車いす|移動と自立を支えるモビリティ

車いす

車いすは、移動に支援を要する人が自立あるいは介助により移動するための移動機器である。構成はフレーム、後輪(駆動輪)、前輪(キャスター)、着座部、フットレスト、ブレーキなどから成り、手動式と電動式に大別される。手動式はハンドリムで推進し、軽量で取り回しに優れる。電動式はモータとバッテリを搭載し、長距離・坂道での負荷を低減する。用途に応じて介助用、常用、モジュラー、屋外向け、スポーツ用などがある。設計では人体寸法、圧分散、転倒安定性、段差通過性、最小回転半径、耐久性、保守性を総合的に評価する。

構造と主要部品

  • フレーム:アルミ、スチール、チタン、カーボンで剛性と質量を最適化する。
  • 後輪・ハンドリム:推進・制動に関与し、タイヤは空気入り・ノーパンクを使い分ける。
  • キャスター:旋回性を決める。トレール量とキャスター径が直進安定と段差性能に影響する。
  • シート・バックサポート:姿勢保持と圧分散を担い、クッションはフォーム、ゲル、エアなどを選択する。
  • フットレスト・アームレスト:体圧分散と移乗性に関与し、着脱や高さ調整機構が有効である。
  • ブレーキ・転倒防止バー:固定式ブレーキとアンチチップ機構で安全性を高める。

駆動原理と運動学

手動の車いすでは推進力は手掌−ハンドリム間の摩擦で生じ、転がり抵抗は概ねF=Crr×Wで評価する(Crrは路面とタイヤの組合せで決まる係数、Wは重量)。旋回は左右差トルクにより実現し、キャスターのトレールが自己復元性を与える。重心が後軸に近いほど旋回は軽いが後方転倒マージンは小さくなるため、設計では段差乗り上げ性と安定性の妥協点を探る。

材料と製造

車いすのフレームは、一般にアルミ合金の押出・曲げ・溶接で構成する。軽量高剛性を狙う高級機ではチタンやカーボン複合材を用いる。塗装やアルマイトで耐食性を確保し、回転部はシールドベアリングで保守性を高める。電動式ではフレーム内に配線・制御ユニット・バッテリホルダを一体化して振動・水濡れ対策を行う。

シーティングとフィッティング

  1. 座面幅・奥行・背もたれ角度・フットレスト高を個人寸法に合わせる。
  2. 圧分散:坐骨・大腿部の圧力ピークをクッションで低減し、褥瘡リスクを抑える。
  3. 姿勢保持:側方支持(ラテラルサポート)、骨盤後傾対策、上肢の可動域確保を両立する。
  4. 移乗性:アームレストの跳ね上げや低いサイドフレームが有効である。

規格・評価と安全

車いすの国際的評価はISO 7176(静的安定、寸法、疲労、制動、耐久、電磁適合など)やISO 16840(シーティング関連)に基づく試験が用いられる。走行耐久、段差衝撃、腐食、燃焼性、電動系のEMCなどを確認し、実使用での故障モード(折損、リム摩耗、キャスターのシミー振動、配線断線)を予防する。使用地域の法規では歩道走行や最高速度の区分が定められる場合があるため、導入時に確認する。

設計指標と簡易計算

  • 転がり抵抗:F=Crr×W。例としてCrr=0.015、総重量W=900NならF=13.5N。
  • 登坂限界:必要推進力≈W×sinθ+Crr×W×cosθ。人力の許容トルクから最大勾配を見積もる。
  • 最小回転半径:ホイールベース、前後キャスターの配置で決まる。短いほど室内操作性が高い。
  • 段差通過:前輪径、キャスター位置、重心移動が支配的。前輪を軽く持ち上げる介助技術も重要である。

電動式の構成と制御

電動車いすはDCモータまたはBLDCと減速機で駆動し、操縦入力(ジョイスティック)を制御器が速度・加速度プロファイルに変換する。障害物検知や傾斜検出を併用して急発進・急制動を緩和し、バッテリは一般にリチウムイオンを用いてBMSでセルバランスと保護を行う。回生制動は低速域での停止安定に寄与するが、路面μや乗員姿勢に応じて制御ゲインを調整する。

人間工学とユーザビリティ

長時間使用では肩関節への負担軽減が重要で、ハンドリム径・表面処理・タイヤ空気圧の最適化が有効である。介助走行では押手高さとブレーキ位置の人間工学適合が安全性を高める。視認性向上のため反射材やライトを装着し、屋外夜間の被視認性を確保する。

利用環境とアクセシビリティ

屋内は平滑面でCrrが小さく、屋外は粗面や段差で推進力が増大する。スロープ勾配は緩やかな設計が望ましく、一般に1/12〜1/15程度が採用されることが多い。出入口幅、回転スペース、エレベータかご寸法、手すり配置など建築側条件と車いす寸法の整合が実使用感を左右する。

スポーツ用車いすの特徴

競技用では軽量・高剛性のモノコックや大きなキャンバー角で旋回応答と横安定を確保する。バスケットボール、ラグビー、陸上(レーサー)など種目によりホイールベース、キャスター位置、フットプレート形状が最適化される。衝突に備えたガード類と高強度フレームの疲労設計が要点である。

メンテナンスと耐久性

  • タイヤ・チューブ:空気圧維持で転がり抵抗と段差耐性を確保する。
  • ベアリング:定期清掃・交換で直進性と寿命を保つ。
  • フレーム・溶接部:クラック点検。異音や偏摩耗は早期の緩みの兆候である。
  • 電動系:端子腐食、コネクタ緩み、BMSログの確認で予防保全を行う。