継電器試験器
継電器試験器は、電力系統や産業配電で用いられる保護継電器(過電流・地絡・方向・距離・差動・周波数・逆電力など)の動作値と動作時間を検証するための専用計測・電源装置である。電圧源・電流源・位相角・周波数を高精度に出力し、バイナリ入出力で継電器のトリップや接点状態を取り込み、試験手順を自動シーケンス化して記録・レポート化する。一次注入試験(CT・PTの一次側から注入)と二次注入試験(保護リレーの二次回路に直接注入)の双方に対応し、IEC 60255やIEEE C37系列の試験項目に沿った評価を再現性高く実行できる。
試験原理と出力チャネル
原理は「既知の模擬電力条件を与え、リレーの応答を計時・判定する」ことである。一般に3相電圧源(例:0〜300 V)と3相電流源(例:0〜30/100 Aレンジ)を内蔵し、各相の振幅・位相・周波数(50/60 Hz、可変)を独立制御する。位相角差により有効電力・無効電力、方向判定、逆電力条件を生成し、スロープ・ランプ・ステップ掃引で整定値(pickup)と復帰値(dropout)を求める。デジタル式はPWM・DAC制御とフィードバック計測で確度を保証し、同期試験向けにGPS/IRIG-Bや10 MHz基準に追従するモデルもある。
一次注入と二次注入
一次注入はCT・PT一次側に実負荷相当の大電流・高電圧を注入して端末までの配線・変成器・リレーの一体挙動を評価する手法である。設備実態に近いが電源容量や安全管理の負担が大きい。二次注入は保護継電器の電流端子・電圧端子へ直接模擬信号を与え、継電器単体または二次回路を対象に試験する。整定確認・工場出荷検査・定期点検では二次注入が主流で、現場受入や大規模更新時には一次注入が併用される。
代表的な試験項目
- 過電流・地絡:整定電流の確認、動作時間特性(IEC標準反限時・非常に反限時など)
- 方向性:位相角掃引で正逆方向の境界確認、偏角補正の妥当性
- 距離継電器:インピーダンス平面(R–X)でゾーン到達、円弧・直線特性の確認
- 差動継電器:制限特性(ブレーキ特性)とスロープ、遮断器投入突入電流に対する安定性
- 周波数・低周波減載:df/dt、周波数偏差に対する動作点・時間
- 過/不足電圧・逆電力・同期チェック:位相・電圧レベル・周波数窓の判定
- 開閉サーキット:トリップパルス幅、失動・誤動作の有無
試験手順(標準フロー)
- 外観・型式同定:リレー形式、定格、配線図、整定値の確認と記録
- 結線:試験器の電圧・電流出力をリレー二次端子へ接続、I/Oでトリップ接点を取り込み
- 安全確認:CT二次開放防止、アース、非常停止、漏電遮断器の準備
- ゼロチェック:出力ゼロ時のオフセット、ノイズ、基準位相の確認
- 整定試験:ランプ/ステップでpickup・dropoutを測定、ヒステリシスを算出
- 時間試験:規定入力でトリップまでの動作時間を多回測定し統計評価
- シーケンス試験:複合条件(電圧・電流・位相・周波数)を時系列で再生しロジック検証
- 判定:基準との差、合否、計測不確かさを添えて報告書出力
計測確度と不確かさ
出力確度は「±(%rdg+%FS)」表記が一般的で、短時間安定度、位相角精度、周波数精度、歪率(THD)などが合否の鍵である。不確かさは基準器の校正証明にトレースし、再現性(繰返し)、再現可能性(再構成)、温度係数、端子電圧降下、誘導・容量性負荷の影響を合成して展開する。動作時間は解像度(例:0.1 ms)と接点チャタリング判定ロジックで結果が変わるため、しきい値設定を明示する。
規格・適合性
保護リレーの試験要求はIEC 60255(measurement relays and protection equipment)やIEEE C37系列に整理されている。耐ノイズ(サージ・ESD・放射イミュニティ)、温湿度・振動、電源品質に対する動作安定性も評価対象である。継電器試験器自体は出力の電気的安全、EMC、計測器としての校正体系を満たす必要がある。
ハードウェア構成
主な構成は、可変AC/DC電圧源、定電流増幅段、位相・周波数合成器、計測フィードバック(シャント/VT)、高速デジタルI/O、非常停止、絶縁トランス、冷却系である。高電流出力は連続定格と短時間定格(例:30 A連続/100 A数秒)の双方が仕様化され、端子温度上昇と導体断面が制限要因となる。多チャネル同期制御により、三相不平衡やゼロ相成分(3I0、3V0)の再現も可能である。
ソフトウェアと自動化
テストエディタで手順をブロック化し、整定表の一括適用、ランプ速度・遅延のパラメトリック化、合否マスクの適用、リトライ条件、測定ログの自動保存を行う。SCPIや専用APIで外部PCから制御し、CSV/JSON/PDFでレポートを生成する。資産管理ではリレー台帳・整定履歴・試験履歴を紐付け、再試験間隔や不具合トレンドを可視化する。
選定ポイント
- 出力容量:想定リレーの整定電流・電圧、同時多相出力、持続定格と突入容量
- 精度・分解能:位相角・周波数の分解能、THD、時間計測の分解能
- 同期・再現:GPS/IRIG、マルチユニット同期、長時間安定度
- I/O数:トリップ接点数、電圧入力、ディジタル入力のしきい値切替
- 安全機能:非常停止、過負荷・過熱・過電流保護、絶縁監視
- 運用性:重量・携帯性、現場電源条件、GUI、レポート自動化
安全・現場上の注意
CT二次回路の開放禁止、PT二次の短絡防止、接地の統一、ロックアウト・タグアウトを徹底する。一次注入時は導体温度とクランプ締結を確認し、端子露出部の養生を行う。高出力連続運転では内部温度上昇を監視し、定格を超える条件は短時間に限定する。
トラブルシューティング
動作点が合わない場合は位相配線の誤り、CT極性、零相回路の閉路条件、電圧降下、基準位相オフセットを点検する。時間ばらつきは接点チャタリング、負荷リレーの補助電源変動、ソフトウェアの立上りエッジ検出設定が原因になりやすい。連系試験では共通接地とケーブルシールドの取り回しによるノイズ混入にも注意する。
測定回路例の要点
方向性試験では電流と電圧の位相関係(I先行/V先行)を明確に定義し、基準角を0°に正規化してから掃引する。距離継電器はR–X平面で想定線路インピーダンスをプロットし、ゾーン境界を横切るように振幅・角度を組合せる。差動は不平衡注入(Id)とブレーキ電流(Ib)を独立制御して制限特性をなぞる。
誤差要因と低減策
リレー入力端子での実効値はリード抵抗と端子接触抵抗で低下するため、近接端子での実測と補正を行う。波形歪みは動作点に影響するため、出力THDとフィルタ設定を確認する。環境温度・電源電圧変動・ウォームアップ時間は漂遊誤差の主要因であり、手順書に条件を固定化してばらつきを抑える。
記録とトレーサビリティ
測定データは時刻同期情報と機器識別子、校正証明書番号、操作者、試験条件(整定、回路図、ファームウェア版)を必ず紐付ける。これにより将来の原因解析とコンプライアンス監査で再現性・説明責任を確保できる。