状態空間制御
状態空間制御は、システムの内部状態をベクトルで表し、時間領域で制御器を体系的に設計する枠組みである。連続時間系は状態方程式 ẋ = A x + B u、出力方程式 y = C x + D u で記述し、行列 A,B,C,D により多入力多出力(MIMO)を一様に扱える。極配置、最適レギュレータ(LQR)、オブザーバやカルマンフィルタを組み合わせることで、応答速度、安定余裕、外乱・雑音に対する性能を狙い通りに整形できる。
定義と基本式
状態空間表現は、状態 x(n 次元)、入力 u、出力 y を用い、ẋ = A x + B u、y = C x + D u とする。A はシステム行列、B は入力行列、C は出力行列、D は直達項を表す。伝達関数に比べ、初期値や多変数相互作用を直接扱える点が利点であり、観測できない内部量を「状態」として導入することで、制御器の設計自由度が増す。
利点と適用領域
状態空間制御は、(1) MIMO の相互干渉を行列演算で整理できる、(2) 時変・非線形への拡張が容易、(3) 予測・推定と統合した設計が可能、という利点をもつ。機械・電気・化学プロセスなど、モデルが微分方程式で与えられる分野で広く用いられる。古典的 PID の調整が困難な高速・高精度サーボ、共振回避や追従性とロバスト性の同時達成が必要な装置で効果を発揮する。
設計の流れ
- モデリング:運動方程式・回路方程式から A,B,C,D を導出し、パラメタを同定する。
- 可制御性・可観測性の確認:ランク条件で設計可否を評価する。
- 状態フィードバック:u = −K x を設計し、閉ループ極を所望位置に配置する。
- オブザーバ(推定器):y から x を推定する Luenberger オブザーバやカルマンフィルタを設計する。
- 最適化:LQR/LQG で応答とエネルギーの折衷を定量的に調整する。
- 離散化・実装:サンプリング周期、ZOH を考慮してデジタル化し、固定小数点や飽和を評価する。
状態フィードバックと極配置
状態フィードバック u = −K x により閉ループ系 ẋ = (A − B K) x を得る。可制御なら K を選んで閉ループ極(固有値)を安定領域へ移し、減衰や応答速度を整える。実務では、(1) 目標極から希望する減衰比・自然周波数を逆算、(2) 相対次数やゼロの制約を意識、(3) 入力飽和・アクチュエータ帯域を考慮してゲインの上限を見積もる、といった観点が重要である。
LQR/LQG と最適制御
LQR はコスト関数 J = ∫(xᵀQx + uᵀRu)dt を最小化する K をリカッチ方程式から求め、状態の大きさ(Q)と入力エネルギー(R)の重みで設計意図を数式化できる。出力しか計測できない場合はカルマンフィルタで状態推定を行い、LQR と組み合わせた LQG でノイズとモデル不確かさに対処する。分離定理により、レギュレータと推定器を独立に設計できる点が実装上の利点である。
オブザーバ設計
全状態が測れないとき、Luenberger オブザーバ x̂ を構成し、x̂ = A x̂ + B u + L(y − C x̂) とする。観測誤差のダイナミクスは (A − L C) に従うため、可観測なら L を選んで推定収束を速められる。プロセス雑音・観測雑音が顕著なときは、雑音共分散を用いた最適推定器であるカルマンフィルタが有効である。
離散時間系とデジタル実装
実装は離散時間が主流である。サンプリング周期 T と ZOH を前提に、(Ad,Bd,Cd,Dd) を指数行列や双一次変換で求める。設計した K、L は離散系に適合させ、量子化、計算遅延、センサ・アクチュエータの飽和とデッドゾーンを評価する。T は支配モードの時定数に対し十分に短く、ノイズ帯域と演算負荷の妥協点に設定する。
実務の勘所
モデル化誤差は不可避であるため、(1) 主要モードを残す低次元化、(2) 不確かさを含むパラメタ掃引、(3) 外乱・オフセットに対する積分動作の付加、(4) シミュレーションと周波数応答計測の往復によりロバスト性を担保する。制御仕様(立上り、オーバーシュート、整定、感度、消費エネルギー)を数値指標に落とし込み、チューニングを反復するのが要点である。
可制御性・可観測性
可制御性は [B AB A²B … Aⁿ⁻¹B] のランク、可観測性は [C; CA; …; CAⁿ⁻¹] のランクで判定する。可制御でなければ任意極配置はできず、可観測でなければオブザーバは成立しない。必要ならばセンサ構成や入出力配置を見直し、可制御・可観測サブスペースで設計を行う。
サーボ系と定常誤差
目標追従や外乱除去には積分器を追加し、拡張状態 xe = [x; ξ](ξ は誤差の積分)を導入して u = −[K KI] xe とする。これによりステップ外乱や目標変化に対する定常誤差をゼロにできる。積分器は位相余裕を減らすため、ゲイン設計とアンチワインドアップを併用する。
ロバスト性と拡張
モデル不確かさが大きい場合は、感度関数を評価しつつ LQR の重み調整や、外乱観測器、μ 解析、H∞ 設計などの拡張を検討する。また、非線形や拘束を扱う場合は MPC(Model Predictive Control)やゲインスケジューリングと組み合わせることで、状態空間制御の枠組みを保ちながら産業適用範囲を広げられる。