連続炉
連続炉は、材料を連続的に投入し、一定の搬送速度で炉内ゾーンを通過させながら加熱・保持・冷却を行う熱処理設備である。生産タクトに合わせた滞留時間を確保しつつ温度・雰囲気・炉圧をゾーン別に制御することで、焼鈍、焼入れ・焼戻し、浸炭・窒化、ろう付け、焼結、乾燥・硬化などを安定した品質で量産できる。バッチ炉に比べ、段取り時間と温度変動を抑えやすく、ライン自動化やトレーサビリティとの親和性が高いのが特長である。
構造と基本概念
連続炉は一般に「装入口→予熱→加熱→保持→緩冷→急冷→排出」の直列ゾーンで構成される。各ゾーンは独立制御され、熱源(ガスバーナまたは電気ヒータ)、循環ファンやジェットノズル、断熱材、密封機構、雰囲気導入・排気系で成る。炉体のシール部やスリットは漏洩を最小化する形状とし、炉内はわずかに正圧とする。装置全体は搬送機構と一体で設計され、熱容量・熱損失・搬送荷重を同時に満足させる必要がある。
主な種類と搬送方式
- メッシュベルト炉:細物部品や焼結体の量産に適し、薄物でも均一加熱が得やすい。
- ローラーハース炉:鋼板・鋼帯・板金など平板搬送に強く、表面品質を確保しやすい。
- プッシャー炉:トレイを押送する方式で高温・高荷重に対応、焼結や浸炭処理に用いられる。
- ウォーキングビーム炉:ビレット・スラブを非接触に近い形で前進させ、スケール傷を低減する。
- トンネル窯:セラミックスの焼成で一般的。長い炉道に多数のゾーンを配置する。
- リフロー炉:電子実装用の小型連続炉。微細温度プロファイルと窒素雰囲気管理を重視する。
搬送速度は製品の必要滞留時間から逆算し、トレイ間隔や装入ピッチ、ベルト幅・ローラ径の選定と合わせて決める。速度の安定性は品質のばらつきに直結するため、閉ループ制御と負荷変動対策が重要である。
用途
- 焼鈍・応力除去:冷間加工材の軟化や組織均一化に用いる。鋼帯の連続焼鈍ラインなどで実績が多い。
- 焼入れ・焼戻し:加熱後に連続油槽・ポリマー槽・ガス急冷室へ移送し、焼戻しゾーンへ接続する。
- 浸炭・浸炭窒化・窒化:炭化水素系ガスやアンモニア分解ガスを用い、表面硬化層を形成する。
- ろう付け:銅・アルミ・ニッケル系ろう材の連続ろう付け。窒素や水素を用い酸化を抑制する。
- 焼結:粉末冶金部品の脱脂→焼結→冷却を一連で処理し、高い寸法安定性を得る。
- 乾燥・硬化:塗膜・樹脂・粉体塗装の溶融硬化や含浸樹脂のキュアに適用する。
対象材の形状・質量・反応性に応じてゾーン配置と雰囲気を最適化することで、歩留りとエネルギー効率を両立できる。
温度・雰囲気・炉圧の制御
温度は多点熱電対とPIDによるゾーン独立制御を基本とし、循環流で均熱を確保する。炉圧は装入・排出口のシールと排気量で微正圧を維持し、外気侵入と雰囲気漏洩を抑える。雰囲気は窒素、水素、エンドガス/エキソガス、アンモニア分解ガスなどを用い、酸化還元性・浸炭能・露点を監視する。露点は酸化・脱炭の指標であり、常時ロガーで記録するのが望ましい。
- 浸炭:炭化水素導入量とCO/CO2比、露点で浸炭能を管理する。
- 窒化:NH3分解率と温度プロファイルで窒化層の組成を制御する。
- ろう付け:酸素濃度と水素濃度、炉内清浄度で濡れ性とフラックス残渣を管理する。
熱効率と省エネルギー
- 断熱:ファイバーブランケットや軽量耐火材で放散熱を低減する。
- 排熱回収:レキュペレータ/蓄熱式バーナで燃焼空気を予熱し、燃料消費を削減する。
- 熱回収ループ:排ガス熱を前段予熱ゾーンや乾燥ゾーンに再配分する。
- 遮熱:装入・排出スリットのエアカーテンやスカートで放熱を抑制する。
- 電気炉最適化:ヒータゾーニングとSSR制御、待機モードの賢化でピークカットを実現する。
省エネは設備単体ではなくライン全体の熱カスケード設計で効果が最大化する。PLCやMESと連携し、負荷予測に基づく起動・停止や速度プロファイル最適化を行う。
品質管理と保全
- 温度均一性:定期的なTUS(均一性試験)とSAT(計装精度確認)でゾーン性能を検証する。
- 雰囲気健全性:酸素・露点・ガス流量の常時監視とアラーム設定を行う。
- 搬送系保全:ベルト蛇行、ローラ摩耗、チェーン伸び、トレイ歪を点検し、熱変形を管理する。
- スケール・粉塵管理:炉床やダクトの堆積物を定期清掃し、熱交換効率と安全性を確保する。
- トレーサビリティ:ロットID・速度・温度履歴・雰囲気ログを一体管理し、再現性を担保する。
不良の多くは装入率の過負荷や速度変動、シール劣化に起因する。計画保全と予兆監視を組み合わせ、OEEを継続的に改善する。
安全対策と規格
連続炉の安全は、燃焼系の安全弁・自動点火・フレームロッド監視、非常停止、パージシーケンス、LEL監視、H2/CO漏洩検知、換気設計の整合で成立する。関連規格としてISO 13577(産業用熱プロセス設備の安全)などが参照される。リスクアセスメントで異常時シナリオ(停電、ガス遮断、ベルト停止)を洗い出し、フェールセーフ動作を検証する。
設計・選定の指標
- 処理能力:必要タクトから滞留時間tを定め、炉長Lと搬送速度vの関係v=L/tで概算する。
- 温度帯と材質:最高温度、酸化・腐食環境に適合する耐熱鋼・セラミック部材を選定する。
- 雰囲気とシール:目的反応に適したガス組成とシール構造を採用し漏洩を抑える。
- 熱収支:装入熱、放散熱、排熱回収のバランスを取り、運転コストを最小化する。
- メンテナンス性:点検口、着脱式ダクト、搬送部の張力調整機構など保全容易性を確保する。
- 自動化:温度・速度・ガスの統合制御、レシピ管理、品質ログの自動記録を前提にする。
初期設計では、製品寸法分布や装入姿勢、治具熱容量が実効滞留時間に及ぼす影響を見積もることが重要である。過渡応答と立上がり時間も考慮し、負荷変動時の温度偏差を許容範囲に収める。
バッチ炉との比較(補足)
- 生産性:連続化により高い稼働率と平準化が可能。
- 柔軟性:品種切替はバッチに劣るが、レシピ切替と治具標準化で緩和できる。
- 品質:ゾーン均一性と搬送安定性によりばらつきを低減。
- 在庫:仕掛の流動化でリードタイム短縮に寄与する。
連続炉は、高いスループットと安定品質を同時に求める量産現場で威力を発揮する。設備の成否は、温度・雰囲気・搬送・安全を貫通させた統合設計と、運用現場の規律ある保全・記録・改善にかかっている。