距離継電器
距離継電器は送電線の故障点までの見かけインピーダンスを測定し、設定到達距離内で故障が発生したと判定したときに遮断器へ trip 指令を出す保護リレーである。電圧計器用変圧器(VT/CVT)と電流計器用変流器(CT)から得た相電圧 V と相電流 I から Z=V/I を推定し、あらかじめ定めた特性(インピーダンス・リアクタンス・mho など)で動作判定を行う。方向要素により前方故障のみを選択し、段階的なゾーン設定(Zone-1/2/3)で隣接線区間を含む広域のバックアップ保護を実現する。アーク抵抗や負荷侵入(load encroachment)、電力スイング、弱電源端など系統条件の影響を考慮し、零相補償や極性(polarization)を適切に選ぶことが要点である。
動作原理と測定量
距離継電器は故障ループの見かけインピーダンス |Z| を基準に動作する。三相短絡では Z≈Z1×(故障点までの距離)となり、単相地絡では零相の寄与が加わるため零相補償係数 k0={(Z0−Z1)/(3Z1)} を用いて ZAG=(Va−k0·V0)/Ia のように算出する。実機ではベクトル比較器により電圧・電流の位相と大きさを比較し、正方向の故障のみ選択するためにメモリ電圧や負相電圧を用いた極性化(memory/cross/negative-sequence polarization)を行う。CVT 過渡の影響や PT 断線監視も重要である。
特性(インピーダンス・リアクタンス・mho・四辺形)
古典的な円特性の mho は方向性を自己内包し、長距離線で有効に動作する。一方リアクタンス特性はアーク抵抗の影響を受けにくく地絡故障での距離判定が安定する。現代のデジタル保護では四辺形(quadrilateral)やオフセット mho を組み合わせ、負荷侵入回避用のブラインダ(load blinders)やスロープを持たせる。選定は線路長、系統位相角、負荷力率、SIR(source impedance ratio)などの系統条件で決まる。
ゾーン設定と到達距離
Zone-1 は当該線路の 80〜90% を瞬時動作に設定し、端末 CT/V Tや CVT 誤差、アーク抵抗に対する余裕を確保する。Zone-2 は 120〜150%(隣接線一部を含む)で時限付動作とし、Zone-3 は 200〜300% の広域バックアップで長時限とする。到達不足(underreach)を避けつつ過到達(overreach)で隣接系へ誤動作しないよう、連系保護(POTT/PUTT/DCB などの通信連動)と協調させるのが実務である。
系統条件と補正
弱電源端では故障電流が小さく見かけ Z が過大化して到達不足になりやすい。並行線の相互結合や分岐(infeed/outfeed)でも到達が変動するため、端子条件を想定した整定が必要である。零相補償は線路定数から Z1、Z0 を算出して k0 を求める。電力スイング時は負荷と同様の軌跡で特性内へ侵入し得るため PSB(power swing blocking)や OST(out-of-step tripping)を導入し、安定度維持と選択動作を両立させる。
地絡・三相故障への適用
保護ループは A-G、B-G、C-G、AB、BC、CA、3ϕ の各故障に対応して用意する。地絡系では残留電圧 V0 と零相補償を使い、相間短絡では正相ベースで判定する。アーク抵抗は単相地絡で大きく、距離の過小評価を招きやすいため、リアクタンス寄与を強めたり四辺形特性で抵抗側へ広げる設計が有効である。極性化に負相電圧を使うと健全相消失時でも方向性が安定する。
設定手順(実務フロー)
- 線路正相・零相インピーダンス(Z1、Z0)と長さ、CT/VT 比、故障電流見込みを収集する。
- 零相補償係数 k0 を算出し、地絡ループの演算式を確認する。
- Zone-1 を 0.8〜0.9pu(瞬時)に、Zone-2 を 1.2〜1.5pu(短時限)に、Zone-3 を 2.0〜3.0pu(長時限)に整定する。
- 特性形(mho/四辺形/リアクタンス)とブラインダ、スロープ、負荷侵入抑制を設定する。
- 通信連携(POTT/PUTT/DCB)の論理・時限を協調し、弱電源端対策(echo/transfer trip)を確認する。
- PSB/OST、CVT 過渡フィルタ、PT 断線監視、監視アラームを有効化する。
試験と検証
二次注入試験で各ループの到達と時限を確認し、抵抗成分 Rf を変化させてアーク抵抗の感度を点検する。端末間同期(GPS)を用いた end-to-end 試験で通信連動と時限協調を実系統条件で検証する。負荷侵入・スイング再現試験、CVT 過渡応答、PT 断線模擬も実施し、誤動作余地を縮める。故障記録(COMTRADE)とイベントログを取得し、再整定に反映する。
デジタル保護リレーの機能
最新のデジタル型 距離継電器は波形記録、故障点標定(インピーダンス法)、適応到達、シーケンス解析、故障再閉路との協調、IEC 61850 GOOSE/Sampled Values 連携、サイバーセキュリティ、自己監視を備える。PMU 連携により角周波数変動や位相差の監視も可能となり、スイング遮断禁止や脱調検出の信頼性が向上する。
典型的な誤動作要因と対策
- 電力スイングで特性侵入:PSB を有効化し、二段しきい・中心周波数追従を設定。
- 負荷侵入(力率低下時):四辺形特性+ブラインダで負荷領域を排除。
- CVT 過渡:過渡抑制フィルタと最短時限の見直し、Zone-1 を 80% 付近に抑制。
- 弱電源端の到達不足:通信連携方式(POTT/PUTT)や echo 論理を追加。
- 相互結合・分岐の影響:正確な線路定数と infeed 補正で再整定。
設計上の留意点
線路の実効長、分布定数、運用電圧、最大負荷電流、系統位相角を踏まえ、特性の中心位相を調整する。地絡用の k0 は実測・試算を整合させ、季節・温度による線路抵抗変化も念頭に置く。遮断器再閉路の時定数と協調し、開放中の健全相電圧を極性化に利用する設計とする。保全では定期的に故障データをレビューし、誤動作マージンを定量評価してしきい値を更新する。
関連要素との協調
距離継電器は過電流保護、方向地絡、周波数・電圧リレー、再閉路制御、系統安定化装置と協調して選択遮断を達成する。広域保護では通信遅延・冗長経路・時刻同期精度が整定値と直結するため、保護・通信・系統運用の三位一体で設計・試験を行うことが望ましい。