無効電力補償|力率改善で損失低減・契約電力抑制

無効電力補償

無効電力補償とは、交流系において負荷の遅れ電流や進み電流が生む無効電力Qを現地で供給・吸収し、系統からの無効電力の授受を抑える手法である。これにより力率改善、送配電損失の低減、設備の有効容量の開放、母線電圧の安定化を実現する。代表的な手段は静止コンデンサ、デチューンリアクトル付き力率改善盤、同期調相機、SVCやSTATCOMなどのパワーエレクトロニクス機器である。補償は個別・群・集中の配置設計、目標力率、段階容量、高調波・共振対策、スイッチング過渡の抑制などを総合的に最適化して決める。

電力の分解と力率の基礎

交流電力は有効電力P、無効電力Q、見かけ電力Sに分解でき、ベクトル関係はS²=P²+Q²で表される。力率PF=P/S=cosφであり、誘導性負荷では電流が電圧に対し遅れるためQが正となる。Qが大きいほどPFは低下し、送電電流Iが増えてI²R損が増大、変圧器や配電線の有効容量を圧迫する。補償は負荷点でQを相殺してPFを高め、同一負荷Pで必要電流を減少させることを狙う。

補償手法の分類

最も普及するのは静止コンデンサの並列投入による遅れ無効電力の相殺である。軽負荷時の過補償にはリアクトルで吸収する。可変無効電力が必要ならサイリスタ位相制御のSVC(TCR/TSC構成)や自励式電流源のSTATCOMが有効で、電圧制御性や動特性に優れる。回転機方式の同期調相機は過渡安定度や短絡容量付与に寄与し、重電系や送電端補強で採用される。系列補償(直列コンデンサ)は送電線の有効電力伝送能力を高めるが、保護協調やサブシンクロ共振への配慮が要る。

容量設計と基本計算

力率をPF1からPF2へ改善するために必要なコンデンサ容量QcはQc=P(tanφ1−tanφ2)で見積もる(PはkW、Qcはkvar)。負荷の見かけ電力SとPFからもQ=S×sinφ、S=P/PFを用いて算定できる。配電盤単位の群補償では負荷プロファイルとステップ容量(例:5/10/20/40 kvar)を整合させ、投入段数で追従性と寿命のバランスをとる。母線電圧Vが一定なら、並列コンデンサの供給無効電力はおよそQc≈V²/Xc(系統ベース換算)であり、電圧変動に伴う供給量変化も見込む。

設置形態(個別・群・集中)

個別補償はモータ端に接続してケーブル電流を直接低減し、配線損失に最も効く。群補償は配電盤ごとに複数負荷の合成Qを扱い、設備数と制御性のバランスが良い。集中補償は受電点で系統へのQ授受を一括整流し、料金面や全体電圧安定に有利だが、末端の配線損は残る。実務では群補償を基本とし、起動頻度の高い大型モータには個別補償を併設、需要変動の大きい系には受電点で自動力率調整盤やSVC/STATCOMを組み合わせる。

制御方式とスイッチング

段切替は接触器または無接点(サイリスタ)で行う。接触器はコストに優れるが投入瞬時の突入電流・過渡過電圧に注意し、突入抑制用抵抗やゼロクロス投入を採る。サイリスタ式は無通電投入・無通電開放でトランジェントを低減し、短いデッドバンドで追従可能である。制御目標はPF(例:0.95~0.99)または母線電圧一定に設定し、電圧・電流のRMS検出と余弦演算、ヒステリシスを持つ段制御ロジックで安定化する。

高調波・共振対策

コンデンサは高調波電流を吸い込みやすく、系統インダクタンスとの並列共振で電圧THDが増大する恐れがある。対策としてデチューンリアクトル(例:5.6~7%)を直列挿入し、共振周波数を5次や7次の高調波より下へ逃がす。特定次数が卓越する場合はチューンドフィルタ(5次・7次)やC型フィルタで有効無効を両立させる。機器の誘電正接、温度上昇、端子電流、ヒューズ・遮断器の定格は高調波重畳を見込んで選定する。

過補償・電圧上昇・保護協調

軽負荷時に無効電力が過剰供給となると進み力率となり、変圧器の励磁に不利、保護継電器の動作点やインバータの過電圧マージンを圧迫する。段制御に最小運転段・遅延を設けて過補償を抑える。コンデンサは励磁突入・再投入サージへの対策として放電抵抗を内蔵し、再投入までの待ち時間を規定する。落雷・地絡時の過電圧には避雷器、遮断には適正なヒューズ・遮断器曲線を選ぶ。

電力料金・設備面の効果

力率改善は無効電力割増の低減や契約電力の抑制に直結するほか、送電電流の減少によりケーブル・トランスの銅損が低下し、温度上昇と老朽化を緩和する。PF向上で同一設備でも余力が生まれ、新規設備導入時の受電容量増強を回避できる場合がある。さらに母線電圧の維持はモータのトルク確保やインバータのDCリンク余裕確保に寄与し、製造ラインの安定稼働に資する。

分散電源とインバータの無効電力制御

PVやPCSは有効電力P出力に加えてQの出し入れが可能で、Volt-VAR(Q=f(U))やWatt-VAR(Q=f(P))の制御カーブで系統電圧のサポートを行う。昼間の高電圧時には吸収側(誘導性)に、夕方の電圧低下時には供給側(容量性)に設定することで、従来のコンデンサ盤に代わる柔軟な補償が可能である。短周期の電圧変動や突発的な負荷投入にはSTATCOMの高速応答が有効で、配電用変電所やマイクログリッドでの採用が進む。

代表的な仕様・設計チェックリスト

  • 目標PFと許容電圧変動幅(例:PF≥0.95、±5%)
  • ステップ構成(kvar、段数、応答時間、デッドバンド)
  • コンデンサ定格(電圧、kvar、温度、損失tanδ、寿命)
  • デチューン率・フィルタ方式、想定高調波スペクトル
  • CT/VTの精度と配置、演算方式(RMS、cosφ)
  • スイッチング方式(接触器/サイリスタ)、再投入管理
  • 保護・安全(ヒューズ、遮断器、避雷器、放電抵抗)
  • 据付(放熱、クリアランス、端子短絡力、メンテナンス性)