異種金属
異種金属とは、電気化学的に異なる金属同士が接触し、導電経路と電解質(雨水・海水・結露など)が存在する条件下でガルバニック(接触)腐食や接触抵抗の問題を引き起こしうる組合せを指す。金属は標準電極電位やガルバニック系列において貴卑の序列を持ち、より卑な金属がアノードとなって優先的に溶解し、貴な金属がカソードとして保護される。設計・施工・保守においては、組合せ選定、絶縁、面積比、環境(塩分・湿度)、塗膜やめっきの連続性、排水性を統合的に管理することが要諦である。
定義と電気化学的背景
二つ以上の金属が接触し、導線や構造体を介して電気的に連続で、かつ表面に電解質薄膜が存在すると、電位差により局所電池が形成される。これが異種金属接触の本質であり、アノード側で金属溶解、カソード側で還元反応(通常は酸素還元)が進む。環境のpH、溶存酸素、塩分、温度、流速、堆積物の有無が腐食速度を左右し、溶存イオンや皮膜(不動態皮膜)の安定性も影響する。
ガルバニック腐食の発生条件
- 十分な電位差:ガルバニック系列で離れた組合せほど駆動力が大きい。
- 電解質の存在:雨水・海霧・凝縮水・汚れ吸湿膜が電流の媒体になる。
- 電気的接続:金属同士、または導線等で回路が閉じること。
- 極面積比:アノード(卑金属)面積が小さく、カソード(貴金属)面積が大きいほどアノード側の腐食は加速する。
設計指針(機械・配管・建築)
- 同種で統一:可能なら材料を揃える。不可なら電位差の小さい近縁材料を選ぶ。
- 絶縁:樹脂ワッシャ、ブッシュ、ライナー、絶縁ガスケットで直接接触を避ける。
- 面積比の配慮:小部品を卑、広面積を貴にしない。例えば広いCu板に小さなAlリベットは不利。
- 排水・通気:水切りを設け、滞留・毛細管作用・隙間を減らす。
- 防食皮膜:塗装・陽極酸化・めっきは端面・切欠きまで連続させ、損傷部を早期補修する。
- 陰極防食:海水系や埋設配管では犠牲陽極や外部電源方式を検討する。
- 締結体の選定:ボルトは座面・ワッシャ・ナットの材質/めっきを揃え、アルミ母材にはZn系表面の鋼よりAl系処理やステンレスの適用可否を検討する。
- 熱膨張差:熱サイクルで塗膜割れ・すきま形成を招く素材差は避ける。
締結体における事例
Al母材に電気亜鉛めっき鋼の締結体を用いると、湿潤下でZnが先に溶解してAlを一時的に保護するが、めっき欠陥や端面露出、面積比不利でAl側が局部的に侵食されることがある。逆にSUS316小ねじを炭素鋼大板に用いると、貴なSUSがカソード、広い鋼板がアノードとなり、鋼板の孔食が進みうる。座面の絶縁、ワッシャ追加、塗膜連続性の確保が有効である。
電気・計測への影響
異種金属接触は腐食だけでなく、接触抵抗と熱起電力(Seebeck効果)による計測誤差も招く。微小信号のアースや4端子測定では、Cu-FeやCu-Niなどの接点に温度勾配があるとμV級の熱起電力が発生し、ひずみゲージや熱電対回路のゼロドリフト要因となる。等材接点、等温配置、補償導線の正用、端子の清浄保持が必要である。
溶接・ろう付けと金属間化合物
Al-Cu、Fe-Al、Ti-Feなどの異種金属接合では脆い金属間化合物が生成しやすく、接合強度や耐食性を損なう。ろう付けでは中間層や拡散バリア(Niめっき等)を介在させ、熱影響と反応層厚みを制御する。溶接では異材対応の溶加材やバタリング、摩擦攪拌接合(FSW)など工法選択が重要となる。
材料選定と規格・評価
異種金属の評価では、ガルバニック系列(海水中の序列)や標準電極電位、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)などで耐食性を比較する。大気暴露ではISO 9223の腐食環境区分を参照し、塩害・工業地帯・内陸の別を考慮する。実機では湿潤時間、塩化物堆積量、温度サイクル、締結力の維持、塗膜損傷の点検を組み合わせ、ライフサイクルコストで最適化する。
よくある組み合わせの注意点
- Al-Cu:電位差が大きく、Alが犠牲になる。電気絶縁と水切り、Al側の厚い防食皮膜が有効。
- Al-SUS316:SUSがカソードとなりAlのすきま部に局部腐食。座面絶縁と端面シールを徹底。
- Znめっき鋼-Cu配管:流下水がCuイオンを運ぶと下流のZn/Fe側で孔食を生む。配管順序・異材継手の選定に注意。
現場チェックリスト
- 接触点の特定:異材接触部位と導電経路の有無を洗い出す。
- 電解質管理:滞水・凝縮・漏水・塩分堆積の可能性を評価する。
- 面積比・形状:小さな卑金属部品が大きな貴金属に触れていないか。
- 絶縁措置:ワッシャ・ブッシュ・ガスケットの導入と劣化点検。
- 塗膜・めっき:端面・傷・切欠きのシールと補修履歴の確認。
- 保全計画:定期洗浄、塗替え、締結トルク再確認、交換周期の設定。