過温保護|温度上昇を検知し機器を保護

過温保護

過温保護は、素子・回路・装置の温度が許容値を超える前に出力を抑制または停止して熱破壊や寿命劣化を防ぐ機能である。電源装置、モータドライブ、バッテリー管理システム(BMS)、車載ECU、情報機器など広範に実装され、信頼性設計と機能安全の基礎を成す。方法はセンサで温度を検出し、比較・判定ロジックで閾値を超えたら保護動作(出力停止、電流制限、降格運転)を発令するのが一般的である。実装はアナログ比較器とNTC/PTCサーミスタの単純回路から、MCU内蔵ADCとソフトウェア診断を組み合わせた高度な方式、さらにはIC内蔵のOTP(Over Temperature Protection)まで多岐にわたる。

動作原理

センサで実装部材の温度を電気信号に変換し、基準値と比較する。閾値超過でラッチ停止、ヒステリシス付き自動復帰、段階的ディレーティングなどの制御を行う。素子接合部の実温度は周囲温度より高く、熱抵抗と損失から導出されるため、設計時は接合—ケース—周囲の熱モデルを用いて閾値を決める。

検出素子の種類

  • NTCサーミスタ:温度上昇で抵抗低下。分圧+比較器で簡易OTPを構成しやすい。
  • PTCサーミスタ:しきい値近傍で抵抗急増。ヒータ保護や自律電流制限に有効。
  • IC温度センサ:リニア出力/デジタル出力で高精度。校正と自己診断が容易。
  • サーマルスイッチ/バイメタル:機械接点で確実に遮断。再投入には温度低下を要する。
  • パワーIC内蔵センサ:MOSFET/レギュレータに内蔵された接合温度検出で高速応答。

閾値設定とヒステリシス

過渡的な発熱やノイズでチャタリングしないよう、上限閾値と復帰閾値に差(ヒステリシス)を設ける。設計値は定格、熱抵抗、許容ジャンクション温度、周囲条件(風速、実装密度)からバックキャストして決め、サンプル評価で補正する。複数段の閾値(警告→制限→停止)を持たせると実用性が高い。

ディレーティング(降格運転)

過温保護は停止だけでなく、温度に応じてスイッチング周波数や出力電流を低減するディレーティングで部品ストレスを緩和できる。電源では電流リミットやフォールドバック、モータではトルクリミット、BMSでは充電電流の段階制御が典型である。

回路構成の要点

  • 比較器+基準:分圧したセンサ電圧をリファレンスと比較。ヒステリシスはポジティブフィードバックで形成。
  • ラッチ:SRラッチやフリップフロップで停止保持。手動リセットやパワーサイクルで解除。
  • フィルタ:RCで高周波ノイズや短時間スパイクを除去。応答遅延とのトレードオフを管理。
  • フェールセーフ:センサ断線(オープン)・短絡時に安全側へ倒れるプルアップ/プルダウン設計。

センサ設置と熱結合

測りたいのは「熱ストレスを受ける部品の接合温度」である。実装では発熱源(MOSFET、ダイオード、トランス)に最短で熱結合させ、サーマルビアや銅箔で熱を伝える。空冷では風上/風下で温度が変動するため、位置とシールドで外乱を抑える。鉛フレームや配線の自己発熱も誤差源となる。

診断と冗長化

機能安全が要求される装置では二重化や異種冗長(例:ICセンサ+NTC)を用い、開放・短絡検出、範囲逸脱監視、自己診断(センサ励起断の検出)を組み込む。ソフトウェア実装ではサンプル数平均や投票ロジックでロバスト性を高める。

バッテリー応用

リチウムイオン電池ではセル温度が安全と劣化速度を支配する。BMSは計測温度に基づき充電レートと放電電流を制限し、セル間ばらつきと熱拡散を考慮して閾値を設定する。パック内のホットスポット検出には複数ポイントのNTC配置と、筐体温とセル近傍温の二系統監視が有効である。

試験と検証

  • 温調槽試験:ランプ/ステップ応答で閾値とヒステリシスを検証。
  • 実負荷熱試験:ワーストケース損失で過温移行時間と復帰挙動を測定。
  • 校正:センサ誤差、実装ばらつき、自己発熱を補正し安全余裕を確保。

誤検出の主因

気流変動、日射、近傍ヒータの熱輻射、スイッチング損失の急増、基板の熱時定数、サーミスタ自己発熱が主因である。対策として遮熱板、黒体化回避、フィルタ定数見直し、段階閾値の採用が有効である。

規格・安全の観点

過温保護は安全規格の適合性にも直結する。情報機器や産業機器では筐体・可燃材・部品温度の限度を満たす必要があり、部品定格(温度クラス、絶縁系)を超えないよう設計・評価を実施する。量産段階ではパラメータドリフトや環境ばらつきを考慮した監視幅と診断ロジックの見直しが不可欠である。