電流、短絡、接触抵抗増大、パワーサイクルによる損失増加
  • 熱設計起因:放熱面積不足、熱界面材の劣化、ダクト詰まり、ファン停止
  • 環境起因:高周囲温度、直射日光、粉じん堆積、密閉筐体
  • 化学・機械起因:潤滑不良による摩擦発熱、反応系の発熱遅延、ポンプ空運転

主なハードウェア保護素子

  • 温度ヒューズ(TCO):所定温度で不可逆開放し電源を遮断する。一次保護に適す。
  • バイメタルサーモスイッチ:オン・オフの再起動型。モータやトランスに実装される。
  • PTCサーミスタ:温度上昇で抵抗が急増し電流を抑制。ソフトスタートや自己復帰に有効。
  • NTCサーミスタ:測温用途。応答が速く計測・制御向き。
  • サーマルリレー:巻線温度推定と連動しモータをトリップ。過負荷保護に用いる。
  • ヒートスプレッダ/ヒートシンク:温度上昇率を低減する受動対策として併用。

ソフトウェア・制御系による保護

MCU/FPGA/アナログ比較器により連続監視し、臨界温度到達前にデレーティング(出力制限)、PWM占有率の低減、ファン制御、インターロック遮断を行う。複数点測温(素子直上・吸気・排気・基板)による推定や、RC熱モデル・カロリーメトリの実装で熱時定数を補償する。ソフトは暴走時の監視喪失を想定し、ハードウェア比較器・独立電源の二重化を組み込む。

閾値設定とマージン設計

閾値Ttripは許容温度Tmaxから製造ばらつき・経年劣化・測定誤差・環境上振れを差し引いて設定する。一般に「定格設計」に基づき、連続運転点はTmax−ΔS(安全余裕)内へ収める。ΔSは用途により10〜30 K程度を目安にし、起動・突入時は一時的超過を時定数で評価する。「マージン設計」によりケーブル引き回しや基板層構成の変更で熱抵抗Rthを下げる。

センサ配置と応答時間

最も高温になるホットスポット付近へセンサを配置する。半導体はジャンクションに近い裏面、モータはスロット内巻線、電池はセル缶側面やタブ近傍が代表例である。応答は「検知遅れ(τ)」「判定周期」「遮断遅れ」の合成で決まるため、最悪条件での温度上昇率dT/dtに対してTtrip−T現在>(dT/dt)×遅れを満たす必要がある。

冗長化とフェールセーフ

一次保護(温度ヒューズなど)と二次保護(制御遮断)を直列で組み合わせ、単一故障で危険側にならないよう設計する。センサ断線検知、A/D飽和検出、異常時の出力ゼロ化、電源喪失時の遮断保持(ノーマリークローズ回避)などを実装する。診断ログと自己テスト(パワーオン時のセンサ健全性チェック)も有効である。

規格・適合性の観点

家電・産機・車載で参照する規格はJIS/IECやUL群が中心で、クリアランス・沿面距離、難燃材、トラッキング、異常試験(ブロックファン、吸気閉塞、電源過昇)などが求められる。評価では熱画像、熱電対多点計測、ダミーロード加熱、連続・断続運転の温度サイクルを行い、再現性確保のため治具・環境条件(周囲温度・風速)の記録を徹底する。

電池システムにおける留意点

二次電池は内部短絡や外部短絡による発熱、セル間不均一、外装密閉による蓄熱がリスクとなる。BMSでセル温度と温度勾配を監視し、急峻な上昇は即遮断、緩やかな上昇は出力制限・冷却強化とする。セル間にサーマルバリアを設け、熱伝播を遅延させる設計が望ましい。

パワーエレクトロニクスの実装例

  • IGBT/MOSFET:ジャンクション温度推定(RthJC、RthJA)とゲート制御でデレート。
  • 整流器・シャント抵抗:局所発熱を熱拡散板で分散、銅箔厚とビア密度を最適化。
  • インダクタ・トランス:銅損・鉄損の和を低減し、巻線温度クラスに適合させる。

化学プロセス・機械設備の例

撹拌槽の発熱反応は冷却水の流量監視と温調バルブの二重化で安全側へ導く。回転機は軸受温度と振動を相関監視し、摩擦発熱兆候で段階停止する。ポンプ空運転検知は吸込圧と電流の複合監視が有効である。

試験・検証の観点

  • 最悪条件試験:高周囲温度、吸気閉塞、定格超過、連続満負荷。
  • 熱暴走評価:dT/dt監視で閾値前に確実にトリップすることを確認。
  • 寿命影響:高温保管・通電の複合試験(アレニウス加速)で劣化を推定。
  • 再投入条件:温度低下後の復帰閾値と再起動遅延を規定し誤再投入を防ぐ。

よくある不具合と対策

  • センサの熱結合不良:放熱材の不足、固定不良。→熱界面材・クランプ改善。
  • 閾値過小・過大:誤トリップや保護遅延。→分布ばらつきと経年を反映して再設定。
  • 冷却系の単一点故障:ファン停止で危険側。→二重化と回転検知、フィルタ目詰まり監視。
  • 試験条件の不整合:実地とラボ差異。→周囲条件・設置姿勢の再現と校正。

設計実務のチェックリスト

  1. 許容温度(素子・材料クラス)の明確化とデレーティング方針決定
  2. 熱モデル(R-C網)と計測点配置の設計、センサ断線検知
  3. ハード遮断(一次)と制御遮断(二次)の二重化、ヒステリシス設計
  4. 異常試験項目の定義(閉塞・過負荷・冷却喪失)と合否基準
  5. 量産ばらつき・経年劣化・環境偏差を含むマージン設定
  6. 復帰条件と運転ログの記録仕様、現場保全の手順化

用語

英語ではoverheat protection、thermal cutoff(TCO)、thermal switch、thermal deratingなどと呼ぶ。設計文脈ではthermal budget、junction temperature、Rth、safe operating area(SOA)などの語が併用される。これらを正しく理解し、製品安全と信頼性向上のために過熱保護を体系的に適用することが望ましい。