表面プラズモン
表面プラズモンは、金属の表面近傍で電子と電磁波が結びつき、量子化されたプラズマ波として伝搬する現象である。金属中の自由電子群がレーザー光などの電場と共鳴し、局在的に強い電磁場を生み出す特性が知られており、微細加工技術やナノフォトニクスの発展とともに注目度が高まっている。特に光の波長以下の空間領域にエネルギーを集中できるため、分子センサや超解像顕微鏡、光通信技術など幅広い分野で応用が進んでいる。本稿では、この表面プラズモンの基礎理論や金属表面構造との関係、測定・製造技術、そして具体的な実用例までを概観する。
基礎理論とSPP
金属表面付近には自由電子が存在し、その集団運動が電磁波と強く相互作用することで表面プラズモンが励起される。特に金属誘電体界面において形成される電磁波の摂動を、surface plasmon polariton(SPP)と呼ぶ。SPPは金属表面に沿って進むため、光がそのままでは届きにくい狭い領域に高い電場強度を持つことが特徴である。マクスウェルの方程式に基づく解析では、金属の誘電率(実部と虚部)と励起する光の周波数との間に共鳴条件が存在し、この共鳴周波数付近で局在モードが励起されることで強い場の集中が生じると説明される。
抗体-抗原相互作用の最新測定技術から親和性の調整に関するかなり幅広い内容の総説💁♂️
例えば既存の方法も含めて測定方法はこれだけあります👇
【固定化リガンドを用いた技術】
① 表面プラズモン共鳴(SPR):… pic.twitter.com/lIwta67Nk3— 島らっきょう大好きバナナさん🍌 (@SimarakyoBanana) February 23, 2025
金属の種類と特性
表面プラズモンを効率よく励起するには、金や銀といった貴金属が広く用いられている。これらの金属は可視光や近赤外領域で負の実効誘電率を示すため、強いSPPの共鳴を起こしやすい。アルミニウムなども紫外線領域でプラズモン特性を有することが知られているが、酸化被膜などの影響が大きい点が課題とされている。各金属のプラズモン特性は周波数領域や損失特性が異なるため、用途に応じて最適な選択が必要となる。金は腐食耐性に優れ、バイオセンサの分野で好まれる一方、銀は損失が低く表面電場の強まりが大きいなどの長所を持つ。
細かい作業に没頭しているM2の今井君です。菅研では表面プラズモン共鳴という現象を使ったケミカルセンサの研究を進めています。センサ面である金表面への化学修飾が成功したか確認する必要がありますが、目視では不可なので、水滴を垂らして水の接触角(表面張力)をチェックしているところです。 pic.twitter.com/51mRinMpkw
— 電通大菅研究室 (@kan_uec) May 29, 2024
微細構造との相乗効果
金属表面にナノメートルオーダーのパターンを施すことで、表面プラズモンの特性を劇的に向上させられる。たとえば周期的なグレーティング構造を作製すると、一定の入射角や波長条件でSPPの励起が起こりやすくなる。さらにナノ粒子やナノホールを施したアレイ構造では、局在表面プラズモンと伝搬型プラズモンが複合的に作用し、強い電場増強効果が得られる。こうした微細構造の設計には、FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法などの数値シミュレーションが用いられ、最適なパターンや寸法を導くアプローチが一般化している。
水中の金ナノ粒子にレーザー当てたときの気泡発生の超高速度撮影https://t.co/bVT3xvoWGh
金ナノ粒子に特有の表面プラズモン共鳴と呼ばれる現象により、爆発的な蒸発の気泡ができてしぼむ。金粒子は無害だしレーザーさほど強力でなくても起きるので医療用途もある現象 pic.twitter.com/VF1ho426CU— ゆきまさかずよし (@Kyukimasa) July 12, 2018
応用事例
高い電場強度を活用して微量物質を高感度に検出するSPR(surface plasmon resonance)センサは、バイオ分析や化学計測で実用化が進んでいる。たとえば抗原抗体反応など、分子間相互作用をリアルタイムで観察するシステムに利用され、薬品開発や臨床検査の場で欠かせない存在となっている。また光学分野では超解像顕微鏡や局在光源としての応用、通信分野では金属導波管としての機能を狙う研究が行われており、次世代の高速・高密度集積デバイス実現に向けた鍵技術として位置付けられている。
中国科学院光電技術研究所の実装・後工程・研究開発向け露光装置群。ステッパーは上海微電子装備(SMEE)が開発しているので、国立研究所が開発・販売するまでもなさそう。この研究所は表面プラズモンを用いた特殊露光機も開発していて、365 nmの光で22 nmの解像度と謳っているが、汎用性はなさそう。 pic.twitter.com/EP0EMm6siv
— 田中 秀治 / Shuji Tanaka (@mems6934) September 8, 2023
測定と評価
表面プラズモンの励起状態を調べる手法としては、光学的に共鳴波長を測定するATR(Attenuated Total Reflection)法やエリプソメトリなどが代表的である。入射角度や波長を変化させ、反射率や位相変化を測定することで、金属表面近傍での共鳴条件を高精度に把握できる。また局在表面プラズモンを生じさせたナノ粒子の場合は、光散乱スペクトルのピークシフトを観測することで粒子サイズや周囲媒質の変化を検出可能である。いずれの手法も高い空間分解能や分光分解能が求められ、レーザー技術や高精度光学系の進歩が性能向上の要となっている。
太陽電池-プラズモン結合型バイオセンサー略図。ある条件で表面プラズモンが誘起されるとシリコン膜内を光が往復しないために電流値は小さい。抗体に抗原の新型コロナウイルスのタンパク質が結合すると、屈折率が変化し表面プラズモンが誘起されな… pic.twitter.com/iBXBN9eyE4
— Upacity (@app_upacity) November 11, 2021
製造技術と課題
表面プラズモンの応用を大規模に展開するためには、安定した微細加工と高品質な金属膜形成が不可欠である。フォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィーなどの従来技術では、製造コストやスループットが問題となるため、ナノインプリント技術や自己組織化手法など、安価かつ大量生産に適したパターン作製技術が模索されている。また金属表面の酸化や汚染による特性劣化の対策や、ナノスケールでの熱伝導問題など、多くのエンジニアリング課題も残されている。こうした問題を解決する新素材や新プロセスの開発が、今後のさらなる発展の鍵になると考えられている。
幅広い可能性
バイオセンサやナノ光学にとどまらず、表面プラズモンを活用したエネルギー変換やメタマテリアル、触媒反応の促進など、多彩な研究が展開されている。例えば光熱変換を利用した太陽エネルギーの高効率利用や、局在電場を利用した化学反応のスピードアップなど、従来の光学技術では困難だったアプローチが現実化しつつある。こうした波及効果は、新素材研究や機能性デバイス開発を一層加速させ、医療、環境、情報通信などさまざまな分野に革新的変化をもたらすだろう。