短絡保護
電源や配電、モータ駆動、電子機器の安全性を左右する基盤技術が短絡保護である。短絡(ショート)は、負荷を介さず低インピーダンスで電源極間が接続され、大電流・大ジュール熱・アークによる損傷や火災、系統停止を招く現象である。短絡保護は、この異常を高速に検出し、電流を遮断・制限・減衰させ、部品や配線・プリント配線板、電源、負荷、周辺環境の損壊を防ぐ設計と試験の総称である。代表的な手段はヒューズや遮断器、eFuseやホットスワップIC、電流制限回路(フォールドバック、ヒカップ)、サイリスタ式クラウバーとヒューズ協調、IGBTデサチュレーション保護、MOSFETのSOA内動作などで構成する。
短絡のメカニズム
短絡電流は電源の起電力と等価内部インピーダンス、配線・母線・接点抵抗、漏れインダクタンスで決まる。理想電圧源近似では初期di/dtが大きく、配線インダクタンスが電圧反発を生むため過渡サージが重畳する。交流ではゼロクロスが自然遮断を助ける一方、直流はアーク持続性が高く遮断難度が増す。機器側では銅箔トレースやビア、コネクタ接点のI²t許容、熱拡散、クリアランスのアーク耐量が限界要素となる。
検出方式(電流・電圧・半導体内蔵)
- シャント抵抗+コンパレータ:しきい値越えで高速トリップ。低コスト・高精度だが損失と温度係数に留意。
- ホール素子・CT:ガルバニック絶縁で高dI/dtに強い。電力系や高電圧に適す。
- MOSFET RDS(on)センシング:電圧降下から電流推定。部品点数削減だが温度補正が必要。
- IGBTデサチュレーション検出:VCE(sat)逸脱で短絡判定しゲート引き抜き。数µs級で動作。
- DCR(インダクタ直流抵抗)推定:スイッチング電源での過電流・短絡保護に利用。
主な保護素子・回路
- ヒューズ:I²t整合が要。動作カテゴリ(例:gG、aR)と遮断容量、溶断特性(速断・遅延)を回路エネルギと整合させる。関連項目:ヒューズ
- 配線用遮断器(MCB/MCCB):熱磁気式で過負荷と短絡を選択遮断。遮断容量と限流特性の整合が重要。
- eFuse/ホットスワップIC:高速電流制限、SOA保護、ヒカップ再起動、過熱連動など集積。サーバ背面やバックプレーンに有効。
- クラウバー:ツェナー+SCRで電源を強制短絡→ヒューズ溶断で永久遮断。過電圧併用で堅牢。
- PTCリセッタブル:ポリスイッチで自己復帰する電流制限。連続短絡時の発熱に注意。
設計指針とI²t協調
短絡保護は「発生源のエネルギ」と「素子の許容I²t」を突き合わせる協調設計が核である。想定最悪短絡(プロスペクティブ短絡電流)をZsourceから算出し、配線・トレース・コネクタ・半導体のパルス許容、ヒューズの溶断I²t、遮断器の限流特性、電源のコンプライアンス(電圧降下・電流制限)を総合する。ケーブル加熱と端子温度上昇、銅箔のfusing電流、アーク間隙の絶縁回復も評価対象である。
周辺部品の誤用に関する注意
TVSダイオードはサージ吸収素子であり、連続短絡の電力処理には適さない。NTCサーミスタは起動突入電流を抑えるが、短絡保護の主役にはならない。メインはヒューズ・遮断器・能動限流であり、サージ保護や突入抑制は補助で位置付ける。
直流と交流の違い
交流は半周期ごとに電流ゼロ点を持ちアーク遮断が容易だが、直流はアーク伸長・磁気吹き消し・高速限流が鍵となる。DC定格の遮断器やヒューズを選ぶこと、直列・並列アーク対策、逆起電力を考慮したスナバやフリーホイール経路の設計が不可欠である。
パワー半導体の保護
MOSFET/IGBTはSOA内動作を厳守する。ゲート抵抗とスルーレート、ミラー効果、レイアウトの寄生Lで短絡時VDS/VCEが跳ね上がるため、クランプ(RCD/TVS)、デサチュレーションシャットダウン、ゲートミラークランプ、ヒカップ制御を併用する。並列素子は電流分担と熱結合、ソース/エミッタ抵抗のデグレード防止が肝要である。
バッテリーシステムにおける短絡保護
BMSはセル電圧・電流・温度監視と高速短絡判定を備え、接触器やソリッドステートリレーを開放する。プリチャージ抵抗でコンデンサ群の突入を抑え、外部短絡時はミリ秒未満で遮断する。セル間ヒューズやモジュールヒューズ、母線設計、シャントのレイアウトは熱拡散とクリアランス・クリーぺージを満たすこと。関連項目:セル電圧、セル温度
評価・試験の観点
- 想定短絡点(出力端・内部ノード・外部ハーネス)での実機試験:温度計測、アーク挙動、煙・発火有無。
- I²tマージン測定:ヒューズ・配線・半導体の許容に対する比率評価。
- 規格整合:装置カテゴリに応じてIEC/UL(例:UL248、IEC60127、IEC62368-1)や機能安全(IEC61508、ISO26262)の要求に適合。
実務のチェックリスト
- 最悪条件のプロスペクティブ短絡電流を算出し、保護素子の遮断容量・I²tと整合させる。
- レイアウトでループ面積と寄生Lを最小化し、クランプとスナバを配置する。
- 直流系はDC定格の遮断器・ヒューズを選定し、アーク対策を実装する。
- 能動限流(フォールドバック/ヒカップ)と受動遮断(ヒューズ/遮断器)を階層化する。
- 試験で温度・アーク・煙を確認し、再発防止設計(原因木)を残す。関連項目:バッテリーセルバランス、クーロンカウンタ