行|宋元期の都市商業を統制する組織

は、古代中国に起源をもつ漢字で、「すすむ」「おこなう」を中心義とし、制度史では仮設・移動・分派を示す語素として機能した。語彙史では「行為・実践」「職業集団(ギルド)」「書字の段(行)」など多義に展開し、宗教思想では修養・戒律実践の意味を担った。日本語では音読みに「ギョウ・コウ」、訓に「いく・ゆく・おこなう」をもち、文語・口語の両層で活躍する基幹語である。

字形・語義の基礎

甲骨・金文系統では交差路を示す形象が指摘され、「道をすすむ」の観念が抽象化して基礎義となった。そこから「許容されるふるまい(行い)」、さらに「規範化された手続(行式)」へと意味が伸びる。派生的に「隊伍を整えて進む」「儀礼を施行する」などの語用が確立し、語構成上は接頭的に用いて「臨時・出先・移動」を表す機能をもつ。

音韻と日本語の読み

上古漢語では複数の声調系列があり、中古以降は「xíng(すすむ)」「háng(業種・組合)」「hàng(航行)」の分化が定着した。これが日本語の音読み「ギョウ(修・行列)」「コウ(行幸・施)」「アン(人名用)」に投影され、訓読み「いく・ゆく・おこなう」は移動と実施の両義を保つ。語形成では「実・履・進・施」などのサ変名詞が高頻度で現れる。

制度史での用法:仮設・出先の機構

政治・行政語のは「臨時・移動・分局」のニュアンスを帯びる。たとえば元代の中書省(いわゆる省)は中央機関の出先として広域を統轄した。明初にも在中書省などの語が史料に見え、モビリティの高い政体運営が意識された。宋代には皇帝の駐蹕先を「在」と称し、北宋末の遷幸と南渡の過程で、この語は政治の移動性を端的に示した(関連項目:靖康の変臨安南宋)。

行省・行台の制度的位置

省は中央の「省」を外延化した装置であり、軍政・民政・財政の実施単位として機能した。「台」は監察色が濃く、台は監察や糾弾を出先で執る構えを示す。いずれも「中央の権限を携帯して移す」という原義に忠実で、移動可能な統治の技術を体現した。

行在と南宋政治

北宋末の動乱以後、皇帝の「在」は恒常的な政治拠点となり、臨安での宮廷は移動政権の定着という逆説を示した。徽宗欽宗期の動揺、岳飛や宰相群の軍政運営は、在の政治的重みを映す。

都市経済における「行」:ギルドと業種

市舶・都城経済では、「三十六」に代表される業種別の同業組合を指す。これは「座」に近い機構で、価格調整・信用供与・相互扶助・官との連絡を担った。宋都開封や南宋の臨安、さらに江淮流域(淮河)の市鎮において、物資流通と金融の基盤を提供した。

宗教・思想領域の「行」

仏教では修が中心概念で、戒定慧の体系における実践位相を表す。阿含・論書では五蘊の一つ「蘊」が意志的作用・心的形成を指し、倫理実践の基礎と接続する。儒家では「知との一致」を理想として、学習(知)を社会的実践()に転化する過程を重視した。

書字と文書の「行」

文字文化では、文章を水平に区切る単位としての「」がある。版木・巻子・冊子体のレイアウト論では数・字間・間が可読性を規定した。書法では楷・草の中庸に位置する「書」があり、可読性と運筆の躍動を両立させる。

日本語語彙の展開

近世以降、「銀座」に見られる座的組織の議論と並行して、「業(ぎょう)」の語義が職能・産業へ広がり、の「業種」義と交差した。近代文体では「実・履・施」が法令・行政術語として定着し、漢語サ変の生産力が高まった。文体論では改規則や送りが印刷実務を支えた。

語例

  • 制度:在・省・台・巡・親
  • 経済:同業・市・京・海・両替
  • 宗教:修・苦・六度万
  • 書字:改・一詩・書・字
  • 法令:施・実・履・執・進

宋代史との接点

北宋の文治政治では、儀礼や法度の「施」が統治理念の核となり、司馬光は編年史を通じて徳といを弁別した。新法・旧法の政策対立でも法の実施(施)が争点化し、旧法党とその対立勢力は社会経済に及ぶ影響を論争した。北からの圧迫が強まると、皇帝の「在」移動が政治の連続性を担保し、やがて南宋体制の確立へと接続した。

関連人物と出来事

北宋末から南宋初の動乱では、徽宗の退位と欽宗の混乱、靖康の変の衝撃、抗戦と和議をめぐる政策の揺れなど、統治の実施(施)をめぐる判断が歴史を左右した。将帥岳飛の軍政運用や江淮の補給線(淮河)の維持も、移動政権の運営に密接であった。

語義の要点整理

  1. 中心義は「すすむ」「おこなう」。ここから実施・施策・運用の意味が生じる。
  2. 制度語では「出先・仮設・移動」を表す接頭的要素として作用する。
  3. 都市経済では業種別組合=「」を指し、信用と分業の基盤を形成する。
  4. 宗教・思想では実践を意味し、修蘊などのキータームをなす。
  5. 文字文化では書字の単位「一」と書体「書」に展開する。