細穴放電加工機|放電で難削材の微細孔を高速加工

細穴放電加工機

細穴放電加工機は、脆硬材や高硬度材に対して直径0.1〜3.0mm程度の深い貫通孔やスタート孔を高速にあける専用のEDM(Electrical Discharge Machining)である。中空パイプ状の電極を高速回転させ、加工液を内径から噴出しながら放電で材料を除去するため、切削力がかからず、熱処理後の鋼や超耐熱合金、超硬合金にも適用できる。ワイヤ放電のスタート孔、タービン翼の冷却孔、インジェクタ噴孔、金型のガス抜き孔などで広く用いられる。

原理と構成

細穴放電加工機は、電極先端と工作物の微小隙間(一般に数μm〜数十μm)でパルス放電を繰り返し、溶融・蒸発・爆散で微粒子化した金属を加工液のフラッシングで排出する。主な構成は、回転・送りスピンドル、パイプ電極チャック、電極ガイド、パワーサプライ(パルス電源)、軸制御(Z主軸+XYステージ)、加工槽、イオン交換装置付き循環フィルタである。

電極とガイド

電極は黄銅・銅・銅タングステン・タングステンが用いられる。小径・高アスペクト比では剛性と摩耗特性からタングステン系が有利である。中空パイプ電極は単孔または多孔構造で、内流による強力なフラッシングを実現する。電極ガイド(セラミックスリーブ等)は振れと曲がりを抑え、入口端面のバリや欠けの抑制に寄与する。

加工液とフラッシング

加工液は主にイオン交換水を用い、導電率は概ね5〜50μS/cmに管理する。過度に高い導電率は放電の拡散と短絡を招き、低すぎると放電の持続性が低下する。電極内からの内圧フラッシングと、必要に応じて側方からの補助フラッシングを併用し、溶融片の残留を防ぐ。

加工条件と品質

  • 孔径公差:±5〜±20μm程度(条件と材質に依存)
  • 真円度・円筒度:5〜15μm程度の実現が一般的
  • 位置精度:±0.02〜0.05mm程度(高精度治具と測定で向上)
  • 表面粗さ:Ra1〜4μm程度、条件緩和で能率優先も可
  • 再凝固層(リキャスト)厚み:おおむね5〜20μm。後工程での電解・化学処理で低減可能
  • 加工速度:材質と径により1〜30mm/min程度が目安

適用分野

  • 航空・エネルギー:ニッケル基超合金製タービンブレードの冷却孔
  • 自動車:燃料インジェクタの微細噴孔
  • 金型:ベント孔、ピン挿入用ガイド孔、ワイヤ放電のスタート孔
  • 医療・分析:微小ノズル・キャピラリの成形
  • 治具・工具:固定用の小径貫通孔(例:治具のボルト通し)

ワイヤ・形彫りとの関係

細穴放電加工機は、ワイヤ放電加工に先立つスタート孔あけで不可欠である。形彫放電は3Dキャビティの創成に適し、細穴は高アスペクト比の直線孔を得意とする。三者は役割分担が明確で、工程設計では相互補完的に用いると効率が良い。

長所と短所

  • 長所:切削力ゼロで薄壁・硬化材に適用可能、深穴でも詰まりにくい、微細径で高い再現性
  • 短所:再凝固層と熱影響、電極摩耗による径変化、加工液とフィルタの管理が必須
  • 対策:摩耗補正テーブル、段付き電極、パルス最適化、後処理(電解・化学ポリッシュ)

代表仕様の目安

  • 対応孔径:0.1〜3.0mm(特注で0.05mm級も存在)
  • 最大L/D比:100〜300程度(材質・電極剛性・ガイド条件で変動)
  • 主軸回転数:数千〜数万min⁻¹
  • 電源:30〜200V級のパルス、ピーク電流は数A〜十数A
  • 軸:Zサーボ+XYテーブル(自動位置決め、ATC/AEG搭載機もある)

加工精度を支える要素

位置決めはタッチセンスやビジョンで基準出しを行い、熱変位は短行程化・外乱遮蔽で抑える。電極摩耗は突き出し量・回転数・デューティ比の最適化と補正テーブルで管理する。ガイド先端の摩耗やチッピングは定期交換で再現性を維持する。

材質別の留意点

  • 工具鋼・焼入鋼:能率と精度のバランスが取りやすい
  • ニッケル基超耐熱合金:電極摩耗が大きく、タングステン系が有利
  • 超硬(WC-Co):放電反応が遅く、条件は微小エネルギーで安定側に設定
  • ステンレス鋼:再凝固層の残留応力に注意し、後処理で低減

測定・検査

孔径はピンゲージや空気マイクロ、内視鏡で形状・バリを確認する。真直度は投影・X線CTや三次元測定を用いる。噴孔では流量・噴霧パターン評価を併用し、機能面での合否を判定する。

運用と保全

フィルタ差圧と導電率を定期監視し、加工槽のスラッジ堆積を清掃する。電極はロット間で外径・振れを検査し、主軸コレットは摩耗・打痕を交換基準で管理する。安全面では感電防止のインタロック、飛散液対策、ミスト処理を徹底する。

補足:工程設計の要点

  1. 前加工での面粗さ・面直角度を整え、入口バリを抑制する
  2. 短いステップ送り+十分なフラッシングで詰まりを回避する
  3. 必要に応じて後処理(電解・化学)で再凝固層を低減する
  4. ワイヤ放電や形彫りと工程連携し、段取り替えを最小化する

以上の特性から、細穴放電加工機は微小径・高アスペクト比の貫通孔において代替の難しい選択肢であり、材料と機能要求に合わせた条件設計・品質管理が成果を左右する。