盛板|モルタル・パテを載せ運ぶ作業板

盛板

盛板とは、劣化や損傷を受けた鋼板や構造部材の所定範囲を、母材を撤去せず外側から新たな鋼板で重ね当てして補強・補修する方法、またはその貼り付ける鋼板自体を指す。船体外板、貯槽・ダクトの外板、橋梁やプラント配管のサドル近傍、設備架台のフランジ周りなど、応力集中や腐食減肉が生じやすい部位で採用される。母材交換に比べて停止期間と施工量を抑えられる反面、溶接残留応力やすきま腐食、検査アクセス性の低下といったリスクを伴うため、設計根拠と健全性評価を明示することが重要である。

適用目的と基本概念

盛板の目的は、(1)断面の有効厚みを回復して荷重支持能力を補う、(2)孔やスロット周辺の引張応力を迂回させて応力集中を緩和する、(3)局部座屈や座面圧縮を抑制する、の三点に要約できる。補修対象の減肉量や設計応力、環境条件を踏まえ、重ね板厚さ・形状・溶接種類を決める。圧力境界や疲労起点になりうる部位では、単なる貼り付けではなく、シール性・流路影響・検査性の観点を加えた判断が要る。

設計の要点(形状・寸法・開口)

  • 重ね代:補強範囲の周縁からの重ね長さは、板厚tの数倍(例:6t〜10t)を目安に取り、荷重移行のせん断流が安定するようにする。
  • 板厚:残存厚と必要断面の差分に加え、腐食代と製作公差を見込む。過大な板厚は曲げ剛性ミスマッチと溶接入熱増を招く。
  • 端部形状:角はR付けとして応力集中を避け、切欠きを連続しない。流体圧を受ける外板では涙滴状や楕円状が有利。
  • ウィープホール:密閉空間の滞液・圧力上昇を避け、腐食発見のための貫通孔(tell-tale)を計画する。

溶接・施工上の留意点

一般にすみ肉溶接が用いられるが、圧力境界や疲労感受部では全周連続とし、必要に応じて部分溶け込みや完全溶け込みを採る。開先角度・脚長は熱入力と歪み管理の妥協点で設定する。溶接順序は対称配置・コントロールパスを基本とし、局部的な引込みや波打ちを避ける。母材が古材で板厚が大きい場合は層状割れ(ラメラテア)の可能性を評価し、拘束低減やバタリングを検討する。前処理として面取り・錆落とし・素地露出、乾燥、仮付けの精度管理を徹底する。

腐食・防食と検査性

盛板は板と板の間に微小すきまを形成しやすく、すきま腐食や隙間内の濃淡電池により加速腐食が生じやすい。対策として、(1)全周溶接で水密化、(2)止端シール、(3)防食被覆の系統塗り、(4)ウィープホールで排液・点検、を組み合わせる。非破壊検査はVT(目視)に加え、溶接部はMT/PT、母材裏の減肉把握にはUT/UTMを活用する。塗覆装後の継続モニタリング計画(年次厚さ測定、塗膜ピンホール検査)を整える。

強度評価と疲労

断面強度は合成断面として扱い、せん断流q=VQ/Iに基づくすみ肉溶接の必要サイズを算出する。曲げ・面内せん断の双方で、荷重移行が周縁の溶接線に集中しないよう板形状を調整する。疲労設計では、溶接止端の応力集中、端部R、溶接未端の不連続を評価し、仕上げ(TIGドレッシング、バリ取り)でΔσ低減を図る。変動荷重を受ける橋梁や回転機器架台では、計算にS-N曲線を用い、用途に応じた設計等級を満たす。

法規・規格の扱い

圧力設備や重要構造では、適用規格が「パッチによる暫定補修」を限定的にしか認めない場合がある。恒久補修とするか、制限条件付きの暫定運用とするかを、事業者規程・JIS・協会基準・メーカー仕様に沿って文書化することが求められる。履歴管理(施工記録、材質証明、検査成績書)は将来の健全性評価の基礎となる。

代替手法との比較検討

  • 母材切替え:損傷部の切り取り・挿入板の全面溶接は最も根本的で、検査性も良いが停止期間が長い。
  • 溶射・肉盛溶接:面荒れや形状復元に有効。母材の希釈や残留応力に注意。
  • 外付けクランプ・バンド:非溶接で可逆だが、長期のクリープ・緩みと防食の両立が課題。

計画・実務の進め方

  1. 現状把握:減肉マップ、応力推定、環境(温度・塩分・湿潤)の整理。
  2. 基本設計:板厚・形状・重ね長・溶接仕様、塗覆装、検査計画の設定。
  3. 施工計画:前処理・仮付け・本溶接・後処理の手順化と品質ポイント明確化。
  4. 受入検査:寸法、外観、NDT、気密・水密(必要時)の実施。
  5. 保全:定期点検サイクルと評価指標の設定、記録の更新。

用語の整理と誤用の注意

盛板は「当て板」「補強板」「ダブラープレート(doubler plate)」「レインフォースメントパッド(reinforcement pad)」などと近接概念であるが、圧力境界の補強目的や形状・開口・検査孔の有無で使い分ける。工作機械で治具の高さを稼ぐ「かさ上げ板」や、切削時に下穴バリを抑える「捨て板」は便宜的に似た呼び方をされるが、設計根拠・要求性能が異なるため混同しない。

材料選定と熱影響

母材と異種鋼種を組み合わせると、熱膨張差や電位差による残留応力・腐食が増す。基本は同等材を選定し、不可避な場合は中間材や溶接材料で緩衝を図る。熱影響部のじん性低下や焼戻し脆性、塗膜の熱劣化も見込んで、前後の温度管理と仕上げ処理を計画する。

小規模設備での実例

配管サポートの座金部が点腐食で薄くなった場合、座面圧が高い領域だけを局部的に盛板で補う。板厚は残存厚との合算で必要強度を満たすよう選ぶ。端部Rと全周シール、ウィープホールで滞水を避け、塗覆装で系統的に保護する。停止時間が限られる現場でも、適切な設計と品質管理があれば信頼性を回復できる。