超音波センサー
超音波センサーは、人間の可聴域(約20 kHz)を超える音波を送受信し、対象物までの距離、移動速度、液面・粉面の高さ、存在検知などを非接触で計測するデバイスである。代表的には圧電素子を用いて40 kHz帯のパルスを放射し、対象からの反射(エコー)を検出して到達時間差を測る。音速は媒質と温度に依存するため、距離算定では温度補償が要点となる。音響は透明体や黒色体の光学的特性に左右されにくく、霧・粉塵・油煙などでも動作しやすい一方、吸音材や斜入射には弱い特性を持つ。
動作原理(ToFと音速補償)
距離は往復時間を用いるToF(Time of Flight)で算出する。基本式は d = v·t/2 であり、dは距離、vは音速、tは送信から反射受信までの時間である。空気中の音速は近似的に v ≒ 331 + 0.6T(m/s, Tは℃)で表せるため、温度センサーと組み合わせて補正する。送信直後はトランスデューサのリンギングで受信感度が低下するため、一定のブランキング時間を設ける設計が一般的である。
方式の種類(距離・速度・レベル)
- 距離測定:パルス送信とエコー受信のToFで数cm〜数mを高い再現性で測定する。
- 速度検出:連続波やバーストの周波数ずれを用いるドップラー法で接近・遠離と相対速度を得る。
- レベル計:タンクやサイロでの液面・粉面高さを非接触で連続監視する。フォームや撹拌による散乱にはフィルタリングで対処する。
主要仕様と用語
- 中心周波数:多くは40 kHz。高周波化で指向性が鋭くなるが減衰も増える。
- 測定レンジ:近距離の盲域(デッドゾーン)から最大到達距離まで。設計では盲域短縮が重要。
- ビーム角:−6 dB指向角。機械的ホーンやアレイで整形する。
- 分解能/繰返し精度:パルス幅、帯域、S/N、デジタル処理に依存する。
- 応答時間:平均化(移動平均、指数平均)やマッチドフィルタの設定でトレードオフ。
- 保護等級:屋外・自動車用途ではIP規格の防塵・防水が要求される。
信号処理とアルゴリズム
送信は数サイクルのバーストやチャープを用い、受信はトランスインピーダンス増幅→帯域通過フィルタ→整流・検波→A/D変換の流れで処理する。エコー検出には閾値判定、相関(マッチドフィルタ)、アダプティブゲイン(AGC)、マルチパス抑制、偽エコー除去などを用いる。複数エコーが得られる環境では最短エコー優先やクラスタリングで安定化させる。
回路構成(送信・受信・制御)
- 送信段:Hブリッジやプッシュプルで圧電子に数百Vppの駆動を与えることがある。絶縁やEMI対策を考慮する。
- 受信段:低雑音オペアンプでのTIA、Q値に合わせたBPF、位相検波や同期検波でS/Nを稼ぐ。
- 制御:MCU/FPGAでタイムスタンプ取得、温度補償、異常診断(送受断線、ゲイン飽和)を行う。
環境要因と誤差低減
温度、湿度、気圧、風、乱流は音速と減衰に影響する。屋外では風下側でエコー低下や到達遅延が起こるため、温度だけでなく環境センサーを併設する設計が有効である。対象材質の吸音や入射角による反射損、表面粗さやフォームによる散乱も距離推定を揺らすため、ゲインスケジューリングと角度制約を併用する。
よくある誤差要因
- 斜め面での鏡面反射によるエコーロス
- 近距離のリンギング起因の盲域拡大
- 軟質・多孔質材(スポンジ、フェルト)による吸音
- 多重反射・共鳴によるピーク誤検出
自動車分野での活用
超音波センサーは駐車支援での近接障害物検知に広く使われる。車速連動の自動起動、雨滴・泥汚れ耐性のための自己診断、バンパー背面取り付け時の音響窓材の最適化がポイントである。近距離(例:0.2〜5 m)での人・柱・縁石検知に強みがあり、カメラやミリ波レーダーとのセンサフュージョンで死角補完や誤警報抑制を図る。温度補償は車載グレードの温度範囲(−40〜85℃)での安定化に必須である。
産業・ロボット用途
- レベル計測:液面・粉面の連続監視。撹拌や泡には信号処理で対応。
- 搬送・ピッキング:存在検知、位置合わせ、衝突回避。
- AGV/AMR:低速域の近接検知で安全走行を補助。
- 食品・薬品:透明容器でも検知可能で光学の弱点を補える。
選定指針(設計の勘所)
- レンジと盲域:必要最短距離と最大距離から中心周波数と駆動電圧を決める。
- 指向性:ビーム角は設置自由度と誤検出率に直結。ホーンやアレイで最適化する。
- 筐体・防水:結露・水膜で感度低下しやすく、疎水コーティングやドーム形状が有効。
- キャリブレーション:工場出荷時と現場温度での2点補正、自己診断のログ化。
用語補足
S/Nはエコー信号対雑音の比で、検出下限を規定する。ヒステリシスはチャタリング抑制に用い、しきい値上げ下げで往復判定を安定化する。AGCは距離に応じた減衰を補うための自動利得制御である。
実装と評価
プロトタイピングでは、既製モジュールで送受の基本特性を把握し、反射板・吸音材・可変角ステージを用いたビーム測定と、温湿度チャンバーでの温度依存評価を行う。量産では部品ばらつきと経時変化を考慮し、フェーズマージン確保、EMC、振動・衝撃耐性、塩水噴霧や防錆、コネクタシール性を含めた信頼性試験を計画する。
他方式との補完関係
超音波センサーは近距離に強く、透明体や暗所にも強い。一方で高速移動体や長距離には不向きになりやすい。そこでカメラやミリ波レーダー、LiDARなどと相互補完し、条件に応じた重み付け融合(確率的データフュージョン)で堅牢性を高める設計が一般的である。