熱特性|物質や構造体の温度に関連した振る舞い

熱特性

熱特性とは、物質や構造体が熱を受け取る・蓄える・伝える・放射する・膨張するなど、温度に関連した振る舞いを数量化した総称である。設計・製造では、冷却・断熱・温度管理・熱変形抑制・信頼性評価の基盤情報として不可欠であり、材料選定、部品形状、表面処理、接合方法、使用環境の上限設定に直結する。代表的な指標には、熱伝導率、熱拡散率、比熱容量、線膨張係数、放射率、熱伝達係数などがある。これらの値は温度・湿度・組成・結晶方位・充填率・表面粗さ・酸化膜の有無により変動するため、単一のカタログ値だけでなく、使用条件に対応したデータの読み替えが重要である。

基本概念と主要物性値

熱特性の中心は、(1)伝わりやすさを示す熱伝導率λ[W/(m·K)]、(2)温度変化の速さを支配する熱拡散率α[m²/s]、(3)温度上昇しにくさを示す比熱容量c[J/(kg·K)]、(4)体積や長さの温度変化を示す線(体積)膨張係数αL、(5)表面の放射しやすさを示す放射率ε、(6)流体との境界での熱移動をまとめる熱伝達係数h[W/(m²·K)]である。実務では密度ρと合わせたρc(容積熱容量)や、接触面の熱抵抗Rth,cも重要である。

熱伝導と拡散の物理

固体内部の定常熱移動はFourierの法則q=−λ∇Tで表され、非定常では熱伝導方程式∂T/∂t=α∇²Tが基礎となる。設計者は境界条件(断熱・等温・対流・放射)と幾何を踏まえ、伝熱経路の直列・並列合成や熱抵抗ネットワークで概算し、必要に応じて数値解析で精緻化する。薄肉部・狭小ギャップ・接触部は局所的に支配的となるため、平均値に頼らずボトルネックを特定することが要点である。

温度依存性・異方性・非線形性

熱特性は温度に依存し、金属のλは高温で低下、セラミックスは組成・気孔で変動、高分子はガラス転移付近でcやαLが急変する。繊維強化複合材や結晶方位を持つ材料は異方性を示し、面内・厚み方向でλが大きく異なる。放射率も表面状態に強く依存し、鏡面・酸化・コーティングで大きく変わるため、表面仕様とセットで扱うべきである。

材料別の傾向(金属・セラミックス・高分子・複合材)

  • 金属: λが高く熱が回りやすい。熱膨張は中程度で、熱応力に注意。銅・アルミは放熱部材に有用。
  • セラミックス: 電気絶縁で高耐熱。AlNやSiCは高λ、Al2O3は中λ。ぜい性と熱衝撃に留意。
  • 高分子: ρcが大きく、温度で性状が変わる。繊維配向や充填材でλを調整可能。
  • 複合材: 充填材や層構成でλの異方性を設計できる。界面の熱抵抗が支配的になりやすい。

代表値の目安

金属のλは10〜400、セラミックスは1〜200、高分子は0.1〜1程度が多い(単位はいずれもW/(m·K))。設計では目安値で粗設計し、最終段階で仕様温度・方向・表面状態を反映したデータで上書きする。

測定法と規格の要点

熱伝導率は定常法(ガードヒータ法、平板比較法)と過渡法(レーザーフラッシュ法)が広く用いられる。比熱容量はDSC、膨張係数はTMA/膨張計、放射率は分光・総合法で評価する。測定治具の接触熱抵抗、含水率、試験温度範囲、試験片方向を明示し、JIS/ISO等の試験条件に準拠して再現性を確保することが肝要である。

設計への落とし込み(熱設計・熱対策)

  1. 発熱源の把握: 損失、使用デューティ、熱容量を見積もる。
  2. 熱経路設計: 高λ材料、厚み、伝熱面積、ボルト締結力でRthを低減。
  3. 界面管理: TIM(サーマルインターフェース材)でミクロ空隙を埋め、接触熱抵抗を低減。
  4. 放熱: ヒートシンク・ヒートパイプ・ベースプレートで拡散し、対流・放射を促進。
  5. 熱変形/応力: αL差による拘束を回避し、スリット・フローティング支持・クリアランスで逃がす。

表面現象の扱い

自然対流は姿勢・寸法・温度差でhが変わる。放射は面のεと相互射度に依存し、高温域では支配的となる。黒化処理やコーティングで放射を設計に取り込むと有効である。

データ取り扱いと信頼性

熱特性値は「代表値」「最低保証値」「規格値」の違いを明確にし、温度範囲・測定方法・方向性・ロットばらつきを記録する。解析では初期推定→感度分析→安全側補正の順で更新し、実機の温度計測(熱電対、IR)でモデル検証する。寿命評価では熱サイクル・熱疲労・はんだクリープ・樹脂のガラス転移を組み合わせて整合させる。

計算・単位・換算の実務

  • 容積熱容量: ρc[J/(m³·K)]は立ち上がり時間の目安。
  • 平面熱拡散長: L≈√(αt)で温度場の広がりを把握。
  • 熱抵抗合成: 直列は加算、並列は面積重みで合成。
  • 単位整合: W、m、Kの一貫性を保ち、接触面積や厚みの実寸を反映。

複合材料と界面

充填材複合ではMaxwell–Eucken等の混合則が目安となるが、界面の熱抵抗や充填分散が実測と差を生む。接着・ろう付け・焼結界面は酸化膜や粗さでRth,cが大きく変化するため、表面処理と圧締条件をセットで最適化する。

活用例と設計チェック

電子機器の放熱、金型の温調、モータの冷却、炉壁の断熱、精密機構の熱変形抑制など、用途は広い。チェック項目として、(1)想定温度域でのλ・c・αLの妥当性、(2)異方性・界面の扱い、(3)対流・放射の同時考慮、(4)実機での温度検証、(5)部品間公差と熱膨張の整合を挙げる。これらを系統的に満たすことで、熱特性を設計価値へと確実に転換できる。