超音波洗浄機
超音波洗浄機は、液中に超音波を照射して生じるキャビテーションを利用し、微小な気泡の生成・崩壊による衝撃圧で汚れを剥離する装置である。機械要素や電子部品、医療器具、光学部品などの精密洗浄に広く用いられ、ブラシや噴流では届かない微細孔・複雑形状の内部まで均一に洗浄できる。一般に20–40 kHz帯を標準とし、80–130 kHz帯は微細パターン向け、1–3 MHz帯は微粒子レベルのコンタミ削減に使われる。洗浄液(純水、界面活性剤希釈液、溶剤系など)と温度、出力密度(W/L)、治具設計の最適化により、洗浄速度と再汚染防止を両立させるのが実務の要諦である。
作用原理(キャビテーションとマイクロストリーミング)
発振器がトランスデューサ(圧電素子)を駆動し、液中に縦波を形成する。負圧相で核気泡が成長し、正圧相で崩壊する過程で局所的に高圧・高温が発生し、汚れや吸着粒子の界面を破断する。併発するマイクロストリーミング(微小循環流)は拡散境界層を薄くし、化学的作用(界面活性剤・アルカリ・キレート等)を加速する。周波数が低いほど気泡は大きく衝撃力は強いが粗洗い向け、高周波になるほど気泡は微細化し、ダメージを抑えつつ微粒子除去に適する。
主な構成要素
装置は発振器(固定/スイープ/パルス)、トランスデューサ(ボトム/サイド貼付、ブースタ併用)、洗浄槽(SUS304/316、樹脂ライニング)、加温・循環・ろ過系、オーバーフロー、脱気機構、搬送機構(手動バスケット/コンベヤ/ロボット)で構成される。粒子管理が厳しい工程では外部循環ろ過(0.2–1 µm)や逆洗付フィルタ、オーバーフロー堰で浮上油・泡を連続排出する。
周波数・出力の設計指針
一般的な指標として、20–40 kHzは金属部品のスケール・油脂除去、68–80 kHzは精密機械・時計、120–170 kHzはプリント配線板やメムス、1–3 MHzは半導体・光学用途である。出力は槽有効容量あたりの出力密度(W/L)で評価し、立上がり時の脱気時間を考慮する。スイープ発振(±1–2 kHz)やパルスモードはホットスポットとデッドゾーンを緩和し、均一性を向上させる。
洗浄プロセス設計
基本シーケンスは、前処理(脱脂・リンス)→超音波洗浄→カスケードリンス(DI water)→乾燥(温風/真空/IPAベーパー)である。温度は一般に40–60℃が反応速度とキャビテーションのバランスが良い。気泡核の安定化や表面張力低下により、脱気と適正な薬液濃度管理が歩留りを左右する。治具は遮音・遮蔽を避け、穴開き比率と材質を最適化し、部品の向きは気泡捕捉・排液性を優先する。
脱気とコンディショニング
新液は溶存ガスが多くキャビテーションが不安定である。立上げ時はパワーを高め短時間で脱気するか、真空脱気器を併用する。運転中は補給水や薬液でガスが再溶解するため、循環脱気やオーバーフローで濃度・ガス濃度を維持する。
洗浄液と化学作用
油脂・切削油にはアルカリ系(ビルダー・キレート・界面活性剤)を、酸化皮膜・スケールには酸性系を、フラックス残渣には弱アルカリ/有機溶剤系を選ぶ。樹脂・ゴム・接着剤残渣には溶解度パラメータを照合し、基材溶出を避ける。アルミ・マグネシウム・銅合金は腐食感受性が高く、阻害剤や短時間処理で対応する。溶剤系は防爆・引火性・排気処理を厳守する。
品質管理と評価
評価指標にはNVR(Non-Volatile Residue)、粒子数(光散乱/粒子カウンタ)、接触角/表面自由エネルギー、白布ワイプ、イオン残渣(電気伝導率/IC)などがある。プロセス能力はCP/CPKで監視し、槽内音圧マップやホイルテスト(アルミ箔のピッティング均一性)で設備ばらつきを点検する。ろ過差圧、伝導率、温度、出力、周波数ドリフトはロギングして統計管理する。
装置レイアウトと治具設計
スタンドアロンから多槽インラインまで、搬送ピッチとタクトタイムに合わせて槽群を編成する。乱流と定在波による未洗浄域を避けるため、ノズル位置・吐出角度・オーバーフロー位置を最適化し、バスケットは影響断面を最小化する。大量生産ではパーティクル規格に応じたクリーンクラス(ISO Class 7–5)とエアフロー設計が必要である。
安全・環境・保守
超音波自体は水面上で急減衰するが、空気伝搬音や高周波騒音対策として防音カバーと耳栓を用意する。可燃性溶剤は防爆仕様・局所排気・静電気対策を徹底し、人体の浸漬は厳禁である。保守は槽洗浄、スケール除去、配管・ポンプの点検、トランスデューサの劣化診断(インピーダンス/感度)、発振器冷却とファン清掃、フィルタ交換を定期化する。
代表的な用途
- 機械加工部品の脱脂・切粉除去(切削油、研磨スラリーの除去)
- 電子基板・セラミック基板のフラックス・粒子除去
- 医療器具・歯科器具の前処理洗浄(滅菌前の有機物低減)
- 光学レンズ・プリズムの粒子・油膜除去
- 燃料噴射ノズル、金型、ベアリングのメンテナンス洗浄
装置選定のチェックポイント
部品材質と汚れ特性、要求清浄度(粒径・NVR)、処理量、許容ダメージ、設置スペース、薬液規制、運用コスト(電力・薬品・廃水)、保守容易性(ろ過交換・脱気効率)を定量化する。試作段階でベンチ槽によるDOEを行い、周波数・出力密度・温度・化学濃度・時間・攪拌条件の交互作用を把握してスケールアップ時のリスクを低減する。
トラブルシューティングの要点
洗浄ムラは治具遮蔽・部品密集・デッドゾーンが原因で、配置変更とスイープ幅拡大で改善する。再付着はリンス水質・流量不足、乾燥条件不適合が多い。基材ダメージは周波数低すぎ・出力過大・化学強すぎが典型で、高周波化・出力低減・薬液見直しで回避する。発振不安定はトランスデューサ剥離や液位・温度の偏差を点検する。